1話 タイムボカンでポカーン
んげっ!
今何時?
事務所のソファーから飛び起きる。
目ヤニで貼りつく瞼をゴシゴシこすりながら壁の時計に焦点を合わせる。ボンヤリ見えた時計は13:45を指していた。日曜夕方の少女なら、顔の半分に縦線が入ってる事だろう。
時間の流れは冷酷だ。なんて言いながら遅刻が確定したのでゆっくりとテーブルの上のタバコに手を伸ばす。起きてすぐのタバコはいつもの癖。
38回目の誕生日に歳上の女性から貰ったzippoで火を点ける。
茶色い革に巻かれたzippo。コードバンと言う馬の革を使用しているらしい。使えば使うほど味わいが出てくるライターだ。
昨日は事務所のお披露目で、関係各社を招いたパーティーを開催していた。
あまりの嬉しさに年甲斐なくいささか飲み過ぎた様だ。
高校を卒業して、すぐに入ったドカタの世界。
いつかいつかと、わずかな給料を貯めに貯めて、やっとの思いで独立。
今年で40になるいいオッさんだ。
仕事仕事で家庭も持たず、走り回った21年間。やっと手に入れた自分の城と愛しい重機達。正直言うと重機はリースだけど。
それでも、重機の置き場は都心部から離れてはいるが自前で購入したからね。偉いでしょ?周りは竹林と畑しかないけど。
飲み屋で知り合ったオッさんが、持ち山を継ぐ息子が居ないからイラネって言うんで鼻息鳴らしながらその場で売買契約。自分で原野を1000坪ほど切り開いて整地したんで、入手するための費用はビックリするほど安い。
むしろ、重機や資材の盗難防止のために敷地の周囲を囲った万能板の方が高くついた。万能板ってのは工事現場で見掛ける周囲を囲ってる鉄の壁。分かるかな?最近のはアクリル板の場合もあるがウチのは鉄の白い板。頑丈第一。弊社のモットーです!
軽い胸焼けを感じながら胸ポッケから携帯を出して13:30に会う約束だった金融屋に電話をまわす。若い奴に言わせると電話を掛けるが正解らしい。
そんな事考えながら、電話を掛けるがなかなか出ない。何度目かのコールが機械的なお姉さんの音声を流し始めたので諦める。
今日は土曜日、金融屋も休みたいんだろうと胸焼けの気持ち悪さも手伝いソファーで二度寝をしようと寝転がった矢先に爆発音。
事務所のガラスがガタガタ揺れる程の大音響。
なんだなんだとソファーから飛び上がる。中古で買ったオンボロスーパーハウスの事務所に損害はないか見回してると、窓の外のちょうど都市部方面の上空にタイムボカンシリーズで見た事ある様な黒煙を発見。
これは一大事と事務所のテレビをつけてみた。
「こちら現場です。暴徒が波の様に警官隊に襲いかかっています。」
ん?何コレ?日本デスか?画面の隅っこでは血が飛び散ってる警官もいるけど放送して大丈夫?
いきなり映画の様なシーンで面食らっていると、画面はスタジオに切り替わる。
「ただいまショッキングなシーンが映ってしまい、大変申し訳ございません。ただ、この様な暴徒が日本全国各地で確認されている事は事実です。どうかこの番組をご覧になっている視聴者の皆様は、固く戸締りをして外出を控えるか、近隣の避難指定場所へ避難してください」
さっきのタイムボカンな黒煙はその暴徒が暴れたせいなのかな?
別のチャンネルに合わせると、「エッ?これを読むの?」と、素の状態のアナウンサーが、ハッとした顔でこちらに向き直り、苦虫を噛み潰した様な顔で、
「ただいま確認された情報では、政府が厳戒令を発令しました。外出は許可されません。無許可の外出は発砲も止むなしとの通達です。繰り返します・・・・」
何だ?戦争でも起こったのか?