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31話 訓練開始

 より安全快適に過ごせる場所を作るためにはまだまだ作業が必要だった。拠点を囲う二重の塀と堀は完成していたが別の問題も出てきていた。

 人数が増えた事で、一番問題になったのが水だった。水は井戸水を使用していて供給に問題は無かったが、使用した後の排水が問題だった。

 少数の頃は使用後にそのまま地面に染み込ませていたが、今はそうもいかない。

 風呂、洗濯、炊事、生きていくのに意外に水は多く使う。それ以外にも耕作地に使う水、道具を洗う水、それらは使っては排水される。

 排水問題は急務だった。

 

 一番簡単な排水路は道路の横にある側溝を埋め込む事だが、それでは匂いを封じ込めれないため快適とは言えない。汚水管を埋め込めば良いが、拡張性が悪い。

 そんな事を考えながら社長は風呂に入っていた。

 この風呂も台所の湯沸かし器を無理に繋げた急造の物だったからいつ壊れてもおかしく無い。

 問題は中だけではなく、外にもある。未だ山側から大量のゾンビが押し寄せた場合は手の打ちようが無い。いよいよの時は拠点を捨て移動を強いられる。

 

 人が増える事は良い事だが、同時に色々な問題も発生する。先日の世良問題、現在進行形の水問題、解決しなければなら無い事は山積みだった。何か、全ての問題を一気に解決できるウルトラCは無いかと考えているとピコーンと浮かんだ。

 

 「おーい、アキコ、カズミ、リンダちょっと来てくれ。」

 

 事務所兼住居から3人が出てくる。

 

 「この小山を降りるぞ!すぐじゃ無いが、山側に堀を作って完全にこの地域を封鎖する。ここまで出来たら山を降りる。この小山は緊急時の駆け込み寺的扱いにして、通常は麓で生活する。これで排水問題は一気に解決だ。今既にあるインフラを使うからな。問題は給水だが、マンションの屋上にあるタンクを外してこの敷地内に設置、そこに井戸水を貯めて便所のフロート弁と同じ仕組みの物を給水タンク内に取り付ければ貯水タンクは常に満タンだ。

 電気も今の電柱に発電機を繋げば長い距離をつながなくて済む。新たな工事も必要無い。

 何で今まで気がつかなかったんだ。元からあるインフラを利用する事を!

 残る問題はガスだが、この地区は都市ガスの方が稀だからガス会社には充填済みのプロパンタンクがまだまだたくさん有るはずだ。それを利用しよう。

 明日からはカズミが山側の封鎖作業。

 リンダは俺とマンションの給水タンクの撤去と設置。

 アキコは麓の拠点に近い民家の使えそうな家の掃除と住むメンバーの割り振りだ。」

 

 鼻息荒く話す社長。

 

 「貴方、それは良いのですが、丸見えですよ」

 「たまには皆んなで楽しむか?」

 

 明日からの作業の前に体の一部が燃えるフルチン社長だった。

 

 

 山側の堀の工事、麓への移住作業は順調に進んでいた。山側は道路の一部を堀り、鉄板を渡し橋にしている。緊急時は監視塔のウィンチで鉄板を引き寄せる事で鉄板の橋を撤去し、侵入を阻む作りになっている。

 

 道路以外の封鎖方法は、街で不要な電線を全て回収し、街の山側を囲う様に張り巡らせている。人は通れるが知能の無いゾンビはそこで進路を阻まれるという簡易な防御柵を作っていた。

 

 「岡、食料調達時の安全確保と、もしもの時の為の戦闘訓練を行って欲しい。出来れば全員銃が扱えるようにしてくれ。」

 「銃の取り扱いはオススメせんが、仕方が無いと思う。ここは戦える者が少なすぎる。」

 「あぁ、俺とリンダは銃は使え無いが、接近戦なら何度も経験している。アキコは薙刀の名人だし、カズミはユンボさえあれば生き残れる。マイロはレーダー持ちだ、他のメンバーが戦え無いのが問題だ。」

 「明日から銃の取り扱いを教えていこう。」

 「銃と弾はどの位ある?」

 「かなりあるぜ、ヤマダがトラック一台分を部隊から持ち去ったのがほとんどそのままあるからな。」

 「俺も銃には詳しく無いから教えてもらう。銃が扱えると山で狩りが出来る、S県と県境の山はイノシシがいる事で地元では有名だ。」

 「いつからはじめる?」

 「明日からだ。午前中は作業して午後から訓練だ。」

 

 翌日の午後に敷地内に急造した射撃場に皆勢揃いした。

 

 「皆んな、日々の作業お疲れ様!今日から生存率を上げてもらうためにも、銃器の取り扱いと射撃訓練を受けてもらう!教官は岡隊長だ。では、岡教官お願いします。」

 「社長が言った通り、銃が撃てるのと撃て無いのでは、いざという時の生存率はかなり違う。ここで言う撃てるということは、的に当たるという事だ。誰でも引き金さえ引けば撃てる。肝心な事は当たるという事だ。

 人間であれば当たらなくとも怯ませ進撃を止める事は可能だが、ゾンビ相手では当て無いと意味がない。訓練には集中して望むように!

