令嬢の内職
エルヴィス嬢は一人悩んでいた。一人で悩んでも仕方ないのでエルヴィスは3人とお茶会を開く。用意した紅茶とコーヒーを人数分用意をして。学園のガセボで会議を行う。
「今日のお茶菓子は私が作りました」
「エルヴィス。毒入ってないわよね」
「エルヴィス姉さん。本当?」
「姉貴のクッキーかぁ。美味しいなこれ……うぅ!?」
「メグル!? エルヴィス!?」
「メグルちゃん!?」
「メグちん!?」
「……冗談」
「「「ぶっとばしますわよ」」」
「ははは、姉貴たち焦りすぎ。エルヴィス姉貴も焦るなんて驚かなかった」
「いえ、もしかして入れてしまったのかと思ってしまってね……取り乱しちゃったわ」
クスクスやふふふと令嬢は笑う。なお、監視の目はあり。その中での『魔女の夜』主要メンバーが集まる。視線を感じながら4人は聞かれてもいい会話から話をする。
「姉貴、そういえば売上が良いそうですね。魔法具の」
「メグルも使ってるその剣、いいでしょ」
「ええ、大変。お役にたっております。妹たちも便利であると喜んでおります」
「そうね。そういうニーズにあった護身武器です。令嬢は剣を持てませんからね。我々は夜の人間。それを行使するには便利です。それに名木からの杖はお高い。折れやすい。数を揃えるにも不向きで、品がないです」
バッとエルヴィスが扇子を開く。赤い扇子には呪文が彫られており、エルヴィスの体に浮き出た紋章を描いていた。悪魔の絵、だが……誰もその絵を悪魔とは思わなかった。鉄の扇子を閉じ、エルヴィスは一つ呪文を囁く。
「監視がありますね。何処の誰でしょうか? ルビアちゃんわかる?」
「エルヴィス姉さん。たぶん、令嬢と騎士です」
「あなたを危険だからと付けてるのよ」
「姉貴は人気者だからなぁ。魔法使いの中で儲けてるし」
「そうね、資金は潤沢。余裕がある……まぁ呼んだ理由はわかるわね」
エルヴィスの問いに3人は頷く。
「なら、話をします。相手の動きがわからない。そう、わからない。情報屋からは動きがないと聞くわ」
「そうですね……もう一月を過ぎるわね」
「姉貴、こっちから仕掛けるの駄目なのか?」
「駄目よ。騎士団にそういう話をしたわ。そしたら止めるように言われて今に至る。だけど……彼らは護ってくれると約束してくれた。事件が起きたあとすぐに向かうってね」
「騎士団に任せるのかよ姉貴……」
「『騎士団は事件が起きたあと』と言ったの。確認したわ。事件がわかり次第とね。そう、それまではグレーなゾーンよ。逆襲の時間はその間ね」
「エルヴィス姉さん。でも、相手が動かないよ?」
「そう、爪を研いでいる。わからない、それしかね。兵を集めている。そして……私達の誰かが犠牲になる」
「はぁ、エルヴィス。妹分を見殺しにするのか?」
「妹分は護るわ。私がついたらね。それ以外は耐えなさいと言っておいて」
「姉貴……姉貴なら」
「無理、兵力差を見なさい。攻める側のが難しいのよ。護り側のが有利は基本。メグルちゃん、バーディス、ルビアちゃん。私が集めたのは……相手がどうするかを考えるために呼んだのよ」
「姉貴……じつは焦れてる? 結論、待つと決めたでしょ。姉貴」
「……そうね。そうよ。焦れている」
「ふふふ、エルヴィス。私より待てないのね」
「姉さんは涼しい顔して激しいですもんねぇ」
「姉貴……気持ちわかるっす。だけど、妹分のが落ち着いており。まぁ……姉貴らしくないかと」
「………うん。そうね。血の気が昔から多かったからねぇ。弟がいっつも止めてくれたわ。はぁん……と言う訳で皆さんワガママ聞いてもらって大丈夫?」
「まぁ姉貴の血を治めるなら。いいやろ」
「じゃぁ、皆、机の下見て」
3人が机の下を見ると数本、短い鉄の杖が用意されており皆がそれを手に取る。
「では、工具を持ってきます。鉄なので彫るの大変なんですよ。ロゴと軽い呪文増幅出来るようにしましょうね」
「……エルヴィス。私達に内職させるつもり?」
「妹分全員に配ってもいいわよぉ。一人で無理なの。納期間に合わない」
「……売れ行きよかったなんて言ってたけど。姉貴、そういう事ですか」
「姉さん……」
「一人、10本お願いね。私達の賃金よ」
「まぁ、エルヴィス……仕方ないやりますわ」
エルヴィスは隠していた工具を持ち皮手はめる。そして……笑顔で皆に同じ道具を手渡し内職をしだすのだった。
*
「エルヴィス嬢たちは何を?」
「一生懸命に鉄の棒に文字を彫ってます」
「……」
「如何致しましょうか?」
「一応、聖女さまに報告だけしよう。お前はそのままで……」
「はい」
「今日は異常はないようだ」
隠れていた騎士がそのまま双眼鏡を下ろし、エルヴィスの行動を報告に離れる。そして……その立ち上がったときヒナトとすれ違いになる。
「あっエーデンベルグ様。すいません今から報告に上がります」
「ヒナトでいいです。エルヴィス嬢の動きを見に来ました。聖女に報告どうぞ」
「はい。では……」
騎士が一人去り、ヒナトは双眼鏡で見ている騎士に近づく。
「そうなんですか。鉄の棒を彫っているだけです」
「杖を作っているのですね。内職ですか」
「ええ、そのようです」
「騎士には縁のない物ですがあれは魔法使いの杖で触媒になる物です」
「知っております。あの4人は魔法使いと……いうことですね」
「それはそうでしょう……『魔』を扱う者ですから。私も監視します。綺麗な令嬢を見れるのは楽しいでしょう」
「牙を持たなければかわいいのでしょうが……どうぞヒナト様」
「ありがとう」
ヒナトは双眼鏡を借り、エルヴィスを見続ける。掘りながら楽しそうに談笑する姿を見て笑みを溢す。
「……いい友達。出来てるね兄上」
そう、エルヴィスは溢し寂しい想いを伏せて眺めるのだった。




