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4:悪役令嬢は闇の力を手に入れる

ブクマや評価、ありがとうございます!

「もう一つの選択肢って?」

「俺をやる」


 堕天使はドヤッと笑っていた。


「は……?」

「だから、俺に宿る力をお前にやろう」

「あなたの力って」

「そりゃあ堕天使の力なのだから……『闇』の力だ。いずれ現れる主人公、その『光』とは相反する属性だな」

「それ、完璧な悪役じゃない」


 もう一つの選択肢って、私を更に追い込む気なのか? この性悪堕天使め。


「ラシュカは本物の悪役として、逆らうものを駆逐していけば良い。殲滅だ。俺の力とお前の才能があれば、この国を掌握するも夢じゃない。ラシュカが頂点に立てば、お前の大切な家族や友人も守れるだろ?」

「たしかにその通りかもしれないけれどね」


 ようするに謀反を起こすということでしょう? さすがに、この国を敵に回すのは気が引ける。


「――面倒ごとに巻き込まれるのは嫌よ」


 私はただ幸せに暮らしたいの。戦争をしたいわけじゃない。


「さようか」


 堕天使はつまらなさそうに腕をくんだ。


「だから、あなたはさっさと家に帰って」


 私はこれから、早急に今後の対策を考えなければならない。こんな恐ろしいことを考える、わけの分からない堕天使とおしゃべりしている暇は無い。


「む。せっかく召喚に応じてやったのに、帰れは無いだろう薄情者」

「堕天使を召喚したと知られれば、話しが余計にややこしくなるの。だからとっとと――」

「俺はただの堕天使じゃない。お前の弱みを握る唯一の存在だ」


 弱みを握るって……もしやこの堕天使、私を脅迫するつもりなのだろうか?


「脅しているつもりはない。俺はラシュカの事情を知る唯一の堕天使。お前に前世のすべての記憶を思い出させたのも俺だ。俺なら、お前が死なないための協力者になれる。強い力は、無いよりもあるに限るだろ?」

「あなたが協力してくれるなら、一理あるかもしれないけれど」


「だったら話は早い。今日から俺とお前は秘密を共有する者同士。共に運命へ反旗を翻す、共犯者だ。ラシュカ、お前には俺の主となってもらう」


「そ、そんな勝手に話を進めないで……ひゃ!」


 堕天使がグイッと顔を近づけてきた。その端正な顔立ちが、すぐ目の前に迫る。


「これよりお前は俺の主。俺はお前だけのモノとなる。俺の名前はチェイン。何かあれば我が名を呼べ、必ずお前のもとにはせ参じる」


 高い鼻先が近づく。赤い瞳に吸い込まれそうになる。唇と唇が触れ合おうとした瞬間……モフッ


 私の顔面に、もっふもふしたものがぶつかった。


「え……?」


 黒い毛玉が――黒猫が、私の顔にダイレクトアタックしてきたのだ。子猫だろうか、ピンとたった耳に大きな瞳が愛らしい。ただ、その瞳は血のような赤色だ。


「なにこの猫……堕天使、チェインはどこに行ったの!?」


『俺だ』


 猫がしゃべった。しかも声は、あの堕天使のものだ。


『俺くらいの堕天使にもなれば、そこらへんの生き物に擬態できる。この姿でいれば、他の人間に怪しまれることはないだろう? お前は天使を召喚したことにしろ、俺はこの姿でお前の側にいてやる』


「なんのために、そんなこと――」


『死にたくないんだろ? 俺がお前の運命――死亡ルートを変える手助けをしてやる』


「よ、余計なお世話よ」


『はたしてそう言えるかな?』


 黒猫はしなやかに体を伸ばすと、私の頬に手を乗せた。ふに……肉球が、きもちいい。


『俺の主となったことで、お前には新しい力が宿った。まずは試しに使ってみろ』

「え、ええ……」


 私は半信半疑で、チェインの指示に従ってみることにした。


『――まずは、そうだな。あの彫像がもつクリスタルに魔力をぶつけてみろ。力はセーブしろよ?』


 私がさっき、魔力を注ぎ込んだクリスタル。

 ものは試しだ。私は息を吐き出し、クリスタルに向かって右手を突き出した。魔力を極限まで抑える。だから詠唱はしない。

 照準をクリスタルに合わせ、ほんの少しだけ力を放った。


 私の右手のひらから、禍々しい赤紫の光が噴射された。それは弾丸の如き速さでクリスタルにぶち当た――クォォォオオオ!!!!!!――耳をつんざくような音が、全ての音を掻き消す。

 クリスタルだ。クリスタルが、断末魔のような音を響かせているのだ。


 私は口をかっ開く。

 クリスタルからモワモワと、不気味な影が浮かび上がる。なんだか、ドクロのように見える。錯覚であってくれ! 目をこするが、それはまごうことなきドクロだった。


『完全なる闇の力だな。ラシュカ、お前にはやはり才能があるようだ』


 感心したようにチェインは頷き、かろやかに飛躍した。

 そのまま、ドクロに向かって猫パンチをくりだす。そうするとドクロは雲散霧消。クリスタルは悶え苦しむような音をたてながら収縮し、真っ黒い涙のような形に変わった。その雫は、コロンと私の手のひらの上に転がった。

 クリスタルが……百二十年間、生徒たちの魔力を受け続けてきた大いなるクリスタルが、ほんの一瞬でこんな姿になってしまった。

「……」

 辺りには、静寂だけが広がる。


「なんて、趣味の悪い力なの……」

『大魔王にも匹敵するレベルだ』


 私は、とんでもない力を手に入れてしまったようだ。


『そろそろ時間凍結の魔法がとける頃合いだ。生徒たちが動き始める。ラシュカ、準備は良いな?』

「え、え!?」


 次の瞬間、止まっていた時が流れ始めた。

 停止していた動画が流れ始めるように、ごく自然な形で、みんなは動きはじめる。


「さすがラシュカ様……まさか、天使を召喚してしまうだなんて!」

「しかし、天使の姿は見当たらないぞ?」

「天使をこの地に引きとどめるのは至難の業ですからね」

「それでもたしかに、さっき光の中で翼の生えた人を見ましたわ!」


 と、興奮した面持ちで、みんなは私を取り囲んでいる。


「ラシュカ……まさかここまでの実力者とは思わなかったよ」


 アイライト様は、心底度肝を抜かれたような顔をしていた。


「――そういえばラシュカ、君が抱いているのは、猫かい?」


 私はハッとして、自分の腕の中を見た。そこには堕天使――黒猫が、ふてぶてしい感じですっぽり収まっている。


「う……これはその」


『なーう』


 黒猫は可愛らしくないた。


「……ええ、猫ですわ。そこを歩いていたので」

「ラシュカ・オフェリアン……Aクラス!」


 呆けていた教師が、思い出したように声を張り上げた。

 本日はじめての、Aクラスメンバーが発表された瞬間だった。


 とりあえず、今はやりすごすしかない。

 私は学院を見渡し、アイライト様を見据えた。アイライト様は「僕もAクラスだ、ラシュカは後輩だね」と微笑んでいる。


 天才令嬢に転生したはずが……悪役令嬢だった。

 ゲームはもう始まっている。このままいけば、私は死ぬ。

 なんとかして、この運命シナリオを変えなければならない。


『なう』


 腕の中の黒猫が、私の顔を見上げている。

……ええそうね。


「このまま死んでなるものですか」


 私は今度こそ、幸せな人生を歩んでやる。

 かくして、闇の力を宿した悪役令嬢の、学園生活がはじまった。

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