弟と兄上と悪役令嬢
兄上ことエルヴィス嬢は一人、学園を一人で歩く。私の目の前で教員用の教典を持ちながら。昔に見た幼い日の兄上の姿が思い浮かぶ。
昔から兄上は教えは上手い。才能がありながらも、相手に対してどのようにすればわかるかを伝えられる。根本原理を理解出来る。魔法使いとして才能だった。
そして……その才能を生かる場合。何処までなるかを私は初めてこの目で見ている。私は背中に声をかける。
「エルヴィス嬢、どちらへ?」
「ん……あら。いいのですか? エーデンベルグ様」
兄上は止まってくれる。私に都合のいい場所に止まったと思う。個室部屋が近くにある。
「妹君の事でしょうか? 妹はシルバーライト本家にお呼ばれしておりますので監視はないです。エルヴィス嬢もこんな場所で油を売るべきではないと思います」
「ふふ、お優しい。残念なのか、私は翼をもがれました。出る杭は打たれたのです」
「本当の所は……違うでしょう」
「ええ、私が出る幕ではないです。『学園生活を楽しみなさい』と命令されてますのでね。商売も上場です。私のかわいい妹たちが使うのでいい広報になります」
「何も怖くないと言うことですか?」
「何も怖くないわけではないわ。あなたを失うほどより怖くないだけよ。死ぬよりも……私の血を分けた大切な弟ですから」
「兄上……」
「……姉上です。元凶」
「いいえ、兄上です」
私は兄上に近付き、肩を掴んでゆっくりと壁に押し付ける。綺麗な澄んだ瞳に驚く声をあげた。
「兄上、その目は?」
「何かしら? わからない」
「両目がオッドアイ……色違いになってます」
「……魔法の影響かしらね。悪魔になった証よ」
「そこまで……どこまで私ために」
「いいえ、これはあなたのためじゃない。私のためよ……好きな子を奪いたい。ワガママ理由」
「いい理由です。すごくいい。お陰で監視の目さえ忙しい状況になった」
「そう、ねぇそろそろ肩を離してもらっても……」
ドンッ!!
私は壁に手を置く。今さっきから、私は完璧ですと言う高慢な令嬢の兄上がいとおしく。そして、今の瞳が揺らぐ瞬間がいとおしい。
「……ヒナト?」
俺は名前に答えず。唇を奪った。
*
私は……弟を勘違いしていたのかもしれない。抑圧された獣と言うのは酷く暴れる。だから抑圧する。躾をする。大人しくなるまで、身を美しきさせるまで。
「……ヒナト。聞くけど……バレたらどうなるかわからないよ」
「兄上がここまで魅せてくれたんです。弟として……恥のないように、私も魅せます。悪い悪い兄弟としてね」
「……」
「兄上、そんな悲しい顔をしないでください」
私の顎をヒナトが掴み、じろじろと顔を見つめてくる。値踏みするように、不安がる私の表情を楽しむように。
「兄上が私にしてくだった躾は非常に大切です。それを捨てるなんてことはしません。騎士として」
「……なら、何故そんなに悪い笑みなの」
「兄上も悪い笑みをするでしょう。私もそうします。ただし、私は私の方法で行います。エルヴィス・ヴェニス」
「………」
私は少し、やりすぎたのかもしれない。厳し過ぎたのかもしれない。その反発がくるのかもしれない。そう、私はヒナトに強要しすぎたのかもしれない。
「兄上、いい声でこれからもよろしくお願いします」
彼のお願いに私は答える事はしなかった。




