59話 ハードなカンバセーション
パーン
悲鳴があがる。
アキコに向けられた銃は撃つ瞬間、空に向かって放たれた。
「ウソつく、次はdie!」
アキコはガクガク頷いた。
「私はアキコと申します。あなたたちは何ですか?」
「私はアメリカンのマリーンコープ、海兵隊デス。私の名前はジョン・スミス、ジョンと呼んでくだサ~イ。」
「目的は何ですか?」
「私達も安全な所で暮らしたいデス。2週間前にここは誰も居なかったデス。だから準備して来ました。でモあなた達イル。邪魔デス。」
「そんな!では出て行きますので時間を下さい。」
「でもスコシ考え変えました。あなた達、ここにイテいいデス。あなた達、私達とここで暮らすデス。」
「ん?何で寝てるんだ?」
社長は意識を取り戻した。見渡すと城内1F杉村の診療所のベットで寝ている事に気がついた。隣のベットは岡が眠っていた。
社長は起き上がる時に首に激痛が走り思い出した。
「そうだった事故ったんだった。爆発音は?皆んなは?」
慌ててベットから降りる。事故のダメージがあるのか足元が覚束ずふらふらする。点滴スタンドを杖代わりに掴まりヨロヨロ歩く。
「貴方、大丈夫ですか?」
後ろからアキコの声がして首が痛むため、首を回さず身体全体で後ろを振り向く。
そこにはアキコとスミスが立っていた。
「おぅ、大丈夫だ。首がウルトラ痛ぇけどな、一応生きてる。そっちの外人さんは?」
「貴方、こちらスミスさん。スミスさん、こちら社長です。」
「Oh、社長さん、プレジデントですネ。初めましてデス。貴方がここのリーダーデスね。」
「そうだ。一体何がどうなってる?あの爆発音は?皆は無事か?」
社長はスミスに目もくれず、アキコに問いかける。
「皆は無事です。あの爆発音は放置車両を撃ったものです。城が爆破された訳では無いです。」
「そうか、無事なら良い。それで、スミスさん達は仲間として迎え入れたのか?」
「Yes、皆仲間デス。」
スミスが握手を求めてくる。
「そうか、俺の早とちりだったな。装甲車は大丈夫だったか?」
差し出された手を握り社長は話す。
「すごいshockでしたよ。ワタシモ首が少し痛いネ。hahaha!」
「申し訳ない。曲がってすぐに有ると思わなかったんでな。もう他の車が動いてる事がないから確認もせず曲がってしまった。」
「大丈夫デス。装甲車も壊れてません。」
スミスは和かに答える。
アキコの肩を借りて診療所から出て城内の畑を見ると皆いつもの様に畑仕事をしていた。
「スミスさん達はどこで寝泊まりしてるんだ?」
「城内のお寺さんに寝泊まりしてもらってます。」
「俺は何日寝てた?」
「半日くらいですかね?」
「そうか、アイツラに変な事されてないか?」
「大丈夫ですよ。ただ最初は銃を突きつけられましたけどね。」
「なにぃ?あ痛たた」
社長が一瞬怒りモードに入りかけたが首の痛みですぐに通常モードになる。
「最初はそれで、今は友好的か?何が目的なんだ?」
「分かりません。ここへは貴方と同じで安全に暮らせる可能性が高いから来たみたいです。到着前に私たちが住み着いたという事ですね。」
「うーん、まぁ向こうが仲間って態度だったらこっちも迎え入れてやろう。こちらを支配して、何かしでかすというのなら闘うがな。」
夕方に岡も首を押さえ起きてきた。ちょうど畑の横にテーブルを出し、皆で夕食をこれから食べるというタイミングだった。
「おー痛てぇ。ぶつかる瞬間、走馬灯がチラッと見えたぞ。」
岡は社長の肩を小突きながら言う。
「俺は死んだバァさんが夢に出てまだ来るなって言われて起きたぞ。岡、済まなかったな。」
社長も首を押さえ岡の肩を小突き返す。
「所で、あの外人は何者だ?」
岡は社長に囁く。
「海兵隊だとよ。安全に暮らせる場所を探しててここにたどり着いたらしいが、俺たちが先にいたって話だ。」
「だからっていきなりぶっ放すか?」
「だろ?俺もそう思ったんだが、考えが変わったんだと。“仲間に入れて下サイ”だとよ。怪しさ満点だ。」
「アイツラの装備は?」
「俺には分からん。三島が詳しいじゃないか?まぁ、武力でこちらを制圧してくるんなら、俺に考えがあるから大丈夫だ。今後は取り敢えず向こうの出方次第だな。」
