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ハルトの悩み


 舞踏会の喧騒から離れたテラスにエルヴィスを連れ出し

た。男装のような、ドレスを着る彼は非常に眩く感じる。


「悩みがある……聞いてほしい」


 俺が気になるお相手にスッと出てきしまった言葉に口を押さえて驚く。何を言っているんだと俺はおもったのだ。勝手に出たような。溢してしまった言葉を飲み込む事は出来ない。ただただ……恥ずかしく。俺は俺らしくないと思い。エルヴィスに聞かなかった事にしてくれと言おうと向き合った。


「秘密にしよう。墓まで持っていく」


 だが、彼は優しく笑っていた。馬鹿にするわけでもなく、聞き入れようと俺を見つめて。


「そこまで重いものじゃない」


 だからこそ、聞かなかった事にしてくれとは言わず。つまらない、軽い話であるとボカしてしまう。


「顔はそう言ってないが……わかった。聞こう、ハルト君」


 優しく俺の名前を彼は読む。顔に出ていると言われ、頬を叩き力を入れた。本当に……変わった人である。


 いや、変わった人だからこそ。つい胸の内を見せたいと俺は口に出したのだろう。喧騒の中心の令嬢たちと違い。エルヴィスは物静かで大人びており。その差が際立ち、目立ち。そして、その桜色の髪と容姿で捕らえる。分析すればわかる。


 そう、俺は惹かれている。確実に。多くの令嬢と遊んで来て真新しい令嬢に。そう、彼に。


「俺の悩みは……髪色なんだ」


「髪色?」


「ああ、騎士貴族の名家は皆が髪の色で区分する。グリーンライト家は緑髪を愛し……他を愛さない。レッドライトは赤い髪を愛し他を愛さない」


「それは俺でも知ってる。仲間意識が強い家だ」


「そう、仲間意識が強い。だがな……同じ髪色を嫌う奴もいる。父上のような人。だけどな他家と仲良くしようとする。そういう事をするとやはり裏切り者と指を差す者もいる」


「……裏切り者か」


「ああ、父上は影でそう言われてる。俺も言われている。母上はグリーンライト家の一部では悪評を言われ続けている」


「……」


「そして、俺もずっと影で虐められてきた。赤い髪の異種族ってな。染めても、俺は染めてないと上から目線。次第に酷く。大人からも罵りを受けたよ」


「そうですか……苦労されてますね。生まれ持った物で」


「本当にな……母上も父上にも怒鳴って怒鳴って。迷惑かけた。生まれて来なければよかったと。今もちょっと距離を置いている。女遊びもまぁ許されるぐらいに」


「……悪評たつでしょうに」


「ああ、父上母上はまぁ困ってるだろうな……困らせてるだろうな……本当に」


「ハルト君。一ついいかい?」


 エルヴィスが俺に指を一本立てる。俺は頷き、彼は質問を投げる。


「父上母上を心配する。もしかして、嫌ってはいないのですか?」


 投げられた質問を俺は受け取り頭を掻く。恥ずかしいなぁと心で思いながら伝える。嘘は言ってはダメだ。


「嫌ってない。生まれてから……結構愛されていたからな。母上を馬鹿にする奴と喧嘩もしたし……それで剣を学んだ。騎士を目指したな。母さんを護るんだって。だが大きくなるにつれてグリーンライトでの本家との差を感じたよ」


「そうですか。ハルト君……女遊び母上が困ってるかもしれないね」


「わっかんね。使用人と2人暮らしだから……出てった」


「出てった事を許してくれるなんて心が広いですね」


「ああ、広い。使用人の監視はあるがな。本当に……髪色だけでこうもおかしいのかよ……俺の人生」


「そうでもないと思う」


「いいや、グリーンライトでは上に上がれない」


「あっいや、俺はハルト君に会えて良かったし。ハルト君がヒナトの親友になってくれて良かったと思ってる。やはり苦労している分。安心出来るよ」


「いや、髪色で人生損して」


「いやいや、3人の中の優等生様が人生損をしている気はしないよ。もしも、緑髪ならハルト君は別の学校だっただろうね」


「そうだな……別の学校だ。グリーンライト本家御用達の」


「それって……今ならどう思う? 君は今の関係を捨てられるか? 俺は無理だな」


 俺は考える。セシルとヒナトの言葉の殴り合いを。一緒に過ごした日々を。それを失くしてもどうなのかと。


 少し悩んだ時、今が楽しい事を認める。


「俺も無理だ。今が楽しい」


「良かった。なら、赤い髪でも問題ないな。昔から違うだけで迫害に近いことをされてきたのだろうが。ハルト君はまだめげてない。レッドライト家の懇親会で舞踏会に来れている。上を見ればもっと恵まれているのはあるだろうが、他から見ると君も恵まれてる」


