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唐突な話


 ある日の早朝、学校から急に母上父上から呼び戻しを受けた私は……家に帰るなりメイドたちに捕らえられ着替えをさせられる。理由もわからない行為中に母上が現れて、説明を聞き怪訝な顔をする。父上さえ部屋に入ってくるのでどうしようもない。


 いや、父上。着替え中。


「こら!! エルヴィス!! そんな顔をしない!!」


「お嬢様!! そうです!! もっと笑ってください!!」


「エルヴィス!! 頼む!! 得意先なんだ……」


「ええ!! わかってますよ!! 俺はそれでも!! 嫌だぁあ!!」


「俺禁止!!」


 べっちーん!!


 ドレスの布越しにお尻から強烈な痛みがする。母上を見ると躾棒を手にし、私に注意をする。


「昔の優等生だったあなたを演じなさい。結婚後に化けの皮を晒すのです。結婚後なら大丈夫よ!! ね!! あなた」


「結婚前から化けの皮剥がれてただろう!! まぁいいか。それよりもエルヴィス。嫌なら、やんわり断りなさい。向こうは超有名な愛結婚夫婦の子。政略じゃないだけましだ。話はわかる」


「うぐぅ。ぐぐぐ……女になると言うことはこう言うことがあるのか……」


 唇を私は噛み。悔しい想いを吐露し、仕方なくドレスを着ていく。コルセットはやさしめにつけて貰う。苦しいのは嫌である。


「そんなことよりも。今日は学校だった!!」


「向こうも学校だ。お前と面識がある。家については伏せてあって驚かせると言っていた」


「そんな名家と? ああ、父上の取引先なら納得……」


「ああ……俺も驚いた。あんまりこう言うのは得意じゃない。娘を差し出すのも……」


「息子!!」


「エルヴィス……すまんが。もう息子は死んだよ」


「くっ……今までの幸せのツケがここで炸裂するのか」


 悔しい考えと一緒に今までの生活を思い浮かべ……ヒナトと過ごした幸せの日々の終わりを感じさせた。いや、死んでない。


「エルヴィスお嬢様!! 客室にお迎えしております!!」


「エルヴィス……私の財布を渡すわ。楽しんできなさい」


 私は母上から小さな鞄を受けとる。そのまま、大きく大きくため息を吐く。


「ああもう!! 来ているなら仕方ない!! 波を立てず行きます!!」


「頼んだ」


「エルヴィス、殿方に失礼ないように」


「なんで令嬢の真似事をしないといけないのか……」


 腹は括った。断るならばやんわりと断ろう。そう決めて胸を張り客室へ向かった。母上父上もついてこず。メイドだけがついてくる。戸を叩き、声音を変えて部屋に入る。すると……赤い髪の青年が座っており。私は……驚く。


「えっ? ハルト君?」


「こんにちわ。エルヴィス嬢」


 私の頭にあった断るためのプロセスが全て吹き飛んだ。





 私は彼を庭のガセボにご案内する。商家であるが打ち合わせに屋外でと言うことで我が家には設けていた。ばら園などなく、とにかく簡素な作りである。


 そして私は今の変な状況を聞くために。メイドにもお茶菓子を用意して欲しい旨を伝えたあとに彼と向き合う。


「えっと、確認します。俺……じゃない。私の婚約者候補としてあなたが手を挙げた。間違いないですね?」


「おう。そうそう。俺が結婚までしたい令嬢が居ると相談し……動いてくれたんだ。父上母上も」


「はぁ……何故? ハルト君はモテますよね? なんの間違いでヒナトと同じ事を……」


「理由が知りたい?」


「もちろん。私なら……私自身を知っていると中々、結婚したいと思えないのです。遠からず結婚すべきでしょうが男を愛せとはちょっと無理です」


「男を愛せは俺でも無理」


「なら、なぜ?」


「出会った時には綺麗な令嬢だった。俺はエルヴィスの過去を知らない。表面だけと言われればそれまでだけど。内面の良さならヒナトを見ればわかる。あの、ヒナトが自慢するのだから。答えになってませんか?」


「昔の私は男だった。昔を知れば変わると思う」


「今は女だ。鏡を持ってきましょうか?」


「結構です。はぁ……わかってますよ。自分自身を毎日見てますから」


 私は頭を押さえる。と言うよりも少し熱い。初めての家族外からの好意になんとも言えず、ドキドキする。


「エルヴィス。君のお陰でこの髪でも悩む事。髪の事はどうでもよくなった。俺は俺だから。肯定してくれた人に惹かれるのは普通だろ? 何に惚れるかは人それぞれだ」


「……惚れる」


「そう、決め手はああいった相談だった。親友ではない。それ以上の事を君だけに相談した。あれは俺の弱い部分。それを受け入れれると感じた。他の令嬢よりも大人じゃないか?」


「あなたに近づく令嬢がそう見えるだけで。大人な令嬢は数多く居ます。自分の足で見てないだけ」


「自分の足であの舞踏会に参加した。住んでいる場所の違う母上に手紙を送って伝を使い。君に近づいた。ここまでさせるほど。魅力を感じたし、今だって……必死に気を引きたいと思ってる。俺が」


