最終話『白き死神は静かに嘲笑う。』
これが、この物語の真実です。
俺は幸せの絶頂にあった…
浮遊感にも似た高揚感を覚えて…
サクヤ「……あれ?」
今までに感じたことのない感覚……
俺はその感覚の正体にすぐに気がついた……
……本当に身体が浮き始めていたのだ。
サクヤ(ど……どうなってんだ…これ?)
どんどん身体が地面から離れていく……
サクヤ(や、やべえ…!!)
サクヤ「イロハ!!」
__________!!
え…………何で……何でだよ…………
何で……そんな顔をするんだよ……
イロハから笑顔はとうに消え、眼には一切の光が無く、その瞳を見ているだけで奈落の闇に吸い込まれそうになった……そして、その生気が感じられない双眸で、ただ呆然と、無感情に、上昇し続ける俺を眺めているのだった。
サクヤ「!……」
気付けば、もともと少しだけ透けていた俺の身体が、みるみる真の透明に近づいていっていた…完全に見えなくなった部分は、感覚がなくなっている……どうやら本当に消滅していっているようだ。
そして……身体が少しずつ崩れていくにつれて……
俺は……いや……
“自分” は…………段々と思い出してきた……
サクヤ「……そうか。……自分は……愛情を受けたことが無かった……孤独で……理不尽で……残酷で……そんな世界を……自分は《途中で投げ出した》んだ……」
???「それに…自分の名前はサクヤじゃない……自分にはちゃんと名前があった……もっと……《忌々(いまいま)しい名前》が……」
???「自分の…………名前は………………」
……そして、自分は完全に消滅した。
ツクヨミ「……やれやれ。やっと終わりましたか……いやあ……今回の《ボっちゃん》はなかなか骨が折れましたねぇ……」
イロハ「………………………………」
ツクヨミ「何を与えても満足されなかったのに、まさか色仕掛けが効くとは…こんな操り人形に容易く惑わされるなんて、思春期の少年というのは、案外単純なものですね。」
ツクヨミ「さて…君の役目はもう終わりです……さあ、闇に還りなさい。」
(ズズズズズズズズ……)
イロハ“だったもの”は、悍ましい真っ黒い塊となって、徐々に地面の中へと消えていった……
ツクヨミ「【死神】は影を結い、幻影を作り出す……初めての試みでしたが、ここまで上手くいくとは思いませんでした。この方法を使い回せば、この《仕事》の更なる効率化に繋がりそうですね……一刻も早く、次のボっちゃんを《満足》させないと……未練を残した彷徨える憐れな子羊たちを救い、導くことが、我々の使命なのですから……」
ツクヨミは頭部に掛かったローブを取る……するとそこから、堅牢な頭蓋骨がその姿を露わにした……
ツクヨミ「次のボっちゃんは、一体どれだけ時間がかかるでしょうか……」
(……スンッ!!!)
ツクヨミ「……おや、もう次が来たのですか…もう少し休ませてくれても良いのに……コホン…初めまして。私、本日より貴方の執事を勤めさせていただくツクヨミと申します…貴方を満足させる為なら何だっていたしますので…これからよろしくお願いしますね?」
ツクヨミ「亡霊の………亡っちゃん?」
ー完ー
おまけ【登場人物紹介】
サクヤ
生前に自殺した、愛を求めて彷徨う亡霊。
イロハから擬似的な愛を享受し、未練が無くなった彼は、自身の過去と、真名も思い出し、最終的に成仏した。
イロハ
サクヤを成仏させるために用意した、ツクヨミが影から作り出した幻影。その言動や行動はツクヨミが完全にコントロールしており、無事サクヤを満足させることに成功した。
ツクヨミ
現世に彷徨う亡霊を成仏させる事を使命とする死神。亡霊を総じて「亡っちゃん」と呼び、その未練を晴らすことに日々腐心している。