「……」


 長々と喋って俺を励ましてくれるエルヴィスを見続ける。そしてイタズラぽい笑顔で彼は言う。


「実は君の赤々しい髪は綺麗だなと思うよ。コンプレックスかもしれないが俺の髪もコンプレックスだったよ。女ぽいとか、色がね。だけど、自分が嫌っても好きになる人もいるんだ。俺はヒナトがこの髪が好きだから……嫌いではないよ。赤い髪。格好いいよハルト君」


「……ははは、やめてくれ。照れ臭い」


「おっ……あのハルト君。顔も赤い」


「いや、マジで今はやめてくれ」


「ごめんごめん」


 スッとエルヴィスが覗き込んできたのに心臓が止まるかと思った。近くで見ると綺麗な瞳に長い睫毛が本当に元男かと疑わせる。いや……最初から綺麗な美男子だったのだろう。そう、思わせる。


「じゃ、俺も一つ。小さな悩み事を」


 エルヴィスが自身の髪を撫でながら、スッと物思いに耽る。


「髪を切るときいつもいつも。ヒナトを思い出すんだ。幼少のヒナトを……すごく短くした時に号泣した顔をいつも思い出す。先っちょを手入れで切るだけで思い出して手が震えるからかなわん……俺のトラウマな。短く切るの怖いんだよ。実は……皆には髪が長い方が好きと嘘をついている。ヒナトが好きだからとも言っているが本当は怖いだけなんだよ」


「……」


「さぁ、これでお互い言われたくない秘密を共有した。ヒナトにも誰にも秘密にしておいてくれ」


 エルヴィスが俺に向けてウィンクと口に人差し指を出して秘密ねと小さく囁く。俺は俺で熱く、言葉にならない。


「気持ち、スッキリしたか?」


「あ、ああ……ありがとう。エルヴィス」


「いいさ。よく皆に相談されるからな。髪の秘密は鉄板ネタなんだ実は……あっこれも秘密な」


「お、おう……」


 秘密を知っているのが俺だけじゃないって言うのを考えてショックを受ける俺がいた。逆にもっと知りたいとも思えた。エルヴィスの隠し事を。


「では、そろそろバーディス嬢の所へ帰るとするよ。体目当ての男がたまに来て、しつこくて嫌なんだってさ。ハルト君も相手にそう思われないよう注意な」


「わかった。もう大丈夫だろ」


「大丈夫?」


「いや、こっちの話。エルヴィス、早く行かないと今夜はバーディスお嬢様がモテるぞ」


「わかった。また学校で」


「ああ」


 エルヴィスは青いリボンでくくった桜色の髪を揺らしてテラスから喧騒へと身を投げる。俺はと言うと夜風で火照った体を落ち着かせるため残り。今さっきからうるさい心臓の理由を探る。


 そして、いけない妄想もする。もし、彼女が俺の婚約者ならと。ドレスを着た、令嬢エルヴィスがどれだけ綺麗で素晴らしいかを……考える。


「ヒナトにすごく申し訳ない……いや、ヒナトは生で見ていたんだろ……馬鹿にしてすまん」


 一人で親友の俺は謝りながら……素直に答える。


「これは、あれだ……やらかした」


 いや、変わった人だからこそ。つい胸の内を見せてしまった。喧騒の中心の令嬢たちと違い。彼女は物静かで大人びており。その差が際立ち、目立ち。そして、その桜色の髪と容姿で捕らえる。わかっていたからこそ。


 俺は彼女に大きく惹かれてしまった。たとえ、ヒナトが心から信頼を寄せている。彼女に……


「帰ろう……家へ。もう少し、この髪を愛してやろう」


 そして、ちょっとスッキリした気持ちで俺は髪を触りながら舞踏会を先に帰る。





 エルヴィスは他の令嬢と談笑するバーディス嬢の後ろから近づき肩を叩く。


「エルヴィス!! 遅い!!」


「バーディスお嬢様、申し訳ありません。ハルト様に色々と悩みを打ち明けてましたので」


「ええ、ハルトにぃ。あんな男に弱みなんて見せちゃいけないわ」


「ええ、女遊びでてっきり襲われるかと思いましたが……そんなことなく紳士でした」


「……何があったのよ」


「男同士の秘密です」


「……えっその言葉。めちゃくちゃ美味しい。メモ取らせて。参考にするわ。男同士の禁断の秘密」


「バーディスお嬢様……不埒な事はお止めください」


「いいえ。私の小説を待っている令嬢がいるの。今、増えたわ」


「……」


「エルヴィス。ありがとう。趣味を打ち明けて自信がついて同じ志を持つ者を見つけられたわ。紹介します!!」


 エルヴィスにバーディス嬢は同じ男同士で気持ちが高まる趣味を持つ令嬢たちを紹介する。そして……どういうシュチエーションがいいかを聞かれ焦り出す。バーディスはそのエルヴィスの狼狽える姿に満足しながら。エルヴィスが質問攻めの内容をメモを取るのだった。




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