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侍の求めた強さ?
妖怪退治を専門とする、とても強いお侍さんがいました。
彼はいつも物の怪と戦い、不可思議な危機から村人を守っておりました。
けれどある日、彼は物の怪に大怪我を負わされてしまったのです。
物の怪はなんとか倒したものの、生きているのがやっとの状態でした。
やつは強かった。この先、もっと強いやつが現れたら俺では勝てない。
療養中で絶対安静の自身の身体を見つめ、彼は自身の強さに不満を抱きました。
そしてそんな彼の葛藤など関係無しに、村に物の怪が襲ってきました。
彼はすぐにでも退治に行きたかったのですが、治りきっていない身体は動かすことすら出来ませんでした。
悔しさに怒りが込み上げてくる間にも、1人、また1人と村人が殺されていきます。
彼は渇望します。人間である俺は、どれだけ強くなっても人間の限界を越えられない。俺はもっと、強くなりたい。
すると彼の身に変化が起こりました。治るまであと1ヶ月はかかるはずの傷が高速で再生し、身体には今まで感じた事のない力が溢れ出ていました。
これなら戦える。
そう確信した彼はすぐに布団から飛び出し、刀を持って物の怪を切り伏せました。
けれど村人の表情は芳しくありません。
彼はその理由にすぐ気が付きました。
あぁ、俺は人間をやめてしまったんだ。
彼は村を離れて山奥に籠り、人知れず物の怪を切り続ける毎日を送りました。