悪役令嬢の企み
騒ぎを起こした数日後にナナとダリアの二人はエルヴィス家の旗が飾られている路地裏のお店に顔を出す。そこはエルヴィス傘下から、学園令嬢の一部のみ入れる店であり。使用人に混じって令嬢たちの遊び場となっていた。本を読みたい者や勉強したい者。家で休まることの出来ない令嬢が羽を休める居場所となっていた。
血なまぐさい臭いは全て取り除かれており、改装も終わり。エルヴィスの用意した服の倉庫など。特別待遇が生まれていた。
そう、エルヴィスの下に来るとルールはあれどこの建物を使う事が出来る。そして……最上階にエルヴィスの椅子がある。
「ねぇ……呼び出しあったね。ナナ。どうする?」
「大丈夫。大丈夫よ、ダリア。遺書は書かされてるでしょ」
「大丈夫じゃない!!」
その最上階の扉。元、長が居た部屋の前に二人はたっていた。短いスカートにブーツを履き、戦える状態のまま来た二人は深呼吸をして戸を叩く。
「どうぞ」
中から、エルヴィスの声が聞こえ二人は恐る恐る部屋に入る。部屋には中央に大きい椅子に足を組んで座るエルヴィスと両脇にルビア、バーディスが座り、メグルがバーディスの隣で剣を持って座っていた。談笑していた雰囲気にはナナとダリアは見えず。背筋が伸びる。メグルの傷まみれの顔に張り付く鋭い瞳に二人は震えた。
「メグル、目を放しなさい。怖がってるわ」
「ふふ、メグルちゃん。怖いもんねぇ~」
「メグル、もっと目力抜きなさい。一応は令嬢でしょう」
「私はなんもしとらんのんですが。姉さん方……」
メグルは姿勢を外して3人を見つめ、3人はクスクスと笑う。ナナとダリアはその光景に『やめて、こわい』と思うのだった。異常にこの4人には畏怖を感じてしまうのだ。
「えっと、そこで立ってないで座ったらどう? なぁに緊張する話でもないわ」
エルヴィスが椅子を進める。空いている椅子に二人は座り、小さく声を出す。
「その、エルヴィスの姉さまに呼ばれて来ました。ダリアとナナです。要件はなんでしょうか?」
「ふふ、要件はもちろん。先日の事件のことの続きよ」
報告を済ましていた二人は腹を括る。
「……すいませんでした」「すいません」
「あら、悪いことと思ってるの? 褒める行為よ。悪党を倒したのだから。二人とも素晴らしいと思います。気を抜いて……緊張してると肩が凝るわ」
それを聞いた二人は顔を上げて安心した表情を見せる。エルヴィスは頷き、話を続けた。
「実は私達のその行為に店長が直々にお礼を言いに来たわ。いたく大喜び。そして……お願いされもしたの『守衛』の」
「守衛ですか?」
「そう、守衛。契約していた守衛が役立たず切ったらしいわ。だけど私たちはそんな騎士の真似事をしようとは思わない。目的は違うわ……だから。違うことをする事にしました。名前を貸します。店の人もそれでいいと言ってました」
エルヴィスが笑みを二人に向ける。
「私の組織名はヴィニス家。ヴィニス家のナナとダリアと言う名前を貸します。それの許可とお願いを言いに呼びました」
エルヴィスが言い終わる時、バーディスが補足を加える。
「名前を貸すと言うことは何か事件があれば相談に乗ると言うことよ二人とも。ようは、あの店の事件をあなた二人で何とかしないといけない。まぁ、私たちも手伝うわ。バイトも請け負ってくれるし、社会見学も出来る。悪い話じゃないわ」
「……えっと。エルヴィスお姉さま。質問よろしいですか?」
「どうぞ、ダリア」
「お姉さまの名前をお貸しすればよろしいのではないでしょうか?」
「それは、あなた方の功を奪う事。あなた方が行った善です。おこづかいも弾むと言ってました。なのでたまには顔を出してくださいね」
「エルヴィス。彼女らはまだ了承してないでしょ」
「いえ、はい!! やらしてください!!」
「わかった。二人とも話は以上です。ありがとうね」
「いえ、お姉さまの役に立ててよかったです」
「はい、お姉さまの夢。頑張ってください」
「ありがとう」
二人は立ち上がり、そそくさと逃げるように部屋を出ていく。そして残された4人は談笑を始める。
「エルヴィス、怖がってるじゃない」
「うーん、おかしいなぁ。どうして怖がるのだろう? かわいいでしょ?」
「お姉さま妖艶です」
「エルヴィス姉貴は腹に何かあると思われてるのでしょう」
「まぁ、たくさんたくさん蓄えてるからぁ? ぶちまけていいの?」
「却下」「お姉さま、やめてほしい」「姉貴……やめよう」
