第二十八話 抜け出せ蜘蛛の巣
時は昨晩までさかのぼる。
俺ことリクト気づけば極限状態となっていたが故に緊張しすぎて知らぬ間に体力が切れて眠ってしまったシスターのために寝ずの番をしていた。
寝ていないのはシスターをただ守るためだけではない、馬車に襲い掛かってきたかつての仲間を待ち構えていた。
探し出した方が早いかもしれないが、もしもの事を考えてじっと待機していた。
下手に動けばシスターが暗殺、入れ替わられて背後からぶすっとやられるのは避けたい。
暗殺者として一流であるが、潜入の一環として変装の技術も一流なんだよ。
昔は他の仲間に変装していたずらとかよくされたものだ。
誘導されて落とし穴に引っかかったりとか、毒盛られたりとか。
…………よく考えたらあいつに嫌われてたんじゃね?そう思っても仕方ない仕打ちばっかりなんだけど。
まぁ、ループした記憶ではあいつ自身もかなりの闇を抱えてたんだ。何もしなかった俺も悪い。
そもそもループのタイミングがおかしいんだよ!
あの時はあの時で人生最高の瞬間だったし、嫁を選ぶタイミングでもあったとはいえ最悪の未来しか待ってなかったじゃん!
どうせなら出会う前までループしてほしかった…………
それならばやりようはいくらでもあった、と思いたい。
魔王を倒して王から報酬を得るタイミングだと全員の好意が最高潮を通り越して沸騰して器から溢れてるの。
その沸騰した好意が猛毒で気体となって周囲にシャレにならない影響をを及ぼすから逃げ出したとしても解決は一切しない。
こうしてループして人間関係で苦労するくらいならリセットして魔王軍に悩まされる方がよかった。
仲間を切るということは後の展開が分かっていたとしても…………辛い。
「なんでこうなったんだろうなぁ」
何度言ったか分からない言葉をついつい口に出す。
たとえ過去に戻れても都合よく世界が回るはずもない。
どこか諦めのような境地だなー、と思っていたその時だった。
小さな針が俺にめがけて真正面から飛んできた。
この程度なら問題ないが、相手はプロの中のプロな暗殺者。下手に弾いてシスターに進路変更させたりする謎技術を使ってきたりするので油断はできない。
なので指の間で挟むようにつかみ取ります。下手に拡散されたら困るのでひとまとめにして掴むのが手っ取り早い、と言うか模擬戦で弾いた針のせいでぼっこぼこにされたこと覚えてるからな。
既に抜刀していたとはいえ、片手で数本の針をつかみ取っているといい的になるだろう。
その予想は正しく、しかし飛んでくるものは予測できなかった。
飛んできたのは紐、それも非常に細い切断する用途のものではなく捕縛するための太いものだった。
その紐、いや縄は俺の腕に勝手に巻き付くように絡めとり、夜の森へと引きずり込もうとする。
もちろん引っ張られない様に踏ん張るのだが、人間の力をはるかに超えた引っ張る力に耐えきれずそのまま引きずられるように引っ張られてしまった。
引き離されることはこちらの『勝利条件』が大きく不利になってしまう。
急いで縄を切ろうとするがそこそこいい剣程度では全く歯が立たなかった。
これ完全に聖剣を想定して作られた縄だろ!無駄に硬いし荒い目がギリギリと腕に食い込んで痛いし!
こんなことなら聖剣持ってくればよかった!
色々ないざこざが目に浮かぶけど、それでも変に話がこじれて武力衝突するって分かってたじゃん俺!
恐らく何かしらの『からくり』を使って引きずり込んでいるのだろう。シーラは昔からそういう細工が得意だった。
だけれど、このまま仕掛けに引っかかったままにしておけばシーラの注意はこっちに向くはずだ。
念のために踏ん張ってはいたが、引っ張る装置は木の上に固定していたらしく、気づけば宙づりとなった。
それだけで済めばよかったのに宙づりになった途端、あらゆる方向から縄が飛来して俺の体をどんどん縛っていく。
さながら蜘蛛の巣に捕まってしまった獲物が念入りに糸で巻かれていくように縛られていく。
しかも念入りに縛っていくせいでぐるぐる巻きとなり身動きが取れなくなっている。
「…………貴方ともあろう人が、うかつですね」
暗い森の中から縄の上を渡り暗殺者が姿を現した。
見慣れた薄くぴっちりと肌に引っ付くような黒い布で顔の上半分以外を覆ったもの。暗闇に溶け込めるように顔にも黒い線のような化粧を入れていた。
うん、これ本気で暗殺とか潜入するときの専属衣装だったな、うん。
「こうでもしないとお前は出てこないだろ?案ずるな、全て俺の手の内だ」
「本当に?昔からハッタリを多用してきたから信用はないんですよね」
「そのハッタリを外したことがあったか?」
「…………悔しいことにめったに外しませんでしたね。何というか、運がいいと」
「それは違いないな、運がよくて勇者になれて、運がよくて生き残れて」
そして運がよかったからやり直しができる。ぶっちゃけこれ以上望んだら各方面からしばかれそうだけど、底から最高を狙ってるんだよ俺は!
死に方くらい選ばせてくれよ、一応世界を救った報酬としてそれくらい望んでいいだろ!
「ですが、かかったことには変わり在りません。あの女を始末させてもらいます」
「つまりそれは放置プレイでもしたいってか?なかなか変な癖があるな」
「そういう趣味はないです。見て楽しむのは好きじゃないですから」
知ってる。お薬いっぱい使って依存症にさせるの大好きなの知ってるから。
「大丈夫です、朝には迎えに来ますから」
「悪いな、朝まで待つ必要もない!」
縄でガチガチに縛られていたはずの一瞬で脱出、その様子はまるで手から滑り出るドジョウの如く。
縄抜けの技術は旅の道中で頑張って学んだ!特に、どの関節を外せばどこが緩み抜けやすくなるとかな!
「そんな…………私の最高傑作を簡単に」
「予想は付いていたさ。俺を拘束するならお前は毒か物理でやってくるって」
「そ、そこまで分かってくれたなら…………なんで土壇場で逃げ出したの」
割と痛いところを突いてくるが、どう説明しても信じてもらえる自信がない。
戦場の仲間として、というか好意を持たれているからこそ信じられる部分はあるが、底からどうあがいても暴走するから誰とも付き合えないってのが答えなんだけど…………
ああ見えて俺含むみんなは頑固だ。絶対大丈夫とか言っても内に秘めてる計画とかを必ず実行する奴らばかりだ。
ダメもとで説得するか?信じてもらえるかどうかは二の次として、動揺を誘うくらいならできるかもしれない。
短い時間で多くの思考をしていたその時、予想外の方向から横やりが入ることなどこの時は誰も知る由はなかった。




