4人の悪女
エルヴィスは魔法を解くことはしない。3人の令嬢に向き合い不敵な笑みを張り付ける。我が道を往くために必要なことと割り切り。彼女は笑う。
「エルヴィスの強さ知らないのでいい機会ね」
「そうですね。エルヴィス姉さん」
「……姉御たち」
「とっとと構えなさい。メグル」
バーディスがメグルに剣に腰から抜いたカードの魔法陣を当て、魔法を付与する。
「一度だけ、弾けるわ。それだけよ……ルビア!!」
「なぁに?」
「……一発だけね」
「わかった、わかったよ。本家本元、魔法使いの魔法を見せてあげる」
「さぁ、何処からでもかかって来なさい……かわいい妹たち、バーディス。来ないのなら……私から」
エルヴィスは手を振り上げ、そのまま切り払うように振り下ろす。背後の火の鳥がエルヴィスを飛び越えて3人に迫る。バーディスは腰のカードから水の魔法陣を、同じようにルビアも水の魔法を唱える。水流の弾が勢いよく火の鳥にぶつかり混ざり合う。
「今よ!! メグル行きなさい!!」
「押さえるの少しだけです。メグル」
「はい!!」
メグルは剣を強く握り、走り出す。真正面、エルヴィスに一直線に。
「甘い!!」
ブワァ!!
エルヴィスは右手を振り払う。魔力が粉のように振り払われて結びつき一瞬で炎の壁が生まれる。メグルはそれに……正面から当たり。剣を強く振り、一度の付与された魔力を解き放ち切り開いた。
「……ん」
エルヴィスはそのままその場を動かない。そして、メグルは大きく振り払った勢いのまま体を捻り、エルヴィスに斬りかかってしまう。無我夢中だった。だからこそ、勢いを殺せず。そのままエルヴィスを斬ってしまう。エルヴィスは避けはしない。
「あっ!? 姉さま!?」
ズバァアン!!
エルヴィスは服が裂け、血筋が走る。だが、その血筋が炎となり、身を癒す。斬ったメグルの方がびっくりするほどに堂々と胸を隠してエルヴィスはその場を動かなかった。
「エルヴィス!?」
「エルヴィス姉ちゃん!?」
エルヴィスは空いた手でバーディスとルビアを制する。近寄るなと無言で睨み。エルヴィスの肩に小さな火の鳥が止まり消え失せる。
「メグル……こちらへ」
「エルヴィスの姉御……傷は? なぜ……避けてくださらなかったのですか?」
「私は『ここを動かない』と言ったわ。それだけよ。それよりも受け取りに来なさい」
エルヴィスは待ち、メグルが恐る恐る近付く。そして、エルヴィスは近付いたメグルの右手をつかみ。その小指に指輪をはめる。綺麗なピンク色の輝きを持つ指輪にメグルはみとれる。
「では、今日は解散。バーディスの妹たちとの戦いに備えなさい」
「……はい。姉御」
エルヴィスはその場から何もなかったかのように更衣室に向かって立ち去る。残ったメグルにルビアとバーディスが近寄る。
「あんがいあっさりね。よかったじゃない。にしても斬っても死なないエルヴィスは本当に化け物になっちゃたわね」
「姉さんに最初に会った時から思うのは爪隠しが上手いですよね。逆にぞくぞくしちゃう」
「助けていただきありがとうございました。姉さん方」
「ああ、よかった。見直したわ」
「ふん、これからも私も姉さんと言いなさい」
「ルビア……偉そうに」
「偉いですから」
3人はそのまま、クスクスと笑い合うのだった。
*
「はぁ、よかったよかった。予想よりも早く打ち解けたようね。立派立派」
私は訓練所を出たあと盗み聞きをし、3人の様子を伺い。大丈夫そうだと安心して、場所を移す。上手く行き過ぎて笑いが出そうだが。淑女はそんな事をしない。
笑う時はもっといい場所で笑うべきだ。その時は魔女として盛大に笑ってやろう。
「思った以上な活躍を3人に期待しましょ……では私は……」
お金稼ぎを考える。3人に渡せる賃金を用意しなくてはいけない。副業の服屋はそこそこだが、まだしっかりと喧伝できていない。
「折角です。手に入れた城でも……眺めに行きましょうか?」
私はほくそ笑みながら。奪ったギルドの建物の事を考える。立派な城になってくれると信じて……そこを学園外の拠点とする事を決めている。
「そういえば……聖女の動きもみてみましょうかね。いいえ、今はどうでもいいかしら」
夢見心地の聖女に現実を突きつけるのはもっと先になりそうだ。




