36話 世紀末覇者
カンカンカン拠点に警鐘を叩く音が鳴り響く。皆は警鐘に作業を中断し、山側の監視塔を見たあと、岡を見る。
「人か?ゾンビか?」
岡は素早く無線で問い合わせる。
「人です。武装した人です。それも多数。橋を落とします」
「良い判断だ。すぐ行く。社長を監視塔に呼べ。」
岡は近くで作業していた者に言うと走り出した。
ジープの四駆に4人乗り、ヘルメットを被っていないオフロードバイクを2台従え、手にはそれぞれ猟銃を持ち監視塔前の堀で待っていた。
まるでマッドマ◯クスか北斗◯拳に出てくる雑魚キャラの様だ。
「俺は、ここで警備の責任者をしている岡だ。話がしたい!」
ニヤニヤしながらこちらをじっと見つめ何も話さない。
「聞こえてるだろう?話がしたい!」
「下っ端には話す事ねーよ!」
「ぎゃはははは。」
ジープの後部座席に座る少し体格の良い若者が周りの仲間に『俺、馬鹿にしてやったぜ』とでも言いたい様に粋がり大袈裟に話す。
「あーそうか、じゃぁ話す事無いな。帰れ!」
岡が引き返そうとすると、若干慌てた感じで
「おめーに話す事はねーっつってんだよ。バカが!」
「おい!そこのボンクラ!どんな世になろうとも初対面の人間と話す態度じゃないだろう?このまま回れ右して帰れ。」
岡はまた引き返そうとすりと。
ボンクラと言われ、また何かを伝える役目を負ってるのか、焦りの色が見え始める。
「けーびいんさんよ。そぅ言うなって。ジョークよジョーク。頭いる?」
「おい、日本語は主語や目的語、助詞を省きがちな言語だが、省き過ぎると意味が通じんぞ!
俺の頭はついてるから、いらん。他に頭を集める趣味もない。」
「いちいち揚げ足取りやがって。」
「人に何かを伝えるってのはな、礼節を持って対応しろと、ハッキリ言われないとわかんねーのか?だからボンクラって言われるんだよ。」
イラっとしながらも冷静に岡は話す。
「ハイハイ、けーびいんさんよ。あだ名は縮めてケビンで良いか?ぎゃはは、ケビンのとこのリーダーはいまちゅか?これで通じるだろ?ぎゃはは!」
またもまわりに『やったぜ俺』的な誘い笑いをする。
「おまえ、いいネーミングセンスしてるな!はっはっは。」
社長が笑いながら登場した。
「それで?雑魚が俺に何の用だ?」
「あんたがリーダーか?」
「おぅ、社長と呼べ。おまえは何だ?雑魚って呼べばいいのか?」
「ちっ、北島だ。」
イラつきながらジープの若者が言う。
「ぷっ、それでサブちゃんが何の用だ?ぷぷっ。」
社長が笑いをこらえながら話す。岡もつられてクックックと笑っている。
「何週間か観察させてもらった。俺たちは外で危険と隣合わせで生きている。お前達だけヌクヌクと過ごしてる。ここは俺たちのお頭のカタヤマ様が使ってこそ価値が出るってもんだ。お前らは出て行くか、奴隷としてここで働くか選べ。」
「おいおい。寝言は寝てから言おうぜ。お前がぐりぐりのパンチパーマにして鼻の穴を今の3倍ぐらいに拡げてきたら演歌歌手として迎え入れてやってもいいぜ。サブちゃん。」
「あぁ?後悔する事になるぞ。俺ら強力な武器も持ってる。お前ら全部殺して奪っても良いんだ。弾が勿体ねーけどよ。」
「状況分かってるか?オマエラ生きて戻れるのか?こんな世の中だ、交渉役が交渉先にたどり着く前に死ぬ事だってあるだろう?お前ら殺して俺らは惚けても分からんだろ?それとも離れたところに伝令役でも居るのか?そんな頭はオマエラにはないだろう?」
社長が手を挙げ合図すると、監視塔の裏から、道路両脇、藪の中から小銃を持った仲間達が現れた。来訪者が武装していると言う報せを受けて用心のために潜ませていたのだった。
「俺たちは生きてる人間を殺したくない、だが理不尽な要求をして、こちらの生命を脅かすヤカラには容赦はしない。」
「強がるのも今のう・・」
北島が言い終わらないうちに、パンパンパパパパパパと銃声が鳴った。
最初に撃ったのは社長だった。その音につられ、皆が次々発砲しだした。
