自首生活
私は両手両足に拘束用の腕輪足輪。そして綺麗な服には魔力封じの刺繍を施された聖衣を着ている。なお、聖衣は悪魔を封じ、悪魔を退けるものであり。私自身をどう見ているかを伺い知れる。ただし、残念ながら聖衣は逆に魔力を高める結果しかなってない事に気付いていない所を見ると魔法の疎さが目に見えた。
「拘束具にしては……逃げてくださいと言わんばかりね。そう思わない。シルバーライトのお兄さん」
「……どういうつもりでここへ来た?」
銀髪のアルベルトが私を睨む。不満げに。
「罪を犯した者が自首すること。不思議な事がおありで?」
「どういうつもりかと聞いている!!」
「……全て説明しないといけないのですか?」
「黙秘は許されない。自首したと言うなら答えて貰おう」
「皆、本当にすぐ答えを知りたがる。そして……シルバーライトの家は今、あたふたしている事もわかる」
妖艶に微笑んであげましょう。魔女として。悪女として。彼は……椅子に静かに座り使用人を呼ぶ。そのまま紅茶を用意して欲しい旨を伝え、長居する意思を見せた。そして……二人っきりになった瞬間に彼は口を開く。
「魔法使いとしてご教授願おう。そこの妖精を退かしてくれ」
「……へぇ、なるほど。魔法使いね。おやつ用意してくださらない?」
「用意してくれるだろう」
見えているのだからそういう事だ。どおりで昏睡させ得る薬を持っていたわけだ。裏も表も関係なくなって来ているのか……それとも私がかき回しているのか。いや両方か。
「裏の世界では十分な有名人だ」
「老人会ですもの。それも……数人ほど粛清しましたし。シルバーライト家は魔法使い嫌いでしょうに……」
「嫌っているままでいられなくなってきている。誰かのせいでな」
「そんな迷惑極まりない魔女がいるなんてね~驚きよ」
「……」
非常に苦虫を噛んだような表情に私はほくそ笑む。
「その顔に免じて……話してあげる。自首したのは私一人を悪者にすれば参加した妹分に罪は行きにくいわ。それに逃げる時間や、どうするかと言う悩みで動きが鈍くなる。深読みをしてね。現に困ってる。どうするか……ヒナトが捕まえたと言うのも功としてはいいわね」
「自己犠牲で他の令嬢を庇うと?」
「ええ、そうよ。私一人で背負えるわ。私が脅したと言えば信じるでしょう? それに……罪は罪よ。やっていいことではないわ」
「……そこまで知ってなぜ?」
困惑する声音に私は笑みを消し、窓を見る。空は青く、いい天気だ。
「花はね。咲いて終わりじゃないの。咲くまで生きて……咲いて誰かの目にとまるために努力する。だけど、園の中では多くの花が咲き……花が咲き終える時に誰にも目にとまらなければ水も与えられず。剪定され……また新たに植えられる。そんな一生」
「……」
「選ばれなかったら剪定されて終わり。それって……もったいないと思いません? 一回しか咲かないわけじゃない。咲き続ける、生き続ける花もある。そう……あの子たちのようにね。私は花だけが全てじゃない事を示した。草木でも良いことを」
一つ一つ、比喩を混ぜる。そして彼に問う。
「花を捨てる者にはわからないでしょう」
「俺は……」
「あなたも家の者。目を閉じていればいいわ。そういうものよ。手には花束を足元に咲く花を踏みつけて生きていればいい……あら、使用人が来たわよ」
使用人がノック後に部屋に顔を出し、震える手で紅茶を用意してくれる。その怯える姿に……私という噂が垣間見える。
「……ねぇ、いつまで剣を触ってるの?」
「ひっ!?」
「……どうやら。私は怖いらしい。下がっていいぞ」
使用人が逃げるように去り、向かいの騎士は剣を床に投げ捨てる。
「これで迷いはない……」
「豪胆ね。シルバーライトの家にも立派な殿方がいらっしゃた事は驚き。予想だとアウルムライト家よりも腐敗が凄いとお聞きしているのに」
「それに関しては同意見だ」
「……あら?」
「……」
「あららら?」
私は首を傾げる。私の皿にあるクッキーが妖精たちに食べられて行くなかで、非常に変な話を聞いた。家をバカにされたら少し嫌悪感を持つだろ。だが、そんな事はなかった。
「不思議な事ではない。私は……少し家に愛想が尽きた。弟の件でな。家と思想が違えた」
「裏切るとここで言えば身が危ないわよ。家を出ると言うことは恨まれる」
「そう、恨まれる。殺されても文句は言えない。裏切り者だ」
「……覚悟がおありで」
「もちろん。この場とこの間の一件で決心がついた」
「この場とは? 私はなにか助言をしたでしょうか?」
「騎士として大切なのは花を護ることだ。あながち、何処かの騎士と違い。令嬢である者が騎士らしい事をしていると私は思う」
「……次の仕事ならアントニオ商会訪ねたらいいわ。私の顔で相談出来る」
「君は……いや。やめておこう。わかったありがとう」
私は机に肘をつき大きいため息を吐き出す。結局、彼は挨拶だけであり。私をどうこうするつもりはなかったようだった。
「外へ行くなら。弟へ顔を出しなさい」
「ルビアに顔をだすよ。君の代理は……私のように甘くはない」
「わかった。もう、無視することはないな」
知らず知らずに一人の騎士の決心をさせてしまったようだ。まぁ、私にはもう関係ない事と考える。せいぜい斬首が待っているだろう。そして彼が去り、代理の騎士がその日に現れ。一日目は何事もなく過ぎ去っていくのでした。




