5話 栓抜き?
今日はなんて日だ。
リアルゾンビに出会うわ、愛車が廃車になるわ。
あんなに慌てたのは暴走族時代に敵対するチーム10人位に囲まれた時にバットで殴られ、あまりの気持ち良さに恍惚としていたら、笑ってると勘違いされ恐れられ、もっと殴って欲しくて上着を脱いだら蜘蛛の子散らすように逃げられ、そのうちの一人が道路に飛び出し運悪く車に跳ねられて亡くなった時と、社長に現場で怒られて罵る言葉と共にシノっていう番線(針金)を結束する鉄の棒でメタメタに殴られ、あまりの気持ち良さにうっかり勃起したのが見つかって、凄く冷めた目で僕の触覚を安全靴で踏みつけられて、思わず射精した時以来だよ。
あの時の体験が忘れられなくて、社長が独立する時について行くことを決めたもんなぁ。
ボケっと社長の責めを思い出してたら、
「おい、下の事務所からソファー持ってこい。」
社長の冷たい言い方が堪らない。
一人で運ぶのはちょっと大変だけど、命令は絶対だもんね。
「お待ち遠様です。」
と2Fの社長のリビングに置いて、社長の隣に座ろうとすると
「オマエは正座な。」
はい、一生でも正座しときます。
カズミさんが社長の横に座り、三人でならんでテレビを見る。
どこのチャンネルもゾンビの事ばかり取り扱っている。
頭か首を破壊してくださいってそんな恐ろしい事、普通出来ないでしょう。
でも社長は出来るだろうな、天然の凄いSだから、そう言えばカズミさんの容赦無い責めも良かったけど、社長には少し敵わないかな?
「さぁて、これからどうすっかな?何かいい案あるか?テレビで見る限り街はどこもメチャクチャになってると思うから、ここで籠城するのがベストだと思うんだが、雄二はどう思う?」
「社長、食べ物あるんすか?」
「余りない。昨日の残り物と袋ラーメンが1ケース位だな。水は井戸水だから心配ないし、ガスはプロパンだからまだ大丈夫だ。」
「防御を固めるのはどうっすか?」
「うん、さっきからそう思っててな、ここは麓の街から離れた、ちょっとした山の上だろ?戦国時代の城は攻めにくい様に山頂にある事が多かったんだが、たまたま、ここもそうだ。俺の城を本当の城にバージョンアップさせようと思う。あと足り無いのは城を囲う堀ぐらいかな?雄二、敷地の周りの雑木林をブルで切り拓いてユンボで2m位の深さの堀を作るとしてどの位かかりそうだ?」
「3日くらいじゃないっすか?」
「いい答えだが、2日でやるぞ。まずは雄二はブルでユンボがアームを伸ばしても、ゆっくり旋回できる余裕がある程度の間隔で周囲の林を切り拓け、その間に俺は5x20フィート(通称ゴニジュウ)の敷鉄板でいろいろ作る。出来るか?」
「はい、大丈夫っす。」
やっぱり社長は頭も切れてカッコいい。あとドSなのがさらに良い。もう一生ついて行くっす。
「アタシは?何もしなくていいの?」
「オマエは夜に活躍してもらおう。今は寝とけ。」
「はぁ?何それ慰安婦かよ?」
なんかブツブツぷりぷりしてるけど取り敢えず無視してブルに乗り込み出発。
敷地から出ると社長がすぐにユニックで、ブルがいたスペースを塞ぐ。
ユニックってのはトラックに簡易的なクレーンがついたチョンマゲ頭みたいなトラックだ。
順調に雑木林を切り開くこのブルの排土板はチルトのアタッチメントがついてるから敷地の外に土砂や木が押し倒れる様に調整してモリモリ進む。
休みなくブルを操ると半日で予定の全てが切り拓かれた。
明日はユンボで堀を掘る。
日も傾いてきたため敷地に戻ろうとバックした時に嫌に湿った木を踏みつける様な、ボキャっという音が聞こえ、後ろを見たが何も見つけられないためそのまま帰還。
入り口でホーンを鳴らし帰ってきた事を知らせユニックとブルを入れ替える。
「社長お疲れ様っす。戻りました。」
「あぃ、お疲れ、おい雄二このユンボ見てみろよ。これがあったら最強だろぅ?」
「おわっ!何すかこれ、ちょっとした戦車じゃないっすか!」
5x20、25mm厚の敷鉄板をまるまる一枚分を切った貼ったして、装甲強化された魔改造ユンボがそこにあった。
「キャビンだけじゃねーぞ、アームの横にある油圧ホースも鉄板で隠してるんだぜ。これでちっとやそっとぶつけてもホースが破れる事はねーぞ。
まぁ、整備性がかなり悪くなったのと視界がかなり狭くなったのは否めないがな。
これで集団で襲われても中に入ってれば死ぬ事は無い。
改造しなくても普通に移動すりゃ周りは死体の山になるが、乗り込まれてキャビンのガラスが割れるのは嫌だろぅ?
冬のクソ寒い中や夏のクソ熱い中で窓全開で作業したく無いからな。」
「さすが社長っす。」
「ところで雄二、お前クソ漏らしたのか?さっきからかなりクセーぞ。」
「漏らしてないっすよ、自分は社長がオナラしたと思って黙ってましたけど。」
「俺のオナラはもっと爽やかな香りだぜ。」
臭いの元を探すべく二人鼻をスンスン鳴らしながら歩くとブルから臭いがしている様だ。それもキャタ周りが強烈に臭う。二手に分かれキャタをそれぞれチェックしてると、
「ぎゃーっははっはは!おい雄二見てみろよ。」
社長のバカ笑いが聞こえ慌てて駆けつけるとキャタに巻き込まれ、右腕と胸から下をほとんど無くした死体がキャタに巻き込まれていた。
「この状態で動いてやがるぜコイツ!おやぁ?コイツ地主の爺さんだ。
傑作じゃねーか!人生の幕引きにゾンビになって変態マゾチキンが運転するブルに巻き込まれ発見される。
墓標にそう書かれてるとこを思わず想像しちまったぜー。
おい雄二、道具箱からバール持ってこい。」
ブルのキャタに体の大部分を巻き込まれたゾンビは、唯一残った自由になる左手でこちらを掴もうとしながら、あうあうあーと言葉にならない声を出している。
雄二がバールを使いキャタに挟まったゾンビを瓶ビールの栓を空ける要領で取り除こうとするが、何かに引っかかっていたのか、なかなか外れない。
雄二の気合いの声とともに勢い良くポーンと外れて飛び出し、社長にダイレクトハグ。
「男に抱きつかれる趣味はねーんだよ。」
と爺ゾンビの残り少ない髪の毛を鷲掴みにして引き離そうとするが残った左手で社長の胸倉を掴んで離さない。
「ぉおい!雄二、このクソGを引き離せ。」
ハッとした雄二がバカ力を発揮し、社長の作業着がビリビリと音たてて破れながら、何とか引っぺがす。
「すげー力だな。ちょっと焦ったぜ。ゾンビ化すると力持ちになるのか?雄二がゾンビ化したら万夫無双になるんじゃねーのか?ちょっと、ひと齧りされて見ろよ。」
「何すかそれ、死ぬじゃ無いっすか。社長の命令でも無理っすよ。そんな冷たい目で見ないで下さいよ。感じるじゃないっすか。」
「オマエあいつと同レベルでキショいな。」
社長が指差した先にはさっきのGゾンビが一本しか無い腕で這い、にじり寄ってきていた。