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22話 大脱出

 日も暮れ、ダンプの荷台では2人の中年が仲良くなっていた。

 「お弁当美味しいですね。携帯食料に飽き飽きしていましたんで、尚更美味しく感じますよ。社長さんが作られたので?」

 「いえいえ、ウチの嫁が作ったんですよ。私が作ると殺人事件になりますよ。ところで同い年と言う事も判ったし、もうタメ口にしません?」

 「良いですよ。」

 「もう敬語になってんじゃねーか。」

 「あぁ、すまんすまん。」

 「実は酒も持ってきててな。岡はイケる口か?」

 「イケるイケる。部下には悪いが今日くらい良いだろう。」

 「では、この出会いを祝し、乾杯!何だか昔からの知り合いみたいな感じだな。」

 「おぅ、俺もそう思うよ。」

 「ところで、あの世良?だっけか?あいつ胡散臭くないか?全然信用ならん。」

 「あぁ、アイツは口ばかり達者な奴で嫌な事は他人にさせる様な奴だ。」

 「やっぱりな、イチローなんか騙されてる感じだもんな。あいつピュアだから。」

 「まぁ、追い込まれたら化けの皮が剥がれるんじゃないか?別に俺たちが追い込まなくても、そのうちそういう状況になる時が来ると思うぞ。」

 「そうだな。岡の嫁さんは?」

 「多分、だめだろうな。探しに行こうにもH県だからな1,000kmは離れてる。通常の世ならまだしも遠すぎる、諦めてるよ。」

 「そうか、子供は?」

 「いない。いたら発電所防衛なんかすぐに離脱してるさ。」

 「この病院に医者は?」

 「いない。俺の部下に衛生兵がいるからそいつが医者代わりだ。」

 「まぁ、こんな世の中に医学が判る人間がいるだけラッキーだな。岡も安全地帯には来るんだろう?むしろお願いしたい。」

 「あぁ、行くぞ。ここに残る理由はない。病院の連中が残るって言えば悩むがな。その時は部下を数名置いて俺は社長んとこに行くぞ。どっちも護るべき国民だからな。」

 「はっはっは、ものは言いようだな。おまえも世良が嫌いなんだろう。」

 「あぁ、結構ムカつく奴だぜ。でも、そんな奴でも護らにゃならんのが自衛官だ。」

 「岡には言っとく。実は俺は自衛官を殺してるんだ。」

 

 岡の目がギラリと光る。

 

 「直接殺したわけじゃない。運が良ければまだ生きているかもしれない。銃を向けられて物資を独り占めされたから、建物ごと閉じ込めたんだ。」

 「そうか、それは仕方がないな。今は有事だから俺の部下だったら銃殺刑だな。言ってくれてありがとう。そんなに俺を信用してくれて嬉しいぜ。」

 「ばーろー、酒の力だ。」

 

 中年オヤジの夜は更けていった。

 

 

 ダンプの荷台で二人仲良く寝ていた。

 突然、岡がむくりと音もなく起き上がり、荷台のあおりから頭だけ出し、周囲を見回すと、社長をゆすり起こす。

 

 「社長、起きろ。」

 

 岡が小声で起こす。

 まだ夜は空けていなかった。

 

 「どうした?」

 「凄い数のゾンビに囲まれている。」

 「やべーな。この数じゃ、バリケードの意味は無いな」

 「病院内にはまだ侵入して無い様だ。」

 

 そう言いながら岡はフラッシュライトで病院内で警備しているであろう自衛官にモールス信号を送る。

 

 「無線はどうした?」

 「バッテリー切れだ。今はこれしか無い。」

 「ダンプをロータリーの庇のすぐ下につける。中のメンバーに庇からダンプに乗り移れと伝えてくれ。あそこからならそこまで高低差は無いからケガもなく乗り移れるだろう。

 中のメンバーの準備が出来たらおしえてくれ。直前までエンジン音を聞かれてゾンビを刺激させたく無い。」

 「オーケー、伝える。」

 

 しばらくすると病院ロータリー庇からフラッシュライトの合図が帰ってくる。

 ダンプを発進させ、ゾンビの海を掻き分けていく。バリケードは今にも破れそうだ。

 

 「岡、発電所の時もこんな感じか?」

 「あぁ、突然わんさか現れたぜ。」

 「そうか、んじゃ発車するぜ。」

 

 大量のゾンビを押しのけ、病院のロータリーを無理やり進んだダンプは庇のすぐ下に到着した。

 停車しているのにダンプは荒れた道でも走るかの様に揺れている。ゾンビが生者を求め、ダンプに取りつき、押し寄せているためだった。

 

 「岡!急がせろ!」

 

 荷台に飛び降りる音が聞こえる。

 

