第十七話 訣別の時
目の前に血だまりが広がっていく。
それが何なのか理解はできている、けど否定したい現実でもある。
メリルだったものはもう動かない。
「こんな別れ方は…………したくなかった」
「勇者、様…………」
体のいい言い訳をするならエルフを守るためだ、と言ってもこの村のエルフはかなりの炎に巻かれてしまった。
狂暴化した彼女を止めるにはコレをするしかなかった。
今からでも慟哭したい衝動に駆られる。
何故、殺さなければいけない運命になるんだ!
殺した俺が言うのはおかしいだろう。
彼女は狂った、止めるために俺が殺した。
ただそれだけ、なんだよ。
だけど、これで終わるようなら勇者の仲間なんてやっていけない。
「……………………っ!」
「そこだ!」
斬撃、といっても聖剣でないと放てないのでただの衝撃波に過ぎないが木の上に向かって放つ。
何かが弾かれたような音と誰かが木の上をいどうする移動する音、そしてその直後に枝葉が豪快に吹き飛んだ轟音が響く…………やばっ!火の粉が他の木に燃え移り替えた!
でもそんなの気にしている暇はない。
先ほど飛んできたのは糸が付けられた針だ。
禁呪とされた傀儡魔術と呼ばれる人を物理的に操る強力な魔法を使うためのの第一段階と言える行動だ。
なぜ知ってるかって?ループ知識さ!
「大魔法使いともあろう者が木の上でこそこそ隠れてるなんてな!」
『うるさいわね!術者は簡単に身を現さないの!」
「勇者様!あの女は仕留めたはずでは…………」
「ああ、あれは限りなく本物に近づけた肉人形だ。さっきまで身代わりとして操ってたが損傷が大きすぎて使えなくなったってわけだ」
そう、傀儡魔術は人形を操ることもでき本人は表に出なくても代わりにほぼ人間と言っていいほどの完成された人形が出ることがあったらしい。
傀儡魔術の才能があったから俺を手籠めにする計画を過激にしたんじゃないかと今は思っている。
考え直させるためにやり直したいとはいえ、もうループする時間は決まってるから無理なんだよな…………
っとと、また針が飛んできた。
「そんなの俺には通用しないって分かってるんだろ!」
『あーもー!どうして中途半端にハイスペックなのよ!あんまり魔法とか使えないくせに!』
「だからあの時は君とジャンヌが必要だったんだよ!やべっ、今の発言クズ男みたいじゃなかった?」
『だったら一生私無しじゃ生きられない体にしてあげる!』
「人形のメンテナンス的な意味でだろ!」
確かに俺が人形になった人生を周回していた時はメリルも人形になっていたはずなのにハアハアと必要のない息を荒くしながらメンテナンスしていた。
そうじゃなかったらもっと早く俺は死んでループしていただろう。
また昔、いや未来のことを思い出していたら後ろから何か来ると本能が囁いた。
「ぬおっ!君はロニーじゃないか!なぜ…………って操られてるんだな」
「…………っ!…………っ!」
全くいやらしい戦法をしてくるぜ全く。
生きてるエルフを傀儡魔術で操って俺を足止めしようとする算段だな。
足止めなら焼け死んでしまったエルフでもいいのだが、生きているとなると容赦なく叩き切れない。
しかも、操られている本人に意識がある上に喋ることを禁じられているとか悪夢だろ。
ロニーの顔は彼にとって未知の魔術に恐怖に怯えているようだった。
安心しろ、今解放してやる!
傀儡魔術とは基本的に術者と繋がる意図糸が必要となっている、らしい。
それさえ断ち切らせたら術から解放される、みたいだ。
普通は見えるはずはないけど俺なら見える、とでも思ったか?
実はその糸が見えてないんだよなあ…………
「かなり痛いかもしれないけど我慢して!」
「……………………っ!」
だが、見えないほど繊細という弱点もある。
思いっきり魔力をぶっ放すと言う力技を使えば解けるってメリルが言ってた!
思いっきり俺の魔力に会ってられたロニーとその他こっそりと動かされていたエルフ達が吹き飛び、そのままピクリとも動かなくなった。
し、死んでないよね?
『無茶なことするわね!おかげで術が解けちゃったじゃない!』
「それは結構、あとはメリル、お前だけだ!」
声が聞こえる方と真反対の方を衝撃波を放ち薙ぎ払う。
声が聞こえる方向にあるとは限らない、中級の戦法でもある。
相手が声をどこからでもは出せるような魔法使いだったらなおさらだ。
だからもっと人が乗れるような枝を薙ぎ払っていかなければたたき落とすことはできない。
それに、射程距離というものもあるから近場を消していけば問題はない!
「きゃあっ!」
「落とした、覚悟!」
そして、ついにメリルの本体を見つけることに成功した。
今度こそ、さらばだメリル!
最後の詠唱する隙すら、残さん!
…………
……………………
………………………………
…………………………………………
終わった、ようやく俺はメリルの本体を斬り殺した。
まだ空気と体が暑い、怪我を治さなきゃいけないし鎮火もしなきゃいけない。
鎮火自体は意識を失ったエルフを叩き起こして鎮火を手伝わせた。
まだエルフ達の亡骸が転がっているが、埋葬はエルフ達だけにさせるつもりだ。
もう、俺はここに関わるべきじゃない。
申し訳ない気持ちがいっぱいだ、仲間が引き起こした厄災が勇者の仲間だなんてなんてお詫びをすればいいのか。
詫びと言ってはなんだが、火傷に効く薬を全部置いていこう。
これくらいしなきゃ意味はない。
家族の死を、友の死を泣いてる彼らにかける言葉が見つからない。
長年連れ添った仲が居なくなったんだ、その悲しみは必然だろう。
この光景は忘れられないものになる、たとえ何回ループしても忘れられないよ。
「…………これで、本当にさようならだ」
八つ当たりのように燃え残った木に八つ当たりするように剣をぶつける。
…………何か虫を潰したようだ。
どうやら蜘蛛みたいだ、熱がこもってるはずの木についていたもんだ。
終わったんだ、一つのことが。
だけど、俺にまだ問題を抱えている以上はもう離れなればいけない。
もう、俺は後戻りはできないからな。
まだ彼は一つの山を越えたに過ぎない。