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第二十七話 闇故に光求める

 

 シーラと言う暗殺者は生まれながらにして殺し屋だった。

 赤子の頃には素早さと生存力はが異常に高い虫を誰も気づかぬうちに殺し、幼児と呼ばれる年齢では遊びで兄弟を殺した。


 暗殺者一族であったが故に、いずれ兄弟で殺しあい『蟲毒の儀』と呼ばれる精神を追い込み殺人者としての心を創る儀式を行う間もなく、天性の殺し屋ともてはやされた。

 その才能をつぶさない様に技術も仕込まれ、成人する前で暗殺者として完成してしまった。

 この時点で殺した人間は数知れず、何の疑問も持たずに人間の闇の世界で生きていくことになるはずだった。


 勇者リクトの仲間になるまでは。


「シーラよ、お前を呼んだのは他でもない。あの勇者の仲間になるのだ」

「……………………はい?」


 当主から呼び出され新たな暗殺依頼と思っていたら予想をはるかに超えた内容が飛んできた。

 予想外の内容に思わず聞き返してしまったが、それを責められることはなかった。


「言いたいことは分かる。私も疑問に思った」

「では何故」

「最近の魔王勢力が非常に強くなっている。さらに魔物が貴族や王族の暗殺を企て実行する事件が増えているのだ」

「それは…………」


 魔物とは本来本能に生きる獣の総称である。普通なら食事のために奇襲はあっても暗殺という無意味な行為はしないのだ。

 しかし、魔王が関われば話は変わる。

 魔王とは人類を滅ぼすために動く魔物の王。行動原理は不明であるが、悪意で動いていることは間違いない。

 実際、シーラも魔物を殺したことがある。その時に感じたことはただの獣程度しかない。


「なるほど、つまり裏で動く魔物への対策と」

「そうだ。万が一、勇者が暗殺されたとなれば我らの価値は大きく下がることになる。この意味が分かるな?」


 当主が言う価値、それは暗殺者として活動できなくなることである。

 当然だが、暗殺とは人間を殺すための手段である。それを生業にしているこそ誇りがあるのだ。

 だが魔王が進軍し人間が減ればどうなる?

 依頼主が居なくなるどころか暗殺すべき対象もなくなっていく。それだけではない、この技術をただ獣を殺すためだけに使わなければならなくなる。


 今まで受け継いできた技術がたかが獣ごときに向けるのは癪だったが、誇りを守るために仕方なくお守りをしなければならない。

 そうせず人類が負けてしまったら、何のために兄弟を殺してきた?


「その任務、承りました」

「うむ、苦痛になるかもしれんが、せいぜい励むとよい」


 このような経緯があってシーラは勇者一行として迎え入れられた。


 その時に戦士と聖女の枠で先にいたアリエルとジャンヌにはあまり良い顔をされていなかった。

 しかし勇者リクトは受け入れた。それどころか自分の身を守ってほしいとわざわざ暗殺者に頼み込んできたのだ。

 そのころはまだ成長途中であったが故に自分はまだ弱いということを理解し、身の程を知っていた。

 そもそも、リクトは当時修行中の行商人だった。だからこそ油断や慢心は命取りとなり自分の状態や持ち物、使える手段を把握していた。


 力を持った者が驕ることは少なくない。特に権力と武力に関してはその傾向が強いことをシーラは知っていた。

 いずれそうなると思っていたが、その予想は裏切られる。


 彼は善人だった。悪い言い方をすれば八方美人ともいえた。

 自身の重要性を理解し、そうでありながら自信を囮にして誰かを救おうとすることがよくあった。


 お前はこの世で一人しかいない勇者なんだから自分を大切にしろとよくしかられていた。シーラも叱るうちの一人だった。

 だが彼は言うのだ、これが自分の役目なんだ、と。


 実際、アリエルに何回もしばかれていたがこの悪癖ともいえる自己犠牲はなくならなかった。

 なぜそこまでして誰かを救おうとするのか?どうして自分の利益ではなく誰かのためになろうとするのか?

 その精神はシーラには全く分からなかった。


 だが、それが光の中にいる者の、物語の主人公のような英雄しか持ちえない正義と言えるものということは理解してしまった。

 シーラが決してなれないものだということを理解してしまった。

 そして、その光に憧れてしまった。

 暗殺者となった彼女にとって初めて欲を持つきっかけとなってしまった。


 どうすればあのようになれるのか?何をしたら彼に近づくことができるのか?

 彼女はリクトを観察し、必至で考え抜き、絶望した。


 正気と思えない行動をまねることは出来ても自然体でとることはできないのだと知ってしまった。


 それだけではない、人が良すぎる勇者の価値は非常に高いことを知っている。

 だからこそ、もしこの戦いが終われば勇者は利用され、利用され尽くして最後に死ぬことになるだろうと予測してしまった。

 偉大なる個人の力ほど権力者には目障りとなるのだから。


 そして、決してなれぬものに憧れてしまった。

 闇ゆえに光に憧れてしまうのは無理はないが、それを汚されるのは心底嫌悪した。


 ではどうすればいい?どうすればいいのだ!


『汚されるくらいなら、私が一番汚してやる』


 闇であるが故にこの考えにしか思い付かなかった。


 戦いが終われば邪魔となるものを排除していこう。

 その前にリクトをどこにも行かないよう、逃げられないように仕込まねばならない(・・・・・・・・・)


 だが、リクトは絶対に変えることはできない。

 ならばどうすればいい?


『光になりきればいい。近寄る蛾を始末するのは光になりきれば容易く潜り込める』


 そしてリクトを観察し、細かい癖や仕草を覚えた。

 全てはリクトを守る為に、得るために、光を得るために。



「と、言ったところだろう?ご静聴ありがとうございます、ってね」

「……………………!」


 ギリギリと歯軋りをする音が、目の前のリクト()から発せられる。


 悪いな、全て当たりなのは知っている。何故ならループした時に2回聞いた話だからな。

 薬を注入されながらだったからあやふやな部分もあったけど、シーラの反応からすると間違ってはなかった。


 当たったと分かるとやらせなくなる。

 昔は割と能天気だった俺を支えてくれてたのはありがたいが、こうして苦しんでいたのを知ってしまい逃げてるのだから俺から何か言う資格はない。


 だが…………


「俺を観察してきたんだろ?なあ、お前がこれ以上誰かを傷つけようとするなら、俺は容赦はしない」


 覚悟は問わなくていいか?


 既にメリルを殺めた時点で覚悟を決めた俺は、目の前で悔しそうに、悲しそうに、激怒した顔で見つめていた。




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