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10話 世紀末ナンパ

 ダンプをそろそろと運転しながら窓を開けて雄二が声を掛ける。

 

 「姉ちゃん姉ちゃん、乗ってく?」

 「馬鹿野郎、雄二そんな声の掛け方があるか?」

 

 酒屋を物色した帰り道に大きなリュックを背負った金髪の女性が見え、社長の命令により、雄二が声をかけたのだった。

 雄二の声掛けにクルッと振り返り中指を突き立て流暢な発音で、

 

 「ファッキュー。」

 「おぉ、外人さんか、フィリピン姉ちゃんに英語の手解きを受けた俺に任せろ。

 えーっと、あいきゃん、ぷろばいど、ふーど、あんど、しぇるたー、かもん、じょいなす!」

 

 最後に親指立ててキリっとキメ顔をする。

 

 「あはは!ごめん、あたしは実は日本生まれで英語は全くなんだ。」

 「なんだよ、拍子抜けすんなぁ。俺のフィリピーナ仕込みの英語がさく裂する機会だと思ったんだけどな。まぁ、それは置いといて、食料と安全地帯があるから乗るかい?それとも目的地はあるのか?」

 「となりのS県に母親が1人で居るんだ。こんな風になる直前は連絡がついたんだけど、今は連絡取れなくて直接安否確認に行こうと思っててね。」

 「だったら、そろそろ夕暮れだからウチに寄って明日の朝出かけるかい?」

 「じゃぁ、お願いするよ。」

 「『やったー、ハーレム第一号か?』おぃ、雄二おまえ無駄にデカイから荷台な。」

 

 雄二がダンプの荷台に移り、社長が運転席に代わりに座る。

 

 「道中大変だったろ?」

 「そうでもないよ、アイツラはより大きい音のする方へ移動する習性があるみたい。だから音が出る小物を沢山持ってると囲まれても対処できるし、ちょっと本気で走ればすぐに置いていけるから。

 囮の小物を置いてダッシュすればしばらく安全だし、昼間は夜より動きが鈍いみたい。日中はどこかの家の中に群れて、夜になると徘徊しだすんだ。だから昼間は比較的移動しやすいんだ。」

 「へ?なるほどね。ウチは街から離れてるからゾンビはあんまり見かけなかった。今日ぐらいか?大量に見たのは。まぁ、見かけたのは全員学校に誘導して校門を閉めてきたから、この街はある程度安全だと思うぞ。」

 

 さり気なく自分の功績を伝え出来る男をアピール。

 

 「だからか、この街に入ってから一体も見かけないのは。」

 「ところで名前はなんて呼べばいいんだ?俺は皆に社長と呼ばれてる。」

 「あたしはリンダ。林田が本名だけど、アメリカと日本のハーフで見た目からリンダって呼ばれてる。」

 「よろしくな、リンダ。後ろの変態は雄二だ。見た通り体はデカイがガラスのハートで特殊な性癖を持ってる、それは追い追い判ると思うから。さぁ、着いたぞ!」

 

 入り口でホーンを鳴らすと暫くしてユニックゲートが開けられダンプが入場するとすぐにユニックゲートが閉めらる。

 雄二が荷台から飛び降りて万能板のジャバラゲートを閉める。

 

 「凄い!まるで要塞だね?。」

 「お帰り?って誰?」

 「あぁ、こっちはリンダ。リンダ、こっちはゲロ子。ヤリマンだ。」

 「ゲロ子じゃねーし。」

 

 カズミの金的攻撃を雄二バリアで防ぐ。全くこいつらは学ばない奴らだ。

 

 「すまんすまん、ゆりこだっけ?」

 「カズミだっつてんだろ。」

 

 カズミの全ての攻撃は雄二バリアによって阻まれる。

 雄二は恍惚の表情を浮かべる。本当に学ばない奴らだ。

 

 「それよりも今日はバーベキューだ。その他にもいろいろ土産があるぜ。」

 「生理用品は?」

 「あぁそれなら変態童貞マゾチキンが鼻血出しながら選んでたぞ。」

 「そろそろなんだよね?。危なかった。雄二!アタシの生理用品はぁ?」

 「こっこれっす、はぁはぁ、さっきの金的良かったっす。」

 「全く客人の前でお前らはッ!

 雄二!お前は、はぁはぁするな!キショい。

 ゲロ子、お前はもうちょっとおしとやかにしろ!

 それはさて置き、サプライズな土産があるんだぜ!

 なんと浴槽!これでフロに入れるぜ!台所の湯沸かし器のホースを外に繋いで露天風呂にしようと思ってる。シャワーばっかじゃリラックスもできやしねぇ。どうだ良いだろ?

 衝立がないから視線を遮るものがない。野趣あふれる開放感を存分に楽しむがよい!そして露出狂になるが良い!」

 

 カズミに殴られた。

 もうちょっと愛が欲しい。

 

 本日のお買い物をダンプから卸す。

 冷蔵庫は延長コードで室内から電気を供給し、ひとまずは屋外に設置し、その他もろもろの準備を済ませた。

 

 「それではーお手元のグラスを・・・、本日の出会いに乾杯!」

 「「「カンパーイ」」」

 

 敷地内の至る所に現場用のバルーン投光器を灯し、日没後とは思えない明るさでバーベキューが開始された。

 