「飄々としてません?」


「それはお互い様じゃないか? 手を見る? 震えてるし、年上にどう接するべきか悩んでる」


「あら、ハルト君はかわいい所あるんですね? あと、年上……年上なのかな?」


「ヒナトより一つ上でしょう」


「ああ~そうですね。一応? いや、同年代かも」


「どっちにしろ。お姉さんみたいだな。躾で注意をされたし。女遊びも怒られたし」


「……」


「まぁその。婚約者候補として俺をお願いします」


「……熱意は伝わりました。ですが……残念ながらまだ結婚など考えられません。そうですね……チラチラとヒナトを思い浮かぶのでまだ。何処かへ行くのは当分先でしょう」


 私は目を閉じ、若かかりしヒナトを思い出す。小さい小さい時を思い出して。大きくため息を吐く。まだ……まだと。


「あぁ……やっぱり。ヒナトですか?」


「……ヒナトです。一人立ちしたらいいんですけど」


「愛してるなぁ……弟を」


「家族愛です。この世で唯一の私の弟です。幸せになって貰います」


 強い意思を込めてハルト君に言う。婚約者になればハルトは巣立つかと考えたが。それは無いと言い切れてしまい。今だに甘える部分を考えると不安もあって断る事が決められた。


「ハルト君。ありがとうございます。しかし、やっぱりまだ弟の近くに居りたいので婚約者は断らせて貰います」


「ああ、わかった。はぁ……やっぱりそうなるか。ヒナト愛してるもんな~。それは依存しているように思うが? 昔に何かあった? 異常な執着に見る」


「……異常な執着ではある。ハルト君、ごめんなさい。それを答えるとヒナトに不利益が出ます。ヒナトが話すなら。お話をしてもいいです」


 私は昔を思い出し。痛々しい姿のヒナトを思い出し、苦虫を潰したような気分になる。胸を押さえ、痛みさえ発するほど。深く深く……可哀想な気持ちになる。


「わかった。エルヴィス嬢。今日は会っていただきありがとうございました」


「いえ、こちらこそ。こんな偽物令嬢の身なりにここまで熱意を持ってくれてありがとうございます。ハルト君ならきっともっともっと可愛い子金持ち。美女を捕まえられる。今日のような誠意を見せれば大丈夫ですよ!!」


 私は振っておきながら強く強く褒める。


「……なら。ヒナトが卒業し。一人前になったら。俺と結婚してくれますか?」


「……」


 引かないハルト君に私は考える。考える。腕を組み考える。いい方法はないかと。


「まだ、女にされて日が浅く。どういった生活がいいのかわからないですし。ハルト君をそこまでしっかりと知っている訳じゃないので……返事は出来かねます」


「なら、これから知って行き。もしよろしければ結婚でいいですか? 婚約見習いの見習い」


 私は提案を頭で砕き。その破片で考えを埋めていく。だが、結局……ヒナトが心配に行き着く。だからこそ……断ろうとしたが。私は無理ぽい。


 赤い髪の男の子は引くことはしない。何度だって挑戦しようとする意志が目の中にあるのを私は感じる。


「ヒナトが一人前になった後……で、その時まで女であり。私がハルト君がいい人や、仲良く出来。今日の事を思い出せればその時。一緒になりたいと思い。また、ハルト君自身がそのまま好いているなら。一緒になりましょう」


 私はドキドキする心臓を押さえて彼に伝える。時間が解決するだろうと思ったのだ。


「……マジか」


「男に二言はない。いや、ごめんなさい。いいことばを知ってる? ハルト君」


「いや……ごめん。エルヴィス嬢……心臓が激しくて顔から火が出そう。思い付かない」


 ハルト君が落ち着かない様子をみていると何故か落ち着き、笑みを溢す。慌てている姿はかわいいなぁと思い。それを口に出さず見つめる。


「えっと、エルヴィス嬢……すっごい落ち着いてるな」


「人が落ち着いてないと逆に落ち着いてしまうんです。あーあ。根負けしました。気持ちが変わらないならそれで、変わっても私は大丈夫です。逆に私が無理と思うかですね」


「変わるなんてそんな!! いや、変わらない。変わらない。絶対!!」


「ハルト君。恋愛で男に絶対はない。私は知っている。愛人を設ける男が多い理由もね」


 私自身の父上母上を思い浮かべる。過去のドロドロした愛憎劇とそれに巻き込まれた少年を。


「エルヴィス嬢。何をご存知で?」


「……大人の世界はそう甘い世界じゃない事をね。試すようで悪いけどね。ちょっと恋愛は慎重にしたいの。これで話は終わろう。おやつ食べましょう。食べましょう」


「はぁ~エルヴィス嬢は本当に大人ですね」


「いいえ、子供です。働いていないので」


 私はそう言い。後方のメイドに合図をする。話をすり中でずっと待っていた。合図を見たメイドがそそくさとお茶の準備をする。お茶の間、私呼びのまま……ハルト君と談笑しそしてハルトの下校時間になったとき。お茶会はお開きになるのだった。


 なお、終日。お喋りしたのは私ばかりでハルト君は聞くばかりだったが。







 僕は家へ帰ると……父上母上から。兄上の婚約者の話を聞いた。驚くべき行動力。家へ直接帰っての直談判で兄上への求婚に俺は焦りを募らせた。


 内容は知らされておらず。ただ……ハルトに会った時。悲しい表情ではなかったので振られた訳でもない事がわかった。ただ……ハルトに早く大人になれと言われたのは癪に触ったが。意味を聞こうにも兄上から聞けの一点張りでわからない。


 だからこそ俺は廊下で歩いていた兄上を見つけ呼ぶ。


「兄上!!」


「あっヒナトおかえり」


 兄上はいつもと変わらない笑みを向けてくれる。だからこそ俺は苛立つ。今日、何かあっただろうに。


「少しお話があります」


「ハルト君の事かい?」


ドンッ!!


「!?」


 兄上の肩を掴んで壁に寄せ、俺の手を壁に押し当て……身長の低い兄上を見下ろし。兄上に詰め寄るのだった。










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