17話 アキコ旋風
カズミはユンボの前で仁王立ちで腕を組んで一人満足げな表情で立っていた。
「たった一日でこの成果!さーすがアタシ。ぬっふっふふ。絶対凄いって言わせてやる。」
「何気味悪い声で笑ってんだ?」
「のわっ!社長!いつ帰ってきたの?」
「さっきだ。ホーン鳴らしたの気がつかなかったか?万能版を乗り越えて入るのめちゃめちゃ大変だったぞ。」
「ぜーんぜん聞こえなかった。」
「はぁ?、留守番任せる人選誤ったかなぁ。」
「それよりさ、これ見てよ。凄いっしょー。トマト、きゅうり、大根、レタス、ナス、枝豆、唐辛子。ホームセンターから持ってきた種は全部植えたよ。」
「おぉ、凄いな。さすがカズミだ。ただもうチョット真っ直ぐ畑を作ろうぜ。曲がってるぞ。」
「キィ?、覚えてろぉ!」
「お前はもう少し、おしとやかという言葉をだな、あっ、アキコ、こいつがカズミ。カズミ、アキコだ。」
社長は荷物を降ろしているアキコを呼んでカズミに紹介した。
「誰?」
「俺の大事な人だ。」
「ふぅーん、ふぅーん、ふぅーん、成る程ねぇ。」
「何、若干敵意を出してんだ?オマエ。」
「王様だーれだ?」
「今は俺だよ。」
「ふぅーん。」
「オマエ面倒臭いな。俺は食料探しに行ってくる。アキコも行くか?」
「はーい、じゃぁまたねカズミさん。」
「なんかヤな感じぃ。」
カズミと別れ、再びダンプに二人は乗り込んだ。
「貴方、さっきの子と何かあったでしょう?」
「あぁ、ちょっと王様ゲームでな。」
「ふぅーん、ふぅーん、ふぅーん」
オイオイ、こっちもかよ。
「この街のゾンビは粗方小学校に閉じ込めてるが、全部じゃ無い。気を引き締めて行くぞ。アキコはアレ持ってきてるから大丈夫だな。」
「貴方の後ろは任せて。」
「ヨシ行こうか。」
お買物車と称した装甲ダンプで最初に訪れたのは大手チェーン店ではない地元のスーパーだ。チラホラゾンビの姿が見える。
ダンプから降りるとアキコがゾンビに向かって走る。
次の瞬間!ゾンビの首が飛ぶ。アキコの持ってきたアレとは、真剣の薙刀だ。
アキコに近づこうとするゾンビは全て首が飛んで行った。
クルリと身を翻すと首がボンっと飛ぶ。まるで竜巻の様だ。下手に近づくとこっちの首まで飛びそうだ。
「ふぇ?、怒らせると怖いな。注意しよう。」
「貴方、ボヤボヤして無いで行きますよっ。」
「はーい、まったく、調子狂うなぁ。」
「何か?」
「いえっ、ナニモイッテマセン。判ってると思うけど、室内では長柄の武器は不利になるから無理するなよ。」
「それは、素人の考えよ。薙刀は突きの種類が剣道に比べて豊富にあって、直突き、繰り込み突き、柄突き、柄脛の4種類があって、頭部に有効なのは最初の3種類よ。確かに余りにも狭い場所は不利かもね。でも脇差があるから何とかなるかも。」
「さすが旧家の由緒正しき家柄だなぁ。そういう武器と言うか身を守る物が代々受け継がれてるからなぁ。つくづく凄い女性と俺は付き合ってると思うよ。」
スーパーの中もゾンビは数体いた。2?3人が横に連なって通れる程度の間隔が空いていれば、ゾンビ達はアキコの敵では無かった。出会うゾンビは皆一振りで動かぬ死体になる。
スーパーは当たりだった。生鮮食品は芋とカボチャと玉ねぎ以外はどれもダメだったが、レトルト食品、缶詰、乾麺、米、調味料、飲料、酒類、菓子類、かなりの量と種類を確保できた。それ以外に洗剤や歯ブラシ、石鹸、シャンプー、リンス、その他日用品も山ほど手に入った。
「貴方、正直なところお買物楽しいわ。お金払って無いことが少しだけひっかかるけど。」
「罪悪感を抱いてしまうか?」
「少しだけ。でも誰にも使われずにそのまま腐らせるよりも有益に消費された方が、製品として世に出たモノ達にとって本望じゃなくて?」
「そうだな。徘徊してるアイツラは必要ないしな。」
気分は大漁旗を掲げた漁船の船長だ。ウキウキで拠点へ戻る。ホーンを鳴らすとリンダが出てユニックゲートを開けてくれた。
「ただいま!カズミは?」
「ユンボで畑を拡大中だよ」
「呼んできてくれないか?」
リンダはユンボで作業していたカズミを連れてきた。
「皆に集まってもらったのは、食料問題は今日のお買物で当面落ち着くと思うが、長期的に見ると根本的な解決とは言い難い。そこでだ、敷地を拡げることにする。
どれだけの広さの畑を耕せばこの人数を養えるのか、見当つかんが、広ければそれだけ収穫量が増えるから余裕もできるだろう。野菜の病気や失敗のリスクも分散される。と俺は思う。
敷地を拡げる方法は、2通りあると俺は思う。
1、この敷地の外側に同じ様に万能板で壁を作る。さらに外側へ堀を作り防御力アップ。
2、この街を隔離する。この街の南側は山。北側は海。西と東は川に挟まれている。
アイツラは橋以外に川を渡れない様だ。その橋を落とすか、事故車やトンバック(大型土嚢)を利用して封鎖。その後封鎖した地域のゾンビ殲滅。
1は1週間もあれば十分可能だが、畑の広さをどれだけとればいいか分からない現状では、足りなくなったら再拡張しないといけなくなるだろう。
2は手間がかかるが、かなり広いエリアを確保できる。殲滅作業は安全にできる方法をボンヤリだが考えている。」
「アタシはユンボに乗せてもらえるなら何でもいいよ。」
カズミはユンボが痛く気に入った様だ。
「社長さんの指示に従うよ。」
リンダは特に意見はない様だ。
「1と2を同時進行では出来ないのかしら?」
「さすがはアキコだ。まずは橋の封鎖でゾンビの他地域からの流入を防ぐ。次に敷地の拡張を行い完了後に封鎖地域内の殲滅。橋の封鎖だけで流入が止まるとは限らないからな。保険かける感じでいいね。それで行くか!明日から忙しくなるぞ。」
皆を見渡し鼻息をフンスと鳴らす社長だった。




