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40話 新しいおもちゃ

 航行に支障なく海は穏やかで順調に進んでいたが、本州と九州の間にある関門海峡で足止めを食った。

 

 「社長よ、全然進まんな。」

 

 岡は船酔いで青くなった顔で言う。

 

 「今、潮が逆目だな。ここは潮の流れが早くて、大潮の時は10ノット近くで流れてる。通常はクソデカイ電光掲示板で潮の向きと速度が表示されてるが、電気の無い今はそれも表示されてない。

 大型船は逆目の時は投錨して潮の流れが変わるのを待ってたりする。大型船がよく事故を起こすのもこの海峡だ。燃料がもったいねーから俺たちもここで投錨して待つか、近くの港に入って待機するか?」

 「船長はお前だろ?」

 「食料はかなりあるから上陸せずにここで投錨しよう。船酔いの者には悪いが我慢して慣れてもらおう。」

 「マジか。おめーも鬼だな。」

 

 岡はうんざりした表情でつぶやく。

 

 「隊長!人が流れています!」

 

 三島が報告する。

 

 「どっちだ?」

 

 社長が叫び三島の指差す方向へ舳先を向ける。ある程度近づきエンジンを止め惰性で接近する。

 

 「ボートフックで引っ掛けてくれ!」

 

 社長が指示を出す。ボートフックとは接岸する時に桟橋に引っ掛けたり海中に浮かんだロープ等を引っ掛けたりする時に使う棒の先にフックが付いた道具だ。

 

 三島が引っ掛けて手繰り寄せると海中に浮かんでいた人物は唸りをあげ三島に襲いかかった。

 三島は咄嗟に拳銃を抜き頭を撃ち抜く。

 良く見ると付近には救命胴衣を着た死体やゾンビだらけだった。

 

 「どこかの避難船で船内にゾンビが発生して海に飛び込んだが、助けに来る海上保安庁も機能してないんだろう。」

 

 社長は残念そうにつぶやくと船を遭難ゾンビから離すべくエンジンを掛ける。しかしエンジンはブモモモモーと唸るが船は進まない。

 

 「あちゃー、ペラに何か絡まった可能性が高いな。潜って絡まったやつをナイフで切るなりして外さないと、俺らも遭難ゾンビになるぞ。取り敢えず錨を投げ込んでくれ。」

 

 社長はエンジンを切り、潜る準備を始める。

 免許取立てのプレジャーボートが定置網等の漁網に引っかかる事はある。実は社長も若い頃に一度定置網に引っかかった事があり、それの賠償に7桁近い金額を払った事があった。その経験が活き、社長は素早い判断と行動が出来るのだった。

 

 社長が潜り確認するとプロペラにゾンビが絡まっていた。

 どういう風に巻き付いたのか見当もつかないほどにぐるぐる巻きになっていた。肉巻きおにぎり状態だ。

 巻き付く段階で脳は潰されたのか動いていない。

 

 視界が狭く、水中という陸上とは違い、素早く動けない中での作業はいくら社長と言えども、恐怖を感じずにはいられなかった。

 

 絡まったゾンビの衣服をナイフで切り裂き、絡みついた肉と骨を切り離す。水中に浮かんでいる状態での作業は力が入り難く焦れったい。やっと肉と骨を切り離した先にあったのは、内臓がぐるぐる巻きになったプロペラシャフトだった。

 

 刃先をボロボロにしながらも何度もシャフトにナイフをを打ち付け内蔵を切り離す。

 

 最後にペラが動くか手で回してチェックしようとした時に、何かの気配を感じ振り向くと、そこにはサメがすぐ近くまで接近していた。

 

 人を襲う様なサメは外国の海にしか居ないようなイメージだが実は日本近海にもいる。本来サメは臆病な性格だが、中には好奇心が強く、近付いてガブリと行く種類もいる。

 

 映画のイメージが強すぎてその姿を見ただけで恐怖を感じるが、実際には世界中での死亡事故は年に1~2件といったところだ。

 

 そんな知識があったとしても、人を襲う可能性はゼロではない。さっきまでゾンビを切り裂いていたから辺りは血塗れだ。サメは興奮してるに違いない。

 

 社長は半ばパニック気味に船尾から船上にあがる。アニメだったら足はグルグルの丸で表現されているだろう。

 

 「うぉー、怖かったぁ!」

 「どうしたぁ?」

 「岡、あれ見えるか?サメだ。3m近いんじゃないか?」

 「馬鹿な事聞くが、船は大丈夫だよな?」

 「映画じゃねーんだから、船を襲う事はないぞ。」

 「わはは、だよな。」

 「馬鹿なこといってないで試運転するから錨を上げてくれ。」

 「あいよ、キャプテン。」

 

 エンジンを始動させ錨を巻き上げるのを待つ。手持ち無沙汰に周囲の景色を眺めていると遠くに暗雲が見えた。

 

 「時化なけりゃいいが。」

 「巻き上げたぞー!」

 「動かすぞ。」

 

 エンジンの動力をプロペラに伝え回転数をあげる。さっきまで全く進まなかった事が嘘の様に滑る様に海を進んでいく。

 