「ミナサン、今日は仲間に入れてくれてありがとございマス。これも神の導きです。仲良くしまショウ。」
スミスの挨拶が始まった。
「最初、私達間違えましタ。ミステイクデース。私達は闘いのプロです。その癖が出ました。ごめんなサーイ。今日この夕食会を開いてくれた社長とアキコさんに感謝しマス。」
突然話題に出た社長は笑顔で手を振り応える。
「私の仲間は皆日本語あまりデキマセン。私だけ理解しマス。そのうち覚えマス。皆さんも英語覚えてくだサイ。」
「あー、コミュニケーションは大事だからな。そのうち意思疎通も出来るようになるだろ。じゃぁ、堅苦しい挨拶は抜きにして、食うぞ!カンパーイ!」
社長の音頭で夕食が始まった。
「やっぱり胡散臭いな、あの野郎は。」
社長が岡にこぼす。
「武器はどうなってるんだ?」
岡が社長に尋ねる。
「アキコが小学校に半分隠す様に指示したらしい。半分は取り上げられてる。」
「そのうちこっちの首根っこ抑えに来るだろうな。」
「あぁ、そんな臭いがプンプンする。」
「警戒しといて損は無いだろうな。」
「まぁ、なる様になるさ、今日は呑もう。」
一週間が経ったが海兵隊達は大人しくしていた。
だが海兵隊達は全く仕事をせず日がな1日中、木陰で酒を飲んだりトランプで遊んでたりしており、皆が不満を持ち始めた。
何人か一緒に仕事をしようと誘ったが日本語デキマセンと断られ、むしろ洗濯物を押し付けられる様な状況だった。
「おぃ!スミス。お前んとこの兵隊は仕事しねーのか?」
社長がスミスに抗議しに行った。
「私達は闘うことが仕事デス。畑や洗濯は仕事じゃありまセーン」
「ここの皆はいざとなれば闘うし、普通の作業もする。甘えてんじゃねーぞ!」
「難しい事わかりまセーン。」
「あぁ?分からん振りをするな!」
「勉強しマス。社長も勉強するデス。HaHaHaHa」
「舐め腐りやがってこの毛唐が!」
「ケトー?HaHaHaHa」
「いいか?働く、食べるOKだ!働かない、食べるNOだ!判ったか?」
「私達闘う事が仕事。今は敵がいないHaHaHaHa」
「じゃぁ、お前ら今晩から晩めし抜きだなHaHaHaHa!」
社長はスミスと同じ笑い方で笑い返すが、目だけは笑っていなかった。
夕食になると普通に海兵隊達はテーブルにつく。そこには夕食が用意されていない。海兵隊達は大声でなぜ夕食が無いと英語で喚き散らした。
「やかましい!おぃ、スミスお前コイツラに言ってやれ、働かないやつが食う飯は無いってな!」
社長はすでにブチ切れモードに入っていた。
スミスが英語で何か言うとブーブー聞こえたが大人しくなった。
「Oh社長さん、明日から畑を手伝いマス。」
「わかりゃいいんだ。おい、コイツラのメシを持ってきてやってくれ!」
社長は海兵隊達の熱い視線を受け流し指示を出す。
誰も喋らず静まり返った中で夕食を食べる音だけが聞こえる。
突然、身長2m近い黒人の大男がテーブルをダンと叩き、立ち上がって社長にツカツカと近寄り腰の拳銃を抜き、おもむろに突きつけた。
次の瞬間、社長の隣に座っていた岡がその拳銃を一瞬で奪い取り、逆に突きつけた。
ほかの海兵隊達が一斉に立ち上がり腰の拳銃を抜き数人が岡に狙いを定める。
残りは周りのメンバーに向かって拳銃を構え警戒する。
「おぃおぃ、そっちが先に脅してきたんだろう?」
社長がスミスに向かって話す。
「HaHaHa、そろそろこちらも限界ですね。良いですか?サルは私達の奴隷なんですよ。奴隷が主人に逆らっちゃダメですね。」
「お前、えらい日本語流暢じゃねーか?」
社長が驚く。
「馬鹿な外人の振りをするのもいい加減疲れました。あなた達は黙って食料を作り、私達に提供すれば良いんです。サルの餌の時間はもう良いでしょう。」
スミスは手をシッシと振ると2m近い黒人の大男が岡に強烈なボディーブローを放ち持っていた拳銃を取り上げた。英語で付いて来い的な事を言いツカツカ歩き始めた。
周りの海兵隊は拳銃で狙いを定めたまま歩けと英語で言う。
社長は岡に肩を貸し、皆と歩き始めた。




