悪役令嬢のご登校
早朝、学園で異様な光景が生まれる。ざわつく胸中を察されないように息を整えて校門前に並ぶ彼女たちに挨拶をする。ルビアちゃん、バーディスと共に9人が並んでいた。
「おはよう、皆さん」
「「「「おはようございます。姉様」」」」
「おはようエルヴィス、ルビアちゃん」
「おはようエルヴィス」
「エルヴィス姉ちゃん、おはよう」
集合した彼女らに挨拶が終わるとバーディスが耳打ちをしてくれる。
「エルヴィス、堂々と真ん中を歩いて。そのままついてくから」
「わ、わかったわ」
「堂々としてよね。私の面子、あなたに賭けてるんだから」
「ふふ、本当に私にそんなに入れ込んでいいの?」
「馬車の途中下車はないわよ」
私は言われるままに堂々と校門の真ん中を歩き、後ろからエルヴィス、ルビアちゃんが続き。9人も私の後ろに続いていく。視線を集める中で私は……自身が兄だった仮面を思い出す。捨て去ったヒナトに見せるべき男らしい騎士の仮面を。
しかし、私はそれを拾って使う気はなかった。何故なら新しい仮面。魔法使いのエルヴィス・ヴェニス令嬢としての仮面……いいえ。私のこれが本当の私だと言える面を見せようと思う。弟のためじゃない、自分のために。
そう考えた時、昔からやって来ていた事が過る。バーディスが賭けてると言っていた事も含めて……ゆっくり振り向くと。
「エルヴィス、振り向いてどうしたの?」
「かわいい妹分の顔を見たくなっただけよ。行きましょう」
私の護るべき子達が見えた。私はそのまま校内へと向かい、解散を言い渡す。まだ『私のクラス』はないためである。そして私は自身のクラスへと向かわずに教職員。貴族令嬢の大姉さまや先生の待つ別宅へと向かったのだった。
*
騒ぎがあった。校内に大きな大きな騒ぎが。
「エルヴィス嬢が久しぶりの登校らしいです。聖女様」
「ええ、そうらしいわね」
クラスの中で私の仲間である令嬢の一人が囁く。私は私で……何か良からぬ事が起きるのではないかと背筋が冷えた。お兄さんには釘を刺しており、監視用の魔法具もつけている。実際、お兄さんには全く動きがみられなかった。だけど……
「エルヴィス嬢はまだ弟を諦めてないらしいですね。聖女様」
「噂ですけどね」
そう、噂でずっと囁かれていた。そして……他にも悪魔のような噂話も多く流れていた。そう、自然と忌み嫌われていた結果。私は非常にやり易く悪口を言って令嬢のグループにすぐ溶け込めたし。いっぱい仲間が出来た。
だからこそ敵いっぱいの所に堂々と顔を出すなんて私には予想だに出来なかった。そう、私なら転校する。熾烈ないじめや悪口が予想出来るのだから。
しかし、彼女は来た。それも……正面から堂々と。
出会ったあの日の令嬢を思い出すが……容姿からなんとも理解が出来なかった。
「聖女様、まぁ所詮……悪役令嬢が一人増えただけです」
「そうです。ヴェニス家なんて本当は取り壊されるべき家なんですよ。貴族のふりして」
「そうよ、貴族にふさわしくないわ」
私の付き人の令嬢たちは悪口をいい。クスクスと笑いつづける。私もそんな光景を見ながらも……頷く。
「そうですね。今は私たちで学園をより良くしましょう。あまり悪口が過ぎますといけませんよ」
「ええ、聖女さま。そうですね」
「はい」
そう、私は聖女なのだ。聖女なのだから悪口はやめようという。そう、私は良き行いをしていけばいいのだ。
*
私は大人な人たちにお願いをし教室一つを分取り。研究室の一室を勝ち取った。実際、校長が迎えてくれ……私のお願い一つ二つ簡単に了承してくれた。その行為に感謝を示し、謝罪もした。ちょっとワガママであると思っての行為だ。
だが、校長は首を振って許してくださった。お金はたんと貰えると笑みを向けた。彼もまた商売人だったようだ。私がエルダーになった結果。在校していた事で人を集めるらしい。魔法使い向け、『老人会』出身者の母校でも宣伝するのだろう。
「エルヴィス。どうやってクラスと研究室貰ったのよ」
「エルヴィス姉さま。脅しですか? 脅しですよね?」
「残念、脅しも立派な大人な交渉よ。多用してはダメだけどね。クラスと研究室を貰った理由は私が魔法使いの教育をしたい旨を伝えたからです。いい商売になるかもしれないので魔法学部設立のモデルとさせて貰うらしいわ」
「権力持つとすごいわね……」
クラスで私達は集まり、談笑をしながら時間を過ごす。そして……授業時間になった時。私は黒板の前に立ち授業を始めるために。
「では、令嬢諸君。魔法使いの門へようこそ。魔法使いには才能があれば登れるだろうけど。魔法使いだけならばあなたたちでも成れる事を私は証明するため。授業します」
皆が椅子に座り、私は笑みを向ける。
「魔法使いの店どんなのか知りたいでしょう。その馬車の切符、私が売ってあげるわ」
私は先導するように、宣教するように、洗脳するように魔法使いの素晴らしい権力を見せつけ。私のための『兵隊』を作るために……ヒナトに行ってきた魔法使い勉強を行うのだった。
*
授業後、午後になると私はクラスに解散の支持を出した。クラスの子達は皆が皆、思い思いの友達と下校する。下校も彼女達は許されている。私の『生徒』であるため。
「エルヴィス姉さま。非常に教えるのうまいですね」
「ありがとうルビアちゃん」
「エルヴィス。これからどうするの?」
「ここでアントニオ商会を待ちます。いい商品があるんですよね。魔法使いでは外道かもしれませんけど、魔法使いだけの専売特許はちょっとズルいでしょ」
そう、私は腰につけているホルダーを配ろうとしている。製作は私が行い配布して魔法使い擬きを作ろうと考えた。魔力がない魔法使い。新たな魔法使いの形を作るのだ。世界を変えてしまうかもしれない。バランスや多くの不幸を生むだろう。
だが、そんな小事。ヒナトに比べれば関係なかった。私の天秤は狂い。二度と傾きが直ることはないだろう。
「エルヴィス。私でも魔法使いに?」
「バーディス、なって貰わないと困るのよ色々とね。そして……厳しいルールを設けます」
「ふふ、期待していい?」
「もちろん。セシル君を虐めましょう」
かわいいかわいい聖女に何処まで肉薄し、エーデンベルグ公に交渉まで持っていけるかわからないが。ゆっくりと前進しているのがわかったのだった。




