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11話 雄二逝く

 ダンプが道を作ってくれたおかげで迂回することなく拠点への道を快調に走るローリー。

 

 「おウチに帰ったらお腹いっぱいゴハン食べようねぇ、マイロ。」

 「その犬マイロって言うんですか?」

 「いや、知らん。今名付けた。それに犬って言うな!マイロって立派な名前がついてる。こいつは俺の家族だ!ねぇ?マイロ。」

 「こんな時に拾ってくるなんて。」

 「かぁぁ?!マイロ、あそこのおねーちゃんひどいでちゅね?。血も涙もないでちゅね?。」

 「なんか性格変わってません?」

 「うっせー!!ごめんごめんマイロに怒ったんじゃないよぉ?。カワイイでちゅね?。」

 「キモい。」

 

 その頃雄二はアダルトグッズを取り扱う店を見つけ、物色しようか悩み、ゾンビを引き連れたダンプで店の前を何度も通過していた。

 

 「あのアイテムでカズミさんに苛めてほしいなぁ。苛められる姿を社長が冷たい眼で見てる。あぁぁ、想像するだけでも逝ってしまいそうだぁ。ヨシ行こう。」

 

 店から遠い所までゾンビを引き連れ急加速。ゾンビを置いてけぼりにして一目散ににアダルトグッズ店へ。到着すると急いでダンプを降り店へ入る。

 

 「どこかなどこかな?あっ、あった!」

 

 雄二の探していたものは、鞭、ふわふわのフェイクファーがついた手錠、革の拘束具、ロウソク、股の切れ込みが激しいボンデージの衣装数点、首輪、その他何に使うか判らない器具数点、店内で見つけた段ボールへ次々放り込んでいく。

 

 ホクホク笑顔で店から出ると、そこには今まで引き連れていたゾンビが勢ぞろいしてた。

 すぐさま振り返り店内に戻ろうとするが背後から掴まれ、肩の僧帽筋の部分を齧り取られた。

 

 「痛ぎもぢいいぃぃぃぃ逝くぅぅぅぅ。」

 

 それでも死にたくは無いのか、なんとか振り切り店へ戻る、そのまま店内を突っ切り裏口から外に出る。まだ段ボールは持ったままだ。

 

 

 そのころ、拠点についた社長は、もちろん先に戻ってきてるはずの雄二の姿が見えないために、雑用を頼む相手を探していた。

 結局カズミには断られ、客分のリンダに頼む訳も行かず、一人で黙々と雑用を行っていた。もちろんズキューンと心を奪われたマイロを共に連れて。


 「遅いな雄二。」

 

 社長達が拠点に戻って3時間経過しても雄二は戻って来なかった。

 

 「どこかでパンクでもしたんじゃない?」


 面倒臭そうにカズミが言う。

 

 「そうかもしれん。探しに行こうにも、そろそろ日が暮れそうだ。ここで無理すると二次災害を引き起こす可能性が高い。パンクしててもダンプの中に居れば死ぬ事はないから、捜索は明日の朝からにするか。ところでゲロ子よ、今日のメシは何だ?」

 「肉しかねーよ。ゲロ子っつーな。」

 「おぉー怖いでちゅね?マイロ。」

 「犬の前で性格変わるのヤメろ、気持ち悪い。」

 

 そんなやり取りをしていると、スーパーハウスの電気が全て消えた。

 

 「あちゃー、とうとうきたか。予想よりも保った方かな?雄二!200kvAの発電機持ってこい!って雄二は居ないんだったな。」

 

 最近のドカタは機械化されていて、基礎工事用の油圧ユニットを動かすための発電機や、掘削中に障害になる地下水を汲み上げたりと、大きな発電機を使用する事が多い。200kvAの発電機は1台で一般家庭50〜100世帯は賄える程の出力を持つ。

 

 社長は発電機をユンボに取り付けたワイヤーで吊って持ってきた。スーパーハウスが電柱から引き込んでいる電線を切り、それを発電機につなぎ発電機のエンジンを掛ける。発電機のブレーカーを上げるとスーパーハウスの電気が点灯した。

 

 「社長さん、さっき予想よりもって言ってましたけど、あれは?」

 

 リンダが真面目な顔で聞いてくる。

 

 「あぁ、自衛隊が発電所を守ってると思うんだが、自衛隊が壊滅して発電所が爆発したか、発電所が安全に停止できたかのどっちかだろう。

 このF市の発電所は原発がメインだから、爆発してない事を祈るよ。爆発してたら俺達もいずれ死ぬか、移動を強いられるかのどっちかだろう。」

 「社長さん、何で自衛隊が守ってると分かったんですか?」

 「現代社会は電気に異存してるからな。電気が止まると上水道、下水道のポンプが死ぬだろ?これだけでも大ダメージだ。都市ガスを制御してるのも電気だし、それに冷凍食品や要冷蔵の食品が多すぎる。それらの食品が全部ダメになると一気に食糧事情は悪くなる。

 自衛隊がいくら優秀だろうがあまりにも多すぎるゾンビに襲われると弾が無くなるだろうからな。

 その点、ここは井戸水、プロパンガス、発電機、ユンボっていうモビルスーツもある。あと足りないのはビームサーベルとビームライフ・・・」

 「社長、メシ出来たぞー」

 「今日もステーキかぁ、いい加減他のが食いたい。肉ばっか食ってるからお通じ悪いし。お前らは?快便?」

 

 ダブルで殴られた。

 雄二バリアー、かーんばーっく!

