44話 生存者
城を手に入れた社長はこれからの行動方針を皆に話す。
「新たな拠点作りのために必要な物をこれから集めないといけない。
まずは、この街の地図、タウンページ、これが無いと行き当たりバッタリの活動しかできない。
次いで自動車、トラック、自転車、燃料、簡易トイレ、ユンボ、発電機、トラクター、冷蔵庫、洗濯機、の順番に集める。
トラックは平ボディーのタイプとダンプとユニック、回送車、乗用車はエコカーがいいな。
車の入手方法はトラックは運送会社、乗用車はレンタカー屋で手に入れると良い。
移動中にローリー車を見つけたら漏れ無く回収してくれ。
ユンボ、トイレ、発電機は後で俺が探そう。トラクターは見当つかんから農家っぽい家を回るしか無い。
それじゃ、地図とタウンページを入手しよう!」
地図はコンビニですぐに見つけたが、タウンページがなかなか見つからない。携帯の普及によりタウンページが置いてある公衆電話が激減したためだ。
コンビニに立ち寄った際は食料や日用品を入手する。数件目のコンビニに立ち寄った際に社長は異変に気付いた。
これまでも店内は荒らされてる事があったのだが、その店舗ももちろん荒らされており、特段変わりなく見えるが、違いはゾンビの死体がある事だった。ゾンビに食い荒らされた死体なら原型を留めないほどにバラバラだったり、体の一部が欠損していたりと一目でわかるのだが、そのコンビニの死体は全て首を落とされて、レジに頭が商品の様に並べてあった。
「どうやら生き残りがこの街に居たか今も居るみたいだな。」
社長は同行しているイチローに話しかける。
「そう見たいですね。これ、何で斬ったんでしょう?」
「刀かな?鉈かな?分からん。相手の人数は判るか?」
「さすがにそこまでは判らないですね。」
「そうだよな。大人数でない事を祈ろう。」
「あっ!バックヤードのオフィスにタウンページ有りました。」
「でかした!これで入手先に当たりをつけられる。」
社長とイチローはゾンビの徘徊する街を歩いて城へ戻った。
城の門に着くと扉をコンッココンとリズム良く叩く。すると閂が外される音がし、通用門が開かれる。
「ただいま?」
「おかえり、地図はあったか?」
岡が待ちくたびれた表情で社長に言う。
「あったが、どうやらこの街には俺たち以外にも生存者が居そうだ。今も居るかは判らんが。前みたいな事にならん事を願うぜ。」
「生存者がフレンドリーとは限らんから、車の入手は必ず銃器を携帯させよう。そういえば社長よ、この城は乗用車は入れるが、トラックは幅的に難しそうだぞ。」
「あぁ、ユンボとトラクターが入れれば問題無い。トラックは城の前に路駐だな。」
「早速、車の回収に行くか。それぞれのチームは1台ずつ無線を持って行かせよう。」
社長と岡、リンダ・イチローらは運送会社に向かい、アキコ率いるチームはレンタカー屋に向かった。
運送会社は城から東に向かった港の倉庫街に多かった。1km程度の距離しかなかった。
「これはなかなか良い立地かもしれん。城からそう遠くない位置に倉庫街がある。落ち着いたら物資を探しに来よう。」
社長の目には倉庫街が宝の山に見えていた。
倉庫街の探索を続ける。
ダンプは見つからなかったが、平ボディーのトラックとユニックは見つかった。
城に戻る途中にバスの営業所を見つけ。そこで社長と岡はトラックの燃料を補給し城の周囲の街をドライブ、他のメンバーは城に帰投した。
城の周囲は住宅地になっており、南側に大きめのスーパー、西側には総合病院、北側に小学校があり、その向こう側に上陸した港がある。東側はトラックを入手した倉庫街という街だった。
西側を暫く進むとJRの駅があり、北側に川、南側に川、東側に海という、以前の封鎖した街に何処と無く似ていた。
地図で確認するとホームセンターは南北の橋を渡った向こう側にそれぞれ1件ずつあったが、小学校のすぐ北側には300mくらい続くアーケード街があるためわざわざ遠方に物資を取りに行かなくても良さそうだった。
ただそのアーケードに近づくまでの道のりが問題だった。
道路に放置車両がある。これはもう見慣れた風景だったが、整然と道路の両脇に並べられており中央が空いている。いや、空けてある印象だ。見ようによってはバリケードにも見える。
「岡ちゃーん、おらぁなんだか嫌な雰囲気がする。」
「あぁ、俺もビンビン感じるぜ。」
「お前のは体の一部だろう?」
「社長よ、今は冗談はやめとこうぜ。」
「岡ちゃんやだなー。何事も笑いが無いと、余裕が無いと、悪い結果にしかつながらないぜ。」
「ったく、オメーは・・・」
トラックは誘導されるかの様にアーケードに向かって走る。交差点では放置車両で曲がれ無い様に塞ぎアーケードに向かって直進しかでき無い様にされていた。
アーケードが見えた時、突然フロントガラスに蜘蛛の巣が掛かる。いや、フロントガラスにヒビが入ったのだった。
「撃たれた?何処から?」
社長は慌てずにその場で停車する。
「銃声がなかったぞ。」
岡は姿勢を低くしながら周りを見渡す。
「迂闊だった。他のメンバーと別れず行動すべきだったな。」
岡は口惜しそうな表情で漏らす。
「一度撤退して、体制を整えて出直すか?」
社長が岡に問いかける。
「敵戦力が判ら無いが、あれから追撃が無い。このまま索敵を出来る所まで続けよう。」
「わかった。」
社長は茶化さずに素直に頷く。
トラックをトロトロ進めアーケードに近づける。また、フロントガラスにバチっと何かが当たり、ガラスを貫いて車内に何かが入ってきた。それを岡が摘み上げる。
「パチンコ玉?」
「それが銃撃の正体か?」
とうとうアーケード入り口にトラックは到着した。アーケード入り口は拒馬槍の様な物が設置され、アーケードに進入しようとした数体のゾンビがその身体を貫いていた。もちろんゾンビはお構い無しに蠢いているが、身体に刺さった槍のせいでその場に文字通り釘付けにされている。
拒馬槍とは騎馬の突進を防ぐために、等間隔で地面に斜めに設置された槍状の物だ。
「どうする?岡?」
「うーん、行くか?」
「わかった。取り敢えず挨拶からだ」
トラックのドアを開けドアの陰に隠れながら社長は挨拶する。
「こーんにーちわー!!!」
ドアのガラスがバチと音を立て割れる。返事はパチンコ玉で返ってきた。
「これ頭に当たると軽く死ねるな。岡、どうする?」
「もう一度呼びかけろ、見極める。」
「こーんにーちわー!!!」
トラックのドアにボンっとパチンコ玉が当たる。
「いた!アーケードの屋根の上だ」
「人数は?」
「今の所1人しか確認できん。」
「おーい!撃たないでくれ!話をしよう。俺は皆からヤマモトと呼ばれてる。あんたは何と呼べばいい?」
少し間をおいて返事がくる。
「帰れ!」
若い男の声だった。声の印象から高校生位だろうか?
「ここで知り合ったのも何かの縁だ!もし良ければ協力し合って生きて行かないか?」
「帰れ!」
返事と同時にパチンコ玉を打ち込まれる。
ヤレヤレ若者特有の頑固ちゃんだ。




