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第二十五話 暗くなる野営の中で

「あの、これからどうしたらいんでしょう?」

「生きて隣町につける事を祈るしかない」

「何の解決にもなりませんよ…………」


 本来なら馬車で何時間もかけていく道のりだったはずなのに徒歩で行かなければならなくなった。

 魔王亡き後の魔物の数は大幅に減少したとはいえ脅威がなくなったわけではない。

 長い道のりを常に警戒しながら進まなければならないのだ。


 俺は慣れているとはいえこの宣教師はそうではない。

 街中と護衛のいない旅の道中では勝手が違う、スリや痴漢のような者ではなく本能的な殺意を感じ散らなければならないんだ。


「徒歩で長距離の移動経験は?」

「巡礼で少々。相当昔の話なのですが激しい運動をしている時期はありましたが、今やれるかと言われると…………」


 これはあまり期待できそうにない、ここから荷物を持って歩くとなると体力が必要になる。

 荷物が少なくてもただ歩くよりも大きな負担となる。

 それこそ足腰がしっかりしていなければ距離を稼げないしへばってしまうんだが。


 あれ、よく見たらこの人、足太くない?

 決してエロい意味ではない、断じてないが馬車の店頭で引っ掛けたのか少し破れたスカートから見える足が思った以上に筋肉質だった。

 体格は良いと思ってはいたが、前は戦士でもやっていたのだろうか?

 まあ、昔と言ったら俺が勇者になったばっかりだと現地での狩りが主流でとても大変だったはずだ。


 確かに、戦いで激しく動いてたなら納得だ。


「ああ、日がもう暮れてしまいそうです…………」

「だったら道端で野宿したらいいだろう」


 幸いにも、基本は旅をしてる俺が野宿用の拠点道具一式をそろえていないわけがない。

 そもそも商人であるがために専用の道具を売っていないわけがない。


「とにかく歩こう。警戒は俺がやっておくから貴女は歩くことだけ考えたらいい」

「…………なんでもできるのですね」

「旅商人って意外と万能さを求められる職業でね。ま、過去の訓練の賜物のだよ」

「さすがとしか言いようがありませんね」


 歴戦の勇者を舐めないでもらいたい。

 戦争が終わってから人生を20周もしたから危機管理の方もばっちりさ。

 絶対とは口が裂けても言えないがな!


 早足に進んでいくのはいいが、気づけば既に日がほとんど暮れていた。

 これ以上はまずい、体力的にも集中力が切れ始めて歩く音で周りの状況を正しく把握できなくなる。

 夜は視界なんてものはないため頼れるのは音と感覚のみ。

 はっきり言ってまともに歩けるものか。


「仕方ない、ここをキャンプ地としよう。かがり火を作るからちょっと待ってろよ」


 そういってため込んでいた薪を鞄から取り出して手際よく作っていく。

 みんなで旅していた時は俺とセバスチャンが準備係だったからなぁ。

 みんな変なところが不器用で、火をつけるだけで何故か爆発が多数起っててんやわんや…………


 さらっと勇者をパーティーに交じってたセバスチャンを俺は忘れない。

 ジャンヌの付き人だったのに最終決戦以外はずっといたもんなあの人。

 本当に今までありがとうセバスチャン、多分ジャンヌと共に行動してるだろうから次から敵です。


「その、今までずっと一人でやっていたのですか?」

「やっていたとは?」

「…………今は一人なんですか?」

「独り身っちゃあ独り身だけど。何か探りたいことでもあるのか?」


 だんだんと口調がフランクになってきたけど直すつもりもない。

 やっぱり、と言いたくはなかったが彼女は…………


「既に一人、この世にはいない。俺が確固たる意志を持ってやった」

「っ!それは、やはり」

「懺悔は外に漏らさないって約束じゃあなかったのか?」

「まさか、あなたほどの方がそんなことをするとは思いませんでしたので」

「顔はそこまで割れてると思ってなかったんだけどな」


 よくあるのだ、勇者の自分はそれなりに顔は整っているとうぬぼれるてはいるがて美人な四人衆が仲間にいたので男の俺の存在はかなり薄れていた。

 あれが勇者一行と言われつつ『あの男は…………ああ、勇者か!』って反応を一体どれだけうけたことやら。

 今思い出すと泣きそうになってくる、というかちょっと涙が溜まってた。


「…………さぞお辛い決断だったんでしょうね」


 違う、そっちじゃないんだけどあえて勘違いをさせておこう。

 ただの痴情のもつれだってことがばれたら甲斐性なしと言われそうで余計に心に来る。

 20回も繰り返してダメだったから無理なんだよ!5回くらい死ぬ感覚を味わってから言え!簡単に死ねなかったけど!


「ごめんなさい、私は…………」

「よし、豆のスープでも作るか。豆はいいぞ、小腹がすいたときは軽くつまめるし、いざという時には主食になる」


 そのいざという時が今なんだけどな、と自嘲気味につぶやく。

 俺の顔を知っていて自らが信仰する宗教に勧誘したということは、用済みになった勇者の力を取り入れたかったのだろう。


 かつて大きな宗教が二つあり神の名のもとに争いあった結果、一定の力を持った兵士の数が相手のはるかに高い質を持った戦士を上回ったことが勝因となった。

 しかし、その兵士の大半が死んだことで他国の侵略を受けお互いの宗派が消滅した、なんて昔話がある。

 大きな力を持っていたこそわかる、魔王軍との戦いがまさにそれだったからだ。

 今回は質が上回った、次はそうと限らないとはいえ質は質、高いことに変わりはない。


「結局、戦いから逃げられないってね」


 聞こえるように、つぶやいてみるとシスターは肩身が狭いように体を縮めた。

 そろそろ豆のスープができる、食事の時間だ。


 暗くなった周囲、音は静かに豆のスープを咀嚼する音だけが周りに響いていた。


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