 ドン、ドドン、ドン、ドドンパ

 

 「隊長!全員の退避完了しました。」

 

 隊員の一人が叫んだ。

 

 「ヨシ!出発するぞ!全員座らせろ。立ってると落ちるぞ!落ちても引き返せん!」

 

 社長が叫ぶ。

 ダンプはゾンビを押しのけ進む。

 

 「とんでもない数だな。」

 

 ゾンビがダンプにぶつかる音が止まら無い。

 ハンドルを切って避ける隙間も無いほどに、まるで満員電車の様な密集具合だ。

 100m進んでもゾンビの数が減る雰囲気は無い。

 200m程進んだ時、数体のゾンビをまとめて轢いた。

 血と脂でタイヤが滑り、進まなくなった。

 エンジンの回転数は上がるが進まない。リヤタイヤがヴヴーウヴヴーウと音を立てるだけだ。

 

 「岡、荷台のメンバーに言え、なるべく荷台の後ろに密集しろ。リヤタイヤよりも後ろにに座れと!」

 

 駆動輪はリヤタイヤだ。リヤタイヤが空転すると進まないのは火を見るよりも明らかだ。滑るリヤタイヤに少しでもトラクションをかけるための指示だ。

 1人が50kgとして20名。およそ1tになる。ダンプにとっては軽い物だが利用しない手はない。

 

 「隊長OKです!」

 「急発進しても振り落とされるなよ!」

 

 社長が荷台にも届く声で怒鳴る。

 エンジンが唸る。クラッチを大胆に繋ぎ一気にリヤタイヤにトルクが掛かる。恐ろしい勢いで空転し、摩擦熱で血が乾き始める。タイヤが焼ける嫌な臭いがしてきた次の瞬間それまで全く先に進まなかったダンプが急発進する。

 すぐにアクセルから足を離しスピードを緩める。

 

 「誰も落ちてないな!」

 

 社長が叫ぶ。

 

 「三島ぁ!どうだ?落ちてないか!」

 「隊長!誰も落ちてません!」

 

 三島と呼ばれた小柄だが俊敏そうな隊員が叫ぶ。

 ゾンビを掻き分け、跳ね飛ばし、踏み越えダンプは進む。

 徐々にゾンビの密度が低くなってくる。ダンプの速度も徐々に落とす。

 

 「社長、何故ゆっくり行くんだ?」

 「早く通り抜けたくなる気持ちは判る。だが事故るリスクを減らさないと!故障するリスクもだ!ダンプが動かなくなると終いだ。」

 

 ダンプは好調に進み、周囲に民家も少なくなり、田園風景が広がり始めた。

 社長は見渡しの良い場所で、かつゾンビのいない場所を選び、ダンプをソロソロと走らせていた。

 

 「もう少しで日の出だ。日が出たら一旦止めてダンプをチェックする。岡、手伝ってくれ。」

 「いいぜ。しかしあの群れはいつまでも終わらないのかと思ったぜ。さすがに焦ったな。」

 「おや?百戦錬磨の岡でも焦ることがあるんだな。」

 「俺だって人の子さ。」

 「隊員には岡隊長が助手席で震えてたとか言わねーから安心しろ。」

 「震えてねーだろ?てめッ、そんなデマ流しやがったら撃ち殺すからな。」

 「はっはっはー、冗談だ。ムキになるなよ。この辺りで止めてちょっと足回りチェックするか。ゾンビが隙間に挟まってる可能性もあるから狭いところには絶対手を入れるなよ、これはフリでもなんでもなからな。」

 

 二人はダンプを降り足回りをチェックする。

 

 「おーい、岡!見てみろよ。やっぱり挟まってる奴居たぞ。」

 

 リヤタイヤを支える板バネの間にゾンビが挟まっていた。

 

 「すげー生命力だな。ほとんど頭しか残ってねーじゃねーか。」

 

 岡はナイフで素早く処理する。

 

 「死んでるから生命力とは言わんな。さっ、チェックも済んだことだし我が家に帰るか。」

 

 K市に向かった逆の道順で拠点へと向かう。

 

 「我が家に嫁さん達がいるから後で紹介するよ。」

 「なんだ?その羨ましい複数形は?」

 「まぁ、世が世だからな。手ぇ出すなよ。」

 「判った判った」

 「手ぇ出すなよ。」

 「何度も言うな。」

 「手ぇ出すなよ。」

 「でもな。」

 「デモもテロも無い。」

 

 被せ気味に言う。

 

 「向こうが惚れたらどうすんだ?」

 「そん時はしゃーねーな。オマエをユンボで叩き潰す。メデタシメデタシだ。」

 「わっはっはっはー」

 

 二人同時に笑い出す。

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