 

 翌日、習慣化されつつある、日の出と共に起床。

 ローリーは拠点に置いてカズミの軽自動車に乗り込む社長とリンダ。

 

 「じゃ、留守番よろしく。いつも留守番で大丈夫か?」

 「今のところ、ここが一番安全なんでしょ?わざわざ危険なとこに行くわけないじゃん、ばっかじゃねー?」

 「ほっほぉー、お土産は要らないと仰ってるのですね。分かります。分かります。」

 「社長、うそうそ、肉以外の食い物持って来てぇ。」

 

 カズミが甘えた声で言う。

 

 「最初からそう言えばカワイイのにな、オマエ。じゃ、行ってくる。」

 

 リンダの運転で出発する。

 

 「ところで社長さんの安否を気にかけてる方はどこにお住まあぁぁ!」

 

 拠点からそう離れていない所で急ブレーカーをかけるリンダ。

 

 「あれ雄二さんじゃないですか?」

 「ホントだ、アイツ夜通し歩いてきたのかな?何を持ってんだ?」

 

 雄二はまだ例の段ボールを持っていた。

 

 「おーい!雄二、このバカタレが!心配かけやがって、お前がいないと雑用がゲフンゲフン、作業が分担出来ねーじゃねーか!それから見ろ!マイロだ!きゃわいいだろぉ?なっマッイッロ?」

 

 マイロは社長の腕の中で尻尾を股に挟み震えていた。

 

 「社長、なんか雄二さんおかしいです」

 「お前、まさか?ウンコ漏らしてないか?スゲー臭いぞ!」

 「社長、冗談はやめて下さい」

 「あぁ、本当はすぐ気付いたよ。ただちょっと寂しくてな。じゃ、ゆうそういうことだから。」

 

 社長は鉄筋を雄二の頭に突き刺す。

 

 「雄二またな。」

 

 雄二の持ってた段ボールが落ち、中身が散らばる。SM道具にボンデージファッションの数々だ。

 

 「ぎゃーはっははっはー!もしかして雄二、これが欲しくてゾンビになったのか?オマエのその体を張ったギャグ、サイコーだよ。人がシリアスになってる時に死んでも笑わせるとはオマエ本当サイコーだ!本当何やってんだよ、馬鹿野郎がっ!」

 「社長さん、ご愁傷さまです。」

 「こいつは連れて帰って埋葬してやろう。」

 

 軽自動車の後部座席に乗せようとするが、無駄に体が大きい雄二を乗せるのは、なかなか上手くいかない。

 

 「しょーがねーなー、コイツが喜びそうな、あの方法しかねーか?」

 

 敷地内に入ってくる軽自動車、その後ろにはロープで手を縛られた雄二の死体がズルズル引きずられている。

 

 「生きてたら、『社長、気持ぢよがっだでずぅぅ、何度も逝ぎまじだぁぁ』とか、キショいこといってんだろーなー。まぁ、今は本当に逝っちまってるからそれも聞けないな。」

 

 社長は敷地内の隅にユンボで墓を掘り雄二を埋葬し、大きめの石を墓標代わりに置いた。二人の女性は花を手向ける。

 

 「雄二の遺品だ、1人1品ずつ形見としてもらってやってくれ。」

 

 カズミは切れ込みの深いボンデージファッションを、リンダは革の拘束具を、社長はふわふわしたフェイクファーが付いた手錠を形見として選んだ。

 社長が何か弔辞的な事を言おうとしているのか、ただウンウン唸って簡単な葬儀が終わった。

 

 「さっ!気を取り直して食料探しに行くか!ついでに何処かにあるウチのお買い物車も探さないとな。ヒントは雄二が大事に持ってたアダルトグッズだ!ゲロ子心当たりあるか?」

 「西区の外れに一軒あるよ。」

 「さすがヤリマン。即答だな」

 

 金的を食らいました。

 雄二、今からでも生き返ってこい。

 

 「改めて行ってくる。」


 快調に走る軽自動車。

 

 「まずは西区の外れにあるアダルトグッズ店に向かうか。」

 「一度あの装甲車まがいのダンプに乗ると、さすがに軽自動車は不安ですね」

 「少し急ごう、雄二の葬儀に思いの外時間がかかった。」

 

 そういって軽自動車のハンドルを握る社長は少しだけ元気が無かった。

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