第2話『君の微笑みは極彩色に煌めく。』
夢の新生活が…始まる。
膠着状態が続いてから…数分が経過した。
1秒1秒を噛み締めさせられて…まるで何時間もそうしているかのように感じられた。
サクヤ「…………」
イロハ「…………」
サクヤ「…な、何か言えよ…気まずいだろ。」
イロハ「あ……ご、ごめんなさい……」
サクヤ「全く…ツクヨミは勝手な事ばかりしやがって…他人に迷惑かけてまで暇を潰す気は無いってのに…」
イロハ「いえ、いいんですよ…透明人間ってどんな人なのかなって…私も興味があったので…触れるけれどちょっと透けてる…不思議だ……」
サクヤ「お、おい…あんまりベタベタ触んなよ…」
イロハ「あ!…す、すみません…」
サクヤ「……まあ、こちらとしても人間と話をする良い機会だし…俺もツクヨミ以外と話をすることはなかったからな…」
サクヤ「…………」
イロハ「…何を見てるんです?」
サクヤ「…何も見てねえよ。そっちをずっと見てても気持ち悪いだろ。」
イロハ「え……あ、アハハ、そうですよね…私ってやっぱり…」
サクヤ「い、いや!そうじゃなくて!!…ずっと顔見てる俺が気持ち悪く見えるって意味だ。誤解させてすまない。」
イロハ「あ…なるほど…」
サクヤ「流石にそんな辛辣なこと、初対面のやつに言うわけねえだろ…」
イロハ「え、じゃあ実は内心…」
サクヤ「いや、思ってねえから!!…本当に。」
イロハ「そ、そうですか?…エヘヘ。」
サクヤ「お、お前…中々被害妄想激しいな…そんなに嫌われてんのか?」
イロハ「嫌われるというか…やっぱりちょっと身を置かれちゃうんですよね…気づいたらオカルトの話ばかりしてしまって…気持ち悪がられても仕方ないです。」
サクヤ「お前は別に気持ち悪くねえよ。…ちょっと変わり者なだけだろ。」
イロハ「そ、そうですかね…そう言っていただけると嬉しいです。」
サクヤ「………」
イロハ「…あの…サクヤさん。」
サクヤ「…なんだ?」
イロハ「……透明人間って……どんな感じなんですか?」
サクヤ「どんな感じって…普通の人間の目に見えなくて……」
イロハ「いえ…そうではなくて…あなた自身がどう感じているかってことです。」
サクヤ「ああ……そうだな……ええと……」
サクヤ「……とりあえず、こんな体になってから、透明人間で良かったと思ったことは一度もない。……ただ、どこまでも孤独で、退屈なだけだ。」
イロハ「そうですか…」
サクヤ「……どうした?」
イロハ「いえ…私も普段はずっと一人で…なんだか似てるなって…私は退屈というよりかは、ちょっぴり寂しいなって思いますけど…」
サクヤ「……寂しい…か。」
イロハ「でも、今は全然そんな事はないですよ!こうしてサクヤさんがお話に付き合ってくれますもん!」
イロハは俺に向かって、無邪気に笑ってみせた。
…その笑顔はこの色褪せた視界の中で、より一層煌めき、映えてみえた。
サクヤ「……ふん、そうか。」
イロハ「あ!自己紹介とかしときます?」
サクヤ「今更!?…もうちょい早く言えよな…」
イロハ「改めて…私の名前は『千咲 彩花』です!歳は16の…人間です!」
サクヤ「自己紹介で人間を自称するやつなんて初めて見たぞ…まあいい。俺の名は『サクヤ』だ。見ての通り俺は、他の輩の目には見えていない、所謂透明人間だ。名字は知らん。歳も知らん…どうでもよすぎて忘れちまった。」
イロハ「見た感じは普通の高校生とあまり変わりませんね。」
サクヤ「そうか?…それよか、俺はお前以外の人間には姿が見えないどころか声も届かないわけだし……お前、側から見たら独り言を呟き続けるヤバいやつだぞ。」
イロハ「あー…いえ、別に気にしてませんので…大丈夫ですよ!」
サクヤ「…そうか…」
……初めての人間との会話…それがこんな変わり者とすることになるとは思いもよらなかったが、新鮮で、刺激的なものではあった。ツクヨミの言っていた「俺がまだ経験していないこと」ってのはこのことだったのだろうか?…それはわからない。
…それにしても、こいつも自己紹介こそしたものの、まだまだ謎が多い…自分自身人間の奥深いところまではよく分からないが、どこか掴み所がないような印象を受ける……人間っていうのは、全員こんな生き物なのだろうか…まあ、もっともこいつからしたら、俺自身が一番の怪異だろうがな。
イロハ「あの…私の顔に何か付いてます?」
サクヤ「あ…いや、すまん…別に何も。」
イロハ「あんまりボーっとしていると、すぐに日が暮れてしまいますよ!」
サクヤ「日が暮れて……もう夕方か。」
イロハ「あ、本当に暮れてた……」
サクヤ(…大丈夫かコイツ。)
サクヤ「とりあえずお前はもう家に帰れ…今日はいい経験をさせてもらった。礼を言うぞ。」
イロハ「ああそれは…えっと…」
ツクヨミ「待たれよ!!!!」
(ズズズズズ……)
サクヤ「つ、ツクヨミ!……やっぱり見てやがったか……」
ツクヨミ「いやいや…私めはボっちゃんの執事兼ガードマンですから…念の為見ているだけです!」
サクヤ「へぇ…そうかよ。さあ、俺たちも帰ろうぜ。…俺はもう疲れた。」
ツクヨミ「承知いたしました……ではイロハ様、お手を拝借……」
サクヤ「は?…こいつはもう帰さねえと……」
ツクヨミ「あれ?…言ってませんでしたっけ?」
ツクヨミ「本日からボっちゃんには、この小娘と二人で生活していただくのですぞ?」
サクヤ「はあああああ!?!?何言ってやがるんだ!!なんで俺が……というか、これは誘拐だ!!れっきとした犯罪行為だぞ!?」
ツクヨミ「本人が同意の上ならば犯罪にはなりません。ね?イロハ様?」
サクヤ「おい、お前……こいつの言うことは無視して早く家に___」
イロハ「私は別に構いませんけど。」
サクヤ「ほらツクヨミ!こいつもこう言って!…………は?」
イロハ「ええと…ですから……私は別にこのままでもいいですよ…?」
サクヤ「はあああああああああ!?!?」
ツクヨミ「本当にイロハ様は話が早くて助かりますよ〜!ではイロハ様、早速我が家へご招待致します♪」
サクヤ「い、いいのかよイロハ!?お前の親が心配するぞ!?警察沙汰になるかも知れねえし…」
ツクヨミ「そのことに関しては問題ありません!では行きますよ?」
サクヤ「なんでお前が答えるんだよ!?…お、おい……ちょっと待______」
(スンッ…………)