4話 雄二バリアー!
雄二と呼ばれた男は運転席の背もたれに頭を預けたまま、意識がなかなか戻らない。
社長が割れた窓から手を入れてピシピシと頬を平手で叩くがやはり意識を失ったままだった。それが、ビシビシになり、バシバシとだんだん強くなり、平手から拳になる頃に雄二は気がついた。
「あっ社長、スグに入り口を閉めてください。アイツラが来ます。マジやべーっす。」
「やべーのはお前のサイフだ。ブルの排土板の修理費は毎月の給料から払えよ。結構するぞ、これ。」
「そんな事言ってる暇はねーっす。」
と言いながらドアが開かないために、割れたウィンドウから生まれおちる野生動物のごとくズルリと雄二が這い出る。すぐさま立ち上がるが、衝突のショックからかその足はプルプル小刻みに震えているがよろよろとブルに向かう。
「なんだその脚?生まれたてのバンビのマネか?」
「社長、状況分かってます?冗談言ってる暇なんてないんすよ。」
なんとかブルにたどり着き、衝突した乗用車をもろともせずブルを前進させ入り口を塞ぐ。
「んで、アイツラって何者だ?」
「いやっ、自分もなんて説明したら良いか分からんっす。自分、コンビニの駐車場で昼飯買って車ん中で喰ってたんスよ。そしたらパトカーが来てコンビニにお巡りが入ってったんスよね、誰か万引きでもしたんかーい?って見てたら10分ぐらいして銃声が聞こえたんスよ。意外に情けない音がするんスねあれ、んで、慌てたお巡りがコンビニから出てきてスグにパトカーで走り去ったんスよ。訳ワカンネって思いながら唐揚げ食ってたら、悲鳴が聞こえるから唐揚げから目を離したら、唐揚げ落としちゃって、勿体ねーなって思ってたら喰ってたんスよ。」
「すまん。オマエの日本語は、相変わらず意味が分からん。お巡りの発砲した現場にちょうどいたって事はよく分かったが、最後の部分がマッタク意味が分からん。」
「だから、喰ってたんすよ。」
「唐揚げを?」
「いやっ、人っスよ。人が人を喰ってたんスよ。ホラ自分チキンじゃないっスか?だから運転席から見てたんすスど、喰われた奴はスグに起き上がって、悲鳴聞いて駆けつけた別の奴に噛み付いたんスよ。」
そう、こいつは身長2m近くあってボディビルダーみたいな身体つきのくせにガラスのハートと言うか、もの凄く臆病で、暴走族時代は一度も喧嘩せずに相手を威嚇するだけで連戦連勝の猛者なのだ。本人曰く、相手と目を合わせるだけでも脇汗全開だったそうだ。
暴走族は単にVIPカーが好きだからっていう理由で所属してたらしい。前に務めていた会社から独立する際に、一緒に引き抜いたうちのカワイイ社員だ。
「マジ怖くて、リアルゾンビっすよ、バタリアンっすよ、ロメロっすよ。」
いや、最後のは監督だから。
「そんで、社長のとこなら万能板に囲まれてるし安全かなぁって思ってスッ飛んで来たんスよ。」
ん?ひょっとしてテレビで言ってた暴徒はゾンビか?って事は世界中で同じ事が起こってるって事か?
「ところで忘れてない?帰れないですけどぉ。」
「社長誰っすか?メッチャ美人じゃないっすか。」
「ん?あぁ、あいつはゲロ子、ヤリマンだ。」
殺気を感じ雄二バリアの後ろにサッと隠れると案の定、雄二が股間を抑えまたバンビのマネをしてる。
さすが将来のボディーガード候補。しっかり盾役を務めている。
「ヤリマンじゃねーし、だいたいゲロ子って何だよ。」
「あぁ、すまん、サトコだっけ?」
「カズミだよ。名前も覚えてねーのかよ。」
グーパンチが飛んで来るが、無駄にデカイ雄二バリアに全て阻まれる。
「オマエこれ以上やるとマゾチキンの雄二に惚れられるぞ。」
見ると恍惚な表情の雄二バリアならぬマゾチキン雄二がそこにいた。