「おーいコイツラの死体を処分するぞぉ。乗り物は街の使ってない民家のガレージに隠しておけ。」
「社長よ、やり過ぎじゃねーか?」
「奪い取ろうとする奴らに、武力を持って侵略しようとする奴らに、明確な殺意を持つ奴らに、抵抗しただけだ。
国も無くなり無法と化した今、あの手の奴らとの話し合いは無駄だ。
自衛隊の様に攻撃されるのを待つ専守防衛は部隊の練度が高い場合には可能かもしれんが、俺たちには無理だ。」
「その気持ちは分かる。がしかし相手の戦力が判らんのがちと痛いな。三島、コイツラのバイクで偵察を頼む。」
三島は無言で頷くとサッとバイクに跨り走り去っていった。
2日後に三島が戻ってきた。
「ただいま戻りました。かなりの戦力です。30名程の集団で、装備は小銃、拳銃を所持している者が9割、残りは刀、鈍器です。それよりも厄介なのが機動隊の常駐警備車と改造された特殊な車輌がある事です。」
「装甲車並の機動隊車両だな。他には?」
「乗用車が8台、トラック2台の合わせて10台です。うち1台に74式車載?62mm機関銃が搭載されテクニカル化されてます。」
三島が言い難そうに報告する。テクニカルとは紛争地域でトラックの荷台に重機関銃等を載せ動く砲台とした物だ。74式車載機関銃は1分間に700発もの弾を吐き出す機関銃だ。自衛隊では分隊支援火器として採用されている。
「自衛隊崩れがいそうだな。」
岡は眉間に深いシワをよせ呟く。
「74式車載機関銃ってのは大型土嚢も撃ち抜けるか?」
社長が岡に尋ねる。
「あれは無理だ。それと5x20の敷き鉄板で魔改造した装甲ダンプとユンボ、ミニユンボの鉄板も撃ちぬけないだろうが、それ以外は普通に撃ち抜かれるだろう。」
「山側の堀の手前側に大型土嚢を積んで、真ん中通り道を敷地入口のユニックゲートを持ってきて防壁にするか?ユニックゲートには銃眼の穴も作っておくか?」
「それが良いだろう。大型土嚢は2段以上積み重ねる方がいい。土嚢の上から攻撃すると、反撃されても低い位置から高所への攻撃は当たりにくい。高所からの攻撃は逆に当たりやすい。」
「他にも思う所があるから、さっそく作業に取り掛からせよう。」
三島が戻って2日後に監視塔から警鐘が鳴らされた。
「岡、おいでなすったぞ。」
「諦めてくれると良いが。」
監視塔に二人が着くと機動隊の装甲車を先頭に、その脇にテクニカル。その後ろには乗用車がズラリと並んでいた。
その車列の最前に日本刀を片手に持ち、長髪を後ろで一つに結んだ男が立っていた。
「数日前にこちらから交渉役が向かったと思うが、その者たちが戻らん!」
長髪は低いがよく通る声で話す。
「あー、誰も来ていないが、急に何だ?俺は皆から社長と呼ばれている。気軽にそう呼んでくれ。アンタは何て呼べばいい?」
「カタヤマだ。俺たちは旅をして暮らしている。看板にあったが、ここは安全地帯だそうだな。俺たちも入れてくれないか?」
「入れてもいいが、条件がある。完全に武装を解除しろ!いいか、完全だ。ナイフ一本でも所持する事は許さん。それが出来たら迎え入れても良い。」
「それは難しい要求だ。」
「国が無くなった今、治安を維持するのにはこちらとしては当然の要求だ。」
「断ったら?」
「簡単な事だ、ここに入れないだけだ。」
「押し通る事になるかもしれんが、それでもか?」
社長はサっと合図をするとユニックゲートが閉められ土嚢の壁の上から小銃を手にした仲間が姿を見せる。ユニックゲートの銃眼から小銃がにょきにょき生える。
「無理をすれば全員死ぬだけだ。それでも押し通るか?」
カタヤマは視線で社長を殺さんばかりに睨んでいた。
「2日やろう、2日後に返事を聞きに来よう。無血開城か決戦か?こちらにも損害は出るだろうが、血の対価を払う価値はありそうだ。はははははは!」
カタヤマは高笑いすると頭上で手を大きくグルグルと回し合図する。すると一斉にエンジンが掛けられUターンを始めた。カタヤマは社長を指さした後、首を掻き切る仕草をして去っていった。