 「岡ぁ、ちょっと相談なんだが、遠くに雲が見えるだろう?風も出て来てるから時化る可能性が高い。このまま海峡を抜けるか、すぐそこの港に停泊するかの選択を強いられるがどう思う。」

 「確実な安全はどっちだ?」

 「停泊だろうな。天気予報も無いから時化がいつまで続くか分からんが、海峡抜けた先の状況も判らんからな。」

 「じゃぁ、港に入ろうぜ。」

 「心なしかウキウキしてねーか?」

 「あぁ、陸が恋しい。揺れないからな。」

 「鬼の軍曹にも弱点があったか。港に停泊しても、基本的には船の上だぞ。安全に寝泊まり出来る所が見つかれば別だが。」

 「意地でも見つけるさ。」

 

 

 海峡に面した入り組んだ湾をもつK市は湾に注ぐ川を大型船が遡れる様になっている。川を遡って行くと中心地も近く、物資も望め、時化の影響も受けない。

 

 中心地が近いためゾンビが山程いる可能性も高いが、利点も多いため社長達はそこに停泊する様に決めた。

 


 船のエンジン音を聞きつけ、かなりの数のゾンビが港に集まっていた。 


 「社長よ、手厚い歓迎を受けてるぞ。」

 「せっかくの歓迎だ。応えてやろうじゃないか。岡、ゴムボート出してくれ。アレで港のゾンビを一掃する。」

 

 社長が指差したのは大型の浚渫船。

 グラブ式と言って車1台くらいの大きさのグラブバケット、鋼鉄でできた手の様な、まるで巨大なUFOキャッチャーの様な器具がついたクレーン船だ。

 

 湾に流れ込む河川は上流から少しずつ土砂を運び、少しずつ湾を埋めてしまう。湾が埋もれると吃水の深い大型船の航行が出来なくなる。そこで定期的に湾内の大型船が通る本線航路を掘削する必要がでてくる。そのための浚渫船が港に停泊していた。

 

 「一旦ここで錨を下ろす。港のゾンビをグラブバケットで一掃したら桟橋につけよう。」

 

 社長と岡はゴムボートで浚渫船に乗り込む。

 

 「正直、海洋土木はやったこと無いが、クレーンと操作は変わらないはずだから、俺でも運転出来る。」

 「俺の役割は?」

 「そんなもん、決まってるじゃないか・・・。エサだ。」

 

 社長は肩を上下させながら笑いをこらえ言った。

 

 「ぁあ?最後何て言った?」

 「だから・・ぷっ・・エサだ。ぷっ」

 「俺の扱い酷くないか?」

 「これは勇敢な岡にしか頼めん!なぁ頼むよ。」

 「後で覚えとけよ」

 「よし、やるぞ!」

 

 

 社長が浚渫船のクレーンを起動させ、各部分がきちんと動くか試運転する。その間に岡はゾンビを呼ぶエサとなるべく岸壁に上がった。

 

 「あぁーあ、テステス!岡ぁ、外部スピーカーが付いてた。」

 「音で誘導できるなら俺の役割いらねーじゃねーか!」

 「まぁそう言うなよ。エサがあった方が食いつきいいだろ?」

 「マジで覚えとけよ!」

 「あぁ?すまんエンジン音がうるさくて聞こえんぞ~。

 さぁー美味しいかどうか分からんが、ゾンビの皆さぁーん!ここに生きた人間が居ますよぉー!今なら先着5名様に身体の各パーツをプレゼント!最初に到着されたゾンビ様には特別に岡隊長の頭をプレゼント!」

 「お前マジでぶっ殺す!」

 「そう言うなって、ホラ来たぞぉ。」

 

 100体近いゾンビが一塊になって岡に行進していた。

 

 「招待状はおもちでしょーか?なははは!」

 

 社長がクレーンを操作しグラブバケットを振り回す。振り幅が最大になる瞬間にフリーフォール。釣りのキャスティングの要領でグラブバケットを投げる。巨大なグラブが群の中心に着地。着地でほとんどのゾンビが潰された、さらにグラブを操作し開いていたグラブを閉じる。機械の手一杯のゾンビを掴み、海へポイっと捨てる。

 その一撃で1/3のゾンビが処理される。

 

 「どうだぁ?俺は無敵だ。ぬはははは。」

 「お前悪役っぽくなってるぞ!」

 「はいはい、お次の方ぁ?キチンと列を作りましょっ!」

 

 またグラブバケットが飛んでいきゾンビを掴み海へポイっ。

 

 2時間程続けるとゾンビもまばらになってきた。

 

 「岡ぁ、飽きてきた。ちょっと休憩してイイ?」

 「馬鹿やろう!お前が休憩すると俺はどうなるんだよ?」

 「ちょっとひと齧りされてみてよ・・・。うそ、うそ、腰のホルスターから手を離そうね、冗談だから、冗談!」

 

 そのやり取りをクルーザーから見ていたアキコは『ヤレヤレだぜ』と言わんばかりに外人の様に肩をすくめるのだった。

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