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第二十三話 ある男の独白

「……………………」

「……………………」

「…………懺悔には心の準備が必要というもの。いくらでも待ちますよ」

「は、はあ…………」


 どれだけ馬車に揺られたか、俺が感じてるよりも短いだろうけどそれなりに経ったはずだ。

 流れでなんか懺悔するみたいな雰囲気になったけど喋ろうとしても何も口から出てこない。

 俺が勇者と正直に話すのは良いとして、俺が二十回も途中から人生を繰り返しているなんて誰が信じるのか?


 というかそれを何教だったっけ………………まあ名前は良いとして初対面に等しい彼女に話していいものなのか?

 もし話したとしてこの会話が存命しているあいつらの誰かに漏れたら間違いなく目の前にいる宣教師は殺される。


 あれ、そういえば懺悔する時って大体部屋を分けて聞く人の顔は決して見せないんじゃなかったっけ?

 別にいいか、肝心の宣教師はにこやかに微笑み俺が口を開くのを待っている。

 覚悟を決めて口を開こう、少しは楽になるかもしれない。


「実は、4人の女性に告白に近いことをされてる」


 嘘は言っていない、勇者時代の魔王との決戦前に個人個人と話して「魔王を倒したら〜」みたいな会話をみんなとした。

 そこを詳しくいう義理もなく、大まかに言えば大丈夫だろう。


「4人に告白ですか」

「男としては羨ましいと思わないか?でも、その日から悪夢を見るんだ。とてもひどい悪夢を」


 ループしていることは言わない、あれは今の俺にとって物凄く悪い夢で、今からでも正夢となりかねないのだけは間違いない。


「監禁、強制的な延命、薬漬け…………家庭はともかくそれはもう酷い末路を辿ったとしか言えない、でも現実に起こっても仕方ないというレベルでの再現度の悪夢だ」

「毎晩のように見たんですね?」

「まあ、夢の話なのに日中でもフラッシュバックは起きる。それで、決断を迫られた時に…………」


 ここで一度息を吐き、呼吸を整える。

 自分語りとは言えこんなに緊張するとは、勇者として見定められ初めて王城に行き国王に紹介された時くらいの緊張がある。


 こんなに緊張するものなんだな、罪の告白って。


「俺は…………俺は逃げた、人目があったにも関わらず、4人から逃げた」


 甲斐性とかそういう問題じゃない、どれだけやり直そうとも最悪の結末しか取ることができないんだ。

 はっ、世界を救った男が情けないと言われても仕方がないな。


「まあ、流れでここに辿り着いて雲隠れしてるって訳です」

「それは大変ですね。これは私の個人的な意見ですが、ただの夢とは思えません。そこまで怯える夢というのはそうそうないのです」

「それは経験談か?」

「ええ。妄想を拗らせて『誰かが私を殺しにくる』や『誰かに見られてる』のような妄想で来る人も少なくはないのです。ですが、貴方は彼らとは違うと、そう感じるのです」


 柔らかな笑みだが眼光は鋭い、俺が夢といったものを実体験したものだと勘で言っている。

 宣教師ってのはこんなに鋭いものなのか?

 自分で言うのもなんだが、実は位の高い○○だったんだ!なんていう展開もあり得るぞ。


「恐らくですが、どこかで対応を間違えたと感じてらっしゃらないでしょうか?今の貴方からはやり直したいという雰囲気が出てるのです」

「…………やり直したい、か。確かにやり直したい気持ちは一杯だ」


 ただし、やり直すとしたら魔王を討伐した後じゃなくて彼女達と出会う前にだけどな。

 もし、もう少し彼女達に気を使えたら、もう少し早く誰を嫁にするか決めていたら違っただろう。

 例え何度も魔王と戦うとしても結果を変えるために俺はいくらでも討伐しているだろう。


 何たって、俺は割と生き汚いしちゃんとした生活をして幸せに死にたいからな!


「一つ、お聞かせください。全てを投げ出すという選択はしなかったのでしょうか?」

「投げ出す?全てを?」

「はい、今の貴方はただ必死に逃げているだけ。投げ出したと言いつつ未練が残っている、そうではないでしょうか?」


 未練、確かに言われたら、いや、見て見ぬ振りをしていただけだ。

 メリルを殺したあの時、もっといい方法があったのではないかと、今逃げるのではなく全員と向き合えばよかったと、もう既に遅いが後悔はたくさんある。

 あれだけされて、あんなことされても昔の仲間だったんだ。命を預け合う仲間だったからこそ…………


「気軽に捨てられるもんじゃないんだよな…………」


 顔も肉体も全て変えないと『俺』は何もかも捨てることはできないだろう。

 未だに元勇者として、とか言ってるのがその証だ。


「全てを捨てるということは難しいものです。かくゆう私も、ルメシー教団に入信するまではそうでした」

「あんたもか?」

「ええ、昔はとてもモテたのですが、下心が多い方ばかりでして人間不信になったのです」

「まあ、間違っても不細工とは言えないもんな。何をどう見たらあんなを不細工と言えるんだ」

「ふふ…………ありがとうございます」


 確かにモテすぎたらモテすぎる悩みを持つよな。

 勇者時代も無理矢理に娘と婚約させようと貴族のお偉いさん達が俺に女を回してきたものだ。

 丁寧に断ったが、あまりにもしつこかったのでガチ切れして聖剣で山をぶった切ったくらいのやらかしをしたなぁ。


「って、懺悔は自分語りも含まれるのか?」

「特に?ですが少し気が楽になったでしょう?」

「まあ、確かに乗り込んだ時よりかは気が楽になった」

「そういうことでどうでしょう、ルメシー教団に入信するのは?即決ではなくとも入信するとなれば私が口添えしますよ」


 ちゃっかり勧誘をしてくるあたり宣教師だなぁ。

 まさにプロと言っては過言ではないし選択肢の一つとして入れておこう。

 宗教にもアタリとハズレがあるからな、そこを見極めてからってことで。


「ふふ…………」

「はっはっはっ」


 そう思いつつ俺と宣教師は笑い合う。

 少し楽しい気持ちになってきたが馬車が一つ大きく揺れた時、俺は宣教師の首を絞めるように両手で覆った。


勇者は救う為の生き物である。では、今の彼は?

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