 また生命の危機に直結する訓練だから、キツく指導する場合があると思うが、それは事故防止のためだと思ってくれ。いいか?」

 「「「「ハイ」」」」

 

 全員真面目な顔で返事する。

 

 「皆の前に置いてある銃は89式小銃という銃だ。弾倉は抜いてある。まずは俺の真似をして弾倉を装着してくれ。」

 

 ガチャンと弾倉を叩き装着する。

 

 「このままでは安全装置を外しても発射されない。このボルトレバーを後ろに引くと弾倉から薬室に一発弾が送られる。この状態で安全装置を外し引き金を引くと初めて発射される。ボルトレバーを引くところまでやってみてくれ。」

 

 皆一斉に操作しカチャカチャと音が聞こえる。

 

 「次に安全装置だが、必ず打つ直前まで解除しない事。安全装置は右側に『ア-レ-3-タ』と刻印があるレバーがそうだ。皆の銃は今『ア』の位置にある。安全装置が掛かっている状態だ。『レ』は連射だ。引き金を引いている間、ずっと発射される。皆は使わないでくれ。『3』は3発ずつ弾が発射される。1発で仕留めきれそうにない時に使用してくれ。『タ』は単発だ1発ずつ弾が発射される。まずは『タ』の単発で訓練する。『タ』の位置にセレクトレバーを動かしてくれ。」

 

 小さなカチっという音が聞こえる。岡は皆の銃を1人1人見て回る。

 

 「バカヤロー!安全装置を外したら打つ直前まで引き金に触るな!」

 

 注意された者はビクビクしている。

 

 「次に狙いの定め方だ。先端に照星というポッチが付いている、手元、安全装置の上辺りに照門という照準が付いている。この両方を標的にまっすぐ重なる様にして引き金を引くと当たる。さぁ、撃ってみてくれ。」

 

 皆一斉に発射する。

 パパパパ。

 意外と映画の様に派手な音はしない。爆竹が爆発するくらいの音だ。

 数名肩を痛めたのか撃つのをやめていた。

 

 「しっかり銃床を肩に当てていないと反動で肩を痛めるぞ。」

 

 それは先に言おうね岡教官。俺も肩を痛めちぇったよ。社長は恨めしい目を岡に向けるが無視された。

 しばらくするとあちこちから当たった!意外と楽しい!等の声があがる。

 

 「バカヤロー!楽しいのは判るが、気を引き締めてやれ!お前らが手にしているのは人の命を奪える武器だという事を忘れるな!」

 

 岡教官の鬼のシゴキは始まったばかりだった。

 

 パパパパ、パパパパ街に銃声が響く。

 

 封鎖域外のゾンビは銃声の聞こえる方へ振り向きヨロヨロ歩き始める。しばらくすると川に進路を阻まれ川沿いに音の鳴る方へ歩くが、急に進路を川に変えそのまま川へ転落する。その一連のゾンビの動きを双眼鏡で観察する者がいた。

 

 

 訓練開始から1週間が経った。

 

 「よーし、皆だいぶ当たる様になってきたな。それぞれの小銃に弾が残ってないかチェックし持ち帰りクリーニングを怠らないようにしろ!」

 「岡、どうだ?皆の腕前は?」

 「素人にしてはまぁまぁってとこだな。」

 「質問なんだが、さぁ、撃とうかっていうタイミングで後ろから大きな声で声掛けるのは何の意味があるんだ?」

 

 「何があっても焦らない様にするためのもんだ。本職の自衛官でさえ、発電所防衛の時は慌てる者がいたからな。」

 「そんなとこだろうと思ってたよ。サンダース軍曹。」

 「おぃ、懐かしいな再放送で見たぞ。あそこまで鬼じゃねーし、タフガイでもないぞ。」

 

 おっさん二人がいちゃついていると、唐突に監視塔からカンカンカンと警鐘が鳴る。

 この警鐘は少数のゾンビの群れ、または人の接近の場合に鳴らされるものだ。

 

 警鐘は釣鐘と手回しサイレンの2種類を使用している。手回しサイレンはゾンビの大群が来た場合の緊急避難を知らせるために使用する。

 

 「どっちだ?」

 

 岡は無線で訪ねる。

 

 「人の様に見えます。」

 

 監視員から返事が来る。

 

 「初めてだな、歓迎しよう。」

 

 社長は皆に指示を飛ばしに行った。


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