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2話  プリプリでプリプリ

  テレビではアナウンサーが興奮した様子で厳戒令適用地域を先程から繰り返してる。

  この事務所がある都市も適用地域の様だ。って言うか、コレ日本全国じゃね?

  チャンネルをまわすと、これも若い奴には変えるだそうだ。別のアナウンサーが、海外の様子を紹介してる。

 

  「ニューヨーク・ワシントン・モスクワ・パリ世界中で日本と同様の暴動が・・・・」

 

  あらら、何コレ終わりの始まりですか?

 

  人生振り返るといつもそうだよ、大事なところで邪魔が入る。前回は久しぶりに会う幼なじみが絶対に迷惑掛けないっていうから保証人になったら、3カ月で飛びやがって、そのせいで会社の設立3年のびた。

 今回は何ですか?世界同時暴動ですか?厳戒令って、映画でしか見たこと無いんですけど。

 

 ため息つきながら暴動=強奪が怖くて敷地内にあるトマツのブルドーザー、D65WX、通称ブルの排土板を入り口に向けてバリケードにするべくエンジン始動。新車はいいね。乗ってるだけで気分も上がる。リースだけど。

 

 入り口に排土板向けて停車すると横に人が並んで2人は通れる程のスペースが空く。そのスペースを埋めるべく同じくトマツのバックホウ、PC200通称ユンボのバケットで通せんぼ。

 これで敷地内への進入は難しいだろう。

 他にもいっぱい重機や設備があるからね。最近のドカタは機械化されていて、装備がどれも高価なんだよな。混乱に乗じた不届き者が出ないことを祈るばかり。

 

 我が城、スーパーハウスは2階建。1階は事務所で、2階は住居。将来社員が増えたらスーパーハウスを撤去して社屋を建てるつもりでいる。

 外出禁止で発砲も止むなし!とかいう緊急事態に出歩いて無駄に官憲を刺激するのもつまらんので、住居で寝て二日酔いを回復しようと玄関を開ける。

 

 何だこれ?見慣れない靴だ。

 朧げな昨日の記憶を辿りつつ、リビングに向かうと最悪な光景が!

 

 カーペットの上に寝ゲロまみれのネーちゃんが!マジか。

 

 いわゆるボディコン姿のネーちゃんがパンツ丸出しで寝てる。ゲロが無ければ、フランスの怪盗3世ばりにトランクス一丁で飛び込む光景だが、臭いゲロにまみれた姿じゃ、そうもいかない。

 臭いを我慢して5分ほどおパンツを鑑賞し、肩を揺すって起こそうとする。

 色っぽい声で「う?ン」とか言ってやがる。ゲロっていうエッセンスが色気を上回ってだんだんイライラしてきた。肩を揺すってる時にゲロにも触ってしまい、ただでさえ低い沸点がさらに低くなる。

 しばし待つが起きる気配が全く無いので、カンチョーならぬマンチョーをお見舞い!

 その瞬間飛び起きるゲロ女、間髪入れず鋭い平手打ち。こいつ絶対起きてたろ。

 

 「何すんのよ!」

 「それはこっちのセリフだ、このゲロ女!ここで何してやがる!」

 「あんたが良いもの見せてやるからここで待てって、言うから待ってたらそのまま寝ちゃったんだよ!」

 そうだった、お披露目パーティーで賑やかしに馴染みのスナックに頼んで呼んだコンパニオンのネーちゃんだった。コイツを口説いてて、酔っ払い過ぎて途中でその存在に忘れて事務所のソファーで寝てたんだった。

 

 「いいから、もう帰れ。ひどい臭いだぞ!オマエ。」

 「言われなくても帰りますぅ。その前にシャワーを貸しなさいよ。」

 

 コイツ厚かましいな。人の城で寝ゲロをするわ、ビンタはするわ、そのうえ風呂を貸せって?

 

 「貸してもいいけど、ちゃんと返せよ。」

 「バッカじゃない。」

 ぷりぷりのケツをぷりぷりしながらシャワーに向かうゲロ女。

 

 あれでゲロにまみれていなかったらいい女なのになぁ。

 あいつも軽く足を引っ張る一人だよなぁ。ため息吐きながら、もらいゲロを我慢しつつお片付けをしているとシャワーの音が聞こえてくる。

 どうして厚かましい女に素直にシャワーを貸したかって?それはウチの浴室は磨りガラスのドアなので、薄っすら中が見えるんだよね。

 やっぱ、ゲロが無いといい女。スタイル抜群、出るとこ出てるメリハリわがままボディ。独身男には目の毒だぜ?ぇっと最近見ないワイルドがウリの芸人口調で独り言を言いながら、暫しの鑑賞。

 

 童貞でも無いのですぐに飽きてテレビをつける。

 おじさんの年代の情報源は主にテレビなんだよな。

 情弱って笑ってもらって構わない。PCはブラインドタッチが出来ないからタイピングに時間かかるから苦手なんだよな。

 

 「おらっ!風呂上がったら帰れよ!」って言いつつバスタオル用意して再び情報収集と言う名のテレビ鑑賞。気がつくとバスタオルを体に巻いたわがままボディが隣に座ってた。

 

 「だから帰れって!」

 「アタシにあんなゲロ臭い服を着ろって?」

 「知るか、オマエの体内にもともとあったものだろう?気にすんな!って言うか帰れ。」

 「服貸してよ。」

 

 どこまで厚かましいんだろうなコイツ。しょうがないから作業着のツナギを投げつける。

 

 「これ着て帰れ、服は返さなくて良い、頼むから帰れ、ゲロまみれの服を持って帰るなら台所にゴミ袋があるから勝手に持って行け。」

 

 人生の晴れやかなスタートを暴動でぶち壊しにされた気持ちを独りで落ち着けたかった。二日酔いのムカツキを寝てとりたかった。って言うか二日酔いのムカツキなのかコイツにムカついてるのかわからなくなってきた。

 

 「ひどぉー、昨日は散々口説いてきたくせに!」

 

 ぷりぷりさせながら女は台所へ行きゴミ袋に乱雑にゲロ服を投げ込んで、ツナギに着替える。

 

 「シャワー貸してくれてありがとね。」

 ツナギにハイヒールが笑えるが、あえて突っ込まず、

 

 「あぁ、ちゃんと今度返せよ。」

 

 これだからオヤジは!とかなんとかぷりぷりしながら出て行く。

 ちゃんと『ありがとう』が言えるかわいい娘じゃないか。最後の言葉は聞こえなかったことにしておいてやろう。

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