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回想・お母さんは愛してくれている


「……お母さん……助けて」


 お母さんはいつもいつも僕だけを部屋に残し、代わりにいつも男が入ってくる。そんな日々で、僕が苦しみお母さんに助けを求めていると男が耳元で囁いた。僕は男の反応一つ一つに恐怖を抱く。


 いじめられる。痛みを与えてくると身が震える。所々腫れた体がジクジクと痛みを伝える。


「ひっ!?」


「お前のお母さんはお前を愛してないかもな」


「……」


「……見せてやろう」


 男が僕の汚れを拭い。そして……ドアを開ける。すると……お母さんが笑いながら立っていた。隠す素振りも見せず部屋に入って椅子に座り化粧をする。


「ほら、お前が苦しんでいるのを……ああやって喜んでいる」


「……お母さん?」


「最初から用事なんてなく。ああやってイジメられてるのを見ていた」


「いいえ、用事がある。舞踏会へ参加のね。その子、任せるわ」


「お母さん? お母さん……」


 お母さんは嬉しそうに部屋を出ていく。僕はそのまま、手が空を切る。


「助けを求めてお母さん助けてくれたか?」


「……」


「くく、だいぶ無感情だな。えらいぞぉ……お前より舞踏会が大事だしな。あのドレスも化粧品も全部お前がお母さんに貢いだもんだ。ご飯はしっかり食わせて貰ってるから。商品価値はわかってるだろうがな」


「……」


 僕は難しい言葉を並べられ。わからない。ただ……悪意だけは読み取れた。そして……


「お前、お母さんに愛されてないかもな?」


「あっ……」


「おお、かわいい反応。泣くと余計に楽しい」


「うぅうぅ……」


 僕に男はずっと……お母さんが僕を愛していないことを囁き続けた。







「はぁはぁ!! 畜生!! 畜生!! あの男!! 畜生!!」


 お母さんが帰ってきた。髪を乱し、悪態をつきながら。僕に男の声が忌々しく残り続ける。お母さんは僕を愛してないという声が。へたりこみ泣き出すお母さんに声をかける。


「お母さん……あのね」


 僕はお母さんに近付く。聞きたい……昔のお母さんの声が。


「お母さん……」


「あん? はぁはぁ……」


「お母さん……僕の事、愛してる?」


「……!! お前が、お前が生まれても変わらなかった!!」


 お母さんが立ち上がり。僕をベッドに押し倒す。怒られると思い身が固まった。そんな僕にお母さんは首に手を当てゆっくりと絞めていく。


「かは!? お、か……」


「お前を生んでもあの男は変わらなかった!! あの女のせいね!! ヴェイス家の女を恨みなさい!! 私は悪くない!! 悪くないの!! くそくそ!! 気にくわない!! 捨てたあの男も、その男の血を持つお前も!! 許さない!!」


 首が絞まり息が出来ない。お母さんを呼ぶ声も聞こえない。


「苦しい? 苦しめ!! 私よりお金を貰えて愛されて……なんで私がこんな惨めな思いをしないといけないの? なんであなたが生まれたの? なんでなんでよ!!」


 僕はお母さんの頬に触れようと手を伸ばす。だが、振り払われ。力なくベッドに横たわる。


「……情? やめてよ!! 嫌い!! 嫌い!! 笑ってるのが!! お母さんお母さんって気味が悪い!! あの男を引き留める力もない」


 僕は意識が薄れていく。そして最後にお母さんの声を聞いた。


「生むんじゃなかった……殺せばよかった」


 そう、お母さんは言った。





「ん、ふぁ!! けほけほ」


 ベッドの上で僕は目を醒ます。太陽が昇ったのか窓が少し明るい。ベッドの上で上体を起こすと静かな部屋だけがあった。


「……」


 無感情のまま、お母さんを目線で探すが。お母さんは居なかった。ただただボーっとして……そして……部屋の片隅に踞った。


「……お母さんどこ?」


 僕はそのままそこから動かず。お母さんを待つ。自分のお母さんに怒られた行為を反省し、お母さんにあそこまで怒られた事を……思い出してすすり泣く。


「お母さん……ごめんなさい、ごめんなさい」


 何度も何度も……僕は片隅で謝り続ける。だけど……お母さんは帰って来ることはなかった。ドアを開けて探そうと思えた時には夜となっており。そして……扉は固く閉められていた。


 次第に僕は……帰って来ないお母さんを待ちながら。腹痛と喉の渇きを感じつつ。床に転がった。


 どうしたらいいか、わからず。そのまま僕は……目を閉じる。


「……お母さん……死んだら喜ぶかな」


 そう考えながら。

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