第二十九話 諦めと横槍
「シーラ、俺をどう思っている?」
「どうって、あの、え、今ここで言わせるつもり?」
「一応、お前の口からきいておきたい」
しつこいようだが、彼女らからの好意に鈍かったわけじゃない。
好意を知っても恋心まで完全に理解できない、というか一般の恋心から常軌を逸していると思う。
少なくとも苦しんでまで生きさせることが絶対正義じゃない、そう信じたい。
そもそもこの子は他のメンツとやや違う方向なんだよな。憧れっていう良くも悪くも動く感情の方が強かった。
最初の頃は俺にいい感情を持っていなかったけど、仲間として行動しているうちに妙に追従するようになった。
これはループで知ったことだが、俺が損得をあまり考えず人助けする姿が輝いて見えたとか。
そして俺を薬漬けにしている間は変装して俺の代わりに動いていたとか。
薬漬けにした理由はお人好しな俺を利用する輩に触れさせないためだった。
何故俺に?と言いたいが、変身願望でもあったのだろう。
今まで暗殺者として闇の世界に生きていたが勇者の仲間として活動するうちに感謝、称賛が麻薬のように染み込んでいったのだ
全てをまとめると俺への好意、憧れ、嫉妬、独占欲が複雑に混じった結果、蛮行に走ったという訳だ。
シーラを嫁にした後は俺に変装して殺したみたいなことを言ってたし。
「あう、その…………」
「もしさ、それが馬車の一件のように誰かを傷つけるってなら俺は認めない」
「…………!」
「こんな言い方で悪いと思うがあえて言わせてもらおう。何を企んでいる?」
この質問は元勇者としてでなく、普通に恋愛する人間としての質問のつもりだった。
ループでの記憶がどうしても引っ掛かってしまいどうしても怪しく思ってしまう。
もう既にやらかしてしまった後であるため余計に警戒してしまう。
ギリギリと歯ぎしりをしながら何か言葉を紡ぎだそうとして口を無意味に動かすシーラを眼にして、諦めの感情が湧いてくる。
ダメなのか、やはり、こいつも放っておけば何かしでかすのかと。
予防線は張らなくてはならない、身から出た錆とはいえメリルがエルフの森を燃やした件と同じく取り返しのつかないことになるかもしれない。
他の面子もそうだ。
アリエルもジャンヌも権力的にも能力的にもやらかせる人間なのだ。
そう考えたら待ち構えていた方がいいのでは?
完全にバイオレンスな方向性で考えていたその時だった。
「ケギャッ、ニンゲン!」
「ヒャハー!獲物ダ!」
「「!?」」
シーラに動向を向けていたせいか、魔物の接近に気づけなかった。
魔王が倒されて以降、魔物の絶対数はかなり減少している。
減少しているとはいえ完全にいなくなったわけではない。
しかし、基本は人語をしゃべるほどの知能を持っていない。
ゴブリンのような人間に似たような種族でも独自の言語のみを使用する程度で、多種族の言語を使うということはない。
だから人間の言葉を片言でも話す魔物は例外なく上位の力を持ち、脅威となるのだ。
「シーラ!」
「分かってる!」
向かってきた魔物、声の太さ、聞こえた場所、そしてうすぼんやりと見える体格からサイクロプスのような巨人系の魔物だった。
それも一頭だけではない、複数の頭数を揃えて二人だけなら問題ないと襲い掛かってきたのだ。
正直なところ、魔物の襲撃があるとは予想がつかなかった。
だがそれどころではないと一旦考えることを止めてサイクロプスに向かい合う。
手持ちは十分にあるが鞄から取り出すとなれば話は別、一瞬の隙が生じてしまう。
「ゆう…………じゃなかった。リクト、こっち!」
シーラがサイクロプスが来た方からして右の方へと駆け出す。
それに追従して俺も反射的に駆け出した。
サイクロプスたちも俺たちを追いかけて突いてくるが、巨体なだけに足はそこまで早くない。
「オエッ、オエッ」
「ドコニイクンダァ」
それでも執念深く追いかけてくるサイクロプス。
それがシーラの策略とは気づかずに追い込まれているとは知らずに。
何故分かるかって?
どれだけの付き合いだと思ってるんだ、魔王を倒すまでと5回の人生分だぞ?
元々は俺を誘い込んで閉じ込めるタイプのものなんだろうけど、何振りかまってはいられないといったところだ。
実際、俺も聖剣を手放して大きく弱体化している。
万が一のことがあっては困るし、俺が死んだら全てがご破算になるんだよ。
俺も死にたくはないし、ここで魔物どもを逃がすと被害は拡大する。
シーラの手引きではない以上、ここは俺がどんな目にあってでも協力しなければならないのだ。
これから俺は罠だらけの領域に入ることだろう。
だが、それを加味して魔物を止めなければならない。
元勇者としてでなく、底に生きる人間として。
…………シスター放置したままだけど、簡易結界を張る石置いておいたから大丈夫だよね?ヨシ!