 「リンダは隣りのS県にお母さんの無事を確かめるため旅をしている。ハードモード母を訪ねて三千里ってやつだな。母を訪ねてにはゾンビ出てこないからな。

 リンダ、酷な話だが俺はもう手遅れだと思うが、それでも行くのか?」

 「うん、ちょこっとでも可能性があれば行きたい。」

 「自分が死ぬ事になるかもしれないが、それでもか?」

 「うん、それでも確かめたい。」

 「その心意気に惚れたッ!ウチのお買物車で送ってやろう。あれならゾンビ共に囲まれようと突破出来るからな。」

 「社長さん。ありがとうございます。」

 「惚れたッ!とか言いながら本当は俺も無事を確かめたいヤツが同じ方向にいてな、雄二は無事を確かめたいヤツはいるか?」

 「んーっと、孤児院のガキ達以外にいないっす。」

 「雄二は孤児院出身でな、親がどこにいるかわからない。俺も高校卒業寸前に両親が事故で亡くなって親族はいない。ゲロ子はどうだ?」

 「アタシも親に勘当された身だから今更って感じ?」

 「雄二とゲロ子は留守番だな。俺が出掛けてる間に雄二は外の残土を綺麗に盛ってくれ。残土をそのまま置いてるから一部崩れてきてる。ゲロ子は適当に掃除とかやってくれ。

 それから出発前に燃料を確保して出掛けないとな。多分今の燃料じゃ途中で燃料切れになる。

 明日は燃料の確保と孤児院を見に行こう。すまながリンダ、燃料の確保を手伝ってくれるか?」

 「オッケー、S県まで送ってくれるなら何でもするよ。」

 「よし、そうと決まれば今日は腹一杯食べて飲んで明日の英気を養うぞ。」

 

 翌日、まだ酒の残る三人は日の出と共に起き出し出発する。

 

 「ところでリンダ、ここに来るまでローリー車見なかったか?あれがあればドラム缶を探す手間が省ける。俺が燃料を頼んでた業者はここからちょっと遠いんだよな。」

 「見てないね。」

 「雄二は心当たりあるか?」

 

 荷台に居る雄二に大きな声で聞く。

 

 「ねーっす。」

 「しゃーない、いつもの業者のとこまでいくか。」

 

 土木業者が使う燃料はローリー車で現場まで運んでもらい給油するので幾つかの燃料屋と契約を結んでいる事が普通だ。また現場まで運んでもらうため確実にローリー車を持っている。

 

 燃料屋に向かう途中幾つかの橋を渡る。一つ橋を渡るごとにそれまでまばらだったゾンビが増え、事故車や放置車両が増えてくる。片側の車線だけに放置車両がある場合は避けて通れば問題ないが、両車線共に車両があった場合は迂回を余儀なくさせられる。

 

 「簡単に辿り着くと思ってたがこうなったらある程度は強行突破しないといかんか。ローリー車の通る道も作らないとな。」

 

 通せんぼしてる放置車両をダンプで押しのけ道を作る。中央線を走り、上下線渋滞している車列を道路脇に押しやりながら進む。

 金属の擦れる嫌な音が響きわたる。

 

 「あと少しで到着だが、ゾンビの数が多い。雄二、運転代わってくれ。学校での戦法を使うぞ。ゾンビを引き連れてウロウロしてくれ。俺とリンダはゾンビが居なくなるまでそこに放置されてるワンボックスカーの屋根で待機して、ローリーを手に入れたら城に戻る。頼んだぞ。」

 

 社長とリンダは竹槍と鉄筋で作った刺突専用武器を持ち、ダンプからワンボックスカーの屋根に乗り移る。それを確認した雄二はホーンを鳴らしゆっくり離れていった。

 ワンボックスカーの周りにいたゾンビはホーンを鳴らしながら離れていくダンプを追っていった。

 10分程待機していると周りにゾンビの気配がなくなり、二人は音を立てないよう移動を始めた。

 

 「次の角が目的地だ。多分事務所にローリーの鍵があると思う。リンダが事務所で鍵を探して、見つけたら全部持ってきてくれ俺は軽油が入ってるローリーを探しておく。」

 

 事務所に到着すると

 

 「こんにちわ?!」

 

 大きな声で社長が挨拶する。

 

 「社長さん、意外と律義なんですね」

 「はぁー、なんでこんな時に挨拶するかは後で雄二に聞いてくれ。」

 

 ため息混じりにそう言うと事務所内にゾンビが潜んでいないかチェックし指でOKサインを送り再び外に出て目的のローリーを探し始めた。

 

 「これはガソリン、これは水、これは軽油!ん?空だ。これはガソリン・・・・」

 

 社長はブツブツ言いながら探していると、後ろから近づく気配を感じ刺突鉄筋をベルトから引き抜き振り向きざまに刺そうとしたところ、後ろから近づいて来たのはプルプル震えるチワワだった。

 

 「おー、カワイイでちゅねぇ?。おいちゃんと一緒に来るか?おいでおいでぇ。」

 

 尻尾を千切れんばかりに振り回し近づいて来たが途中で急に尻尾を振るのを止めローリーのタイヤの影に隠れた。

 社長はもしや?と思い振り返るとそこには1体のゾンビが居た。

 

 「ウチの子が怖がってんだろーが!」

 

 鬼の形相で鉄筋をゾンビの頭に突き立て活動を停止させる。倒れたゾンビの服で鉄筋を拭い、最上級にデレた表情で振り返る。

 

 「さぁ、おいでぇ。怖いのはぜぇーんぶおいちゃんが退治してあげるからねぇ?」

 「社長さん、その表情キモい。」

 

 ハッ気付いて振り向く、と鍵束を手にしたリンダが立っていた。

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