3人が真剣に制止し、座りながらエルヴィスは肩を落とす。
「はぁ、もう。まぁ、いいわ。じゃぁ……いまの情勢を説明します。実はあの事件の裏を見つけました」
「姉貴、お店の事件ですね」
「ええ、聞けば守衛がいないとどうなるかと言う見せしめで襲ったそうですね。私は妹分の後始末と逆襲や、恨みを買うだろう事を思い手打ちとするため色々潜ったんです」
「エルヴィス。あなたって人は……」
「今度は私も呼んでください姉さま」
「エルヴィス姉貴……一人は危険です」
「これでも若輩の『老人会』よ。まぁ、あなたたちが居るから私が動けるの。自由に私が動くためにあなたたちは居るからね」
「エルヴィス姉貴。その行動でどうやって弟を取り戻せるかわからない」
「遠回り。すごい長い遠回りをします。それに楽しいですよ。ふふ」
「エルヴィス笑うのね……」
「立派なアイデンティティよ。まぁ、潜った結果。多くの事を教えてくれた人いたんですけど。残念ながら、もう聞けなくなりました」
「エルヴィス?」
「私がやった訳じゃない。そういう人達がいるの。そしてね……無関係かなぁ思ってたら関係あるのよ」
「姉さま。関係あるってなにが?」
「ここの店の主ってそういうのやってた人だったの。そしてね……『島』と言う物を持っており。私たちはそれを潰し『島』を解放したの。『島』と言うのはそこでお金を生む暗殺や監禁、拉致などの裏の稼ぎをする領地の事ね。要はそれを奪い合う戦争が裏で行われてるらしいけど」
「エルヴィス!?」
エルヴィスが話す内容は到底、令嬢に似つかわしくない内容であり。皆が背筋が冷えていく。
「力を持つ、首を突っ込むと言うことはそういうのに触れる事よ。今さらビビるな。妹、親友よ」
「だって……エルヴィス」
「そうね。夢や噂、表では全く見えない世界。でも魔法使いも見えない世界でしたでしょ? 『聖女』の知らない世界よ。きっとね。だけどこれが現実。騎士も触れない所ね」
「……姉貴はどうするつもりですか?」
「宣言した。奪い合う戦争をさせないために『島』の領有と妹分へ関わったものへの報復を行うとね。でっ、断った人が居たわ。若輩の女風情と言ってね」
エルヴィスは壁に張ってある都市図の前へ立つ。そして……言う。
「ここの『島』の持ち主に喧嘩売られてる。それも……店を襲ったあの雇い主のね」
「あの店を襲ったのはもしや。エルヴィス……あなたに対してのメッセージ?」
「『島』の管理不届きを示す方法でしょうね。まぁ、運悪く失敗してしまったけどね。別に『島』はいらなかったけど。これも、運命でしょう。店の人が安心して店をやりたいでしょうから。首を突っ込みます」
「騎士は何をやってるんでしょうね。姉さま」
「ライト家は舞踏会や令嬢の味見で忙しいわ。貴族は貴族よ。衛兵も衛兵ね。だから……そういうのはあるのよ」
エルヴィスもショックを受けている。しかし、それは黙って涼しい顔をする。輝かしい光栄の舞踏会に参加していた身である。バーディスが苦笑いをし、ルビアは自身の家に反吐を溢す。メグルはそれに『?』と顔に出していた。
「まぁ、要は喧嘩です。それも、死ぬ喧嘩です。お金のためにかっこつけてね。皆にゆっくりと説明してあげて……でっ抜ける者は指輪をかえしなさいと言っておいて」
エルヴィスが3人に向き直り。そして……それにメグルが問う。
「姉貴……その突っかかってくる野郎は何処に居ますか?」
「メグルちゃんどうしたの?」
「いえ、姉貴。血が騒いでしょうがないんです」
「力に溺れるなかれ」
「いいえ、力を抜くんですよ。燻ってるんです。私は今。勝ったら、褒めてください」
「はぁ、わかったわかったわ。任せる。かっこつけてきなさい」
エルヴィスの問いにメグルは剣を持って部屋を出る。残された二人はエルヴィスに問う。
「いいの? エルヴィス?」
「エルヴィス姉さま。荒れるのでは?」
「どうなるかわからないわ。でも、力を示すのはいいことよ。結局、弱いものは喰われる世界なの。もしも、厳しいなら助けてあげてね」
「わかったわ」「はい姉さま」
エルヴィスのお願いにバーディスは頷き部屋を出る。ルビアも同じように立ち、部屋を出た。残されたエルヴィスはそのまま。静かに一人で紅茶を淹れる。余裕を魅せるように。
「にしても……『聖女』と戦うのいつになるかしら?」
そう、口にしながら。弟を想うのだった。




