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第十六話 まだ手は届く

 悪魔がやってきた、森を焼く炎を放つ悪魔がやってきた。


「手を止めるな!奴の杖を狙うんだ!」

「冷静さを欠いたら痛い目に合う。習わなかったの?」


 ただの通告を告げるように呟く女性がそこにいた。

 ただそうつぶやく間に業火は増していき木々を焼き払っていく。

 炎で焼けた木が、また倒れた。


「勇者はどこに行ったか教えてくれたら火を消し止めてもいいわよ」

「勇者がここに来たことはない!」

「嘘よ、だってここに彼の残り香があるのよ!」

「残り香、だと?いったい何を根拠に…………」

「あるものはあるの、だから教えなさい」


 勇者はどこにいるの?


 ぞっとするような冷えた、そんな言葉じゃ生ぬるい、絶対零度の声音が熱風と共にエルフ達を襲う。

 この瞬間、心が挫けそうになってしまうが彼らなりにこの災いに立ち向かっていく。

 仲間の死が、自分の死が目の前に立ちはだかろうと守る伝統のために。


 そして偶然立ち寄った彼のために。


「答えないのね。じゃあ焼けろ、私の道の邪魔をするなぁ!」


 業火、猛火、紫炎、様々な炎は彼らを焼いていく。

 身を守る魔法も、鎧も、武器も何もかも焼き尽くして命まで焼き尽くす。

 残るものは灰塵ばかり、肉は跡も残さない。


 まさに絶望というべき状態がエルフを襲うが退く様子もなくただ無謀に挑む。

 死に際くらい勇敢になりたいのだろうか?


 だけど、そんなことは彼は喜ばない。

 ()()喜ぶはずもないだろうが!


「メリルぅぅぅ!」

「あ、やっぱり!こんなところ一度こなきゃ分からないわよね」


 彼女の凶行を止めるのは俺しかいない。

 彼女のことを全部知っている俺しか止められないんだよ。


「メリル!この火を止めろ!ここの人たちを皆殺しにするつもりか!」

「そのつもりよ。私のことを騙したのよ、それだけで万死に値するわ」

「元から気性が荒らいもんな、俺達の中で一番過激だったもんな」

「ちょっと!それを言うならジャンヌだってすぐ氷漬けにするじゃない!」


 まるで痴話喧嘩が始まったかのように口喧嘩が始まる。

 基本的に勇者パーティーというのは暴力的ないい人がなるようなものであり、実際に揉め事になったら非常に大変になるのだ。

 また、それを止めるのも勇者でありかなり苦労するんだよな。


「ほんとにやめるつもりはないんだな?」

「ええ、だからそこをどいて」

「振られたからストレス発散に滅ぼすのか?」

「まっ、まだ振られてないわよ!振られてない、よね?」

「記憶までおじゃんになったか?」


 馬鹿にするように言ったらメリルの顔が赤くなる。

 こういう挑発に弱くて特攻しまくって困り者だったな。

 だけど、じだを踏んで止まる。


 苛立ったらこうして発散させてた癖だ。

 だが、今回はそうやって止まることはない。


「最後に聞くぞ。本当にやめるつもりはないんだな?」

「ええ、もちろん。ねえ、その剣を降ろしてくれない?」

「それはできない相談だな」

「なんで?なんでなの?私たち上手くいってたじゃない」

「ああ、今まで上手くいってたな」

「どうしてこうなったの?」

「心境の変化としか言えないな」

「なんでなの?」

「知られざる一面を見ちゃったからだ」

「嘘よ!そんなのあなたの前で一度も見せてない!」

「優秀だと一つだけを極めるのは容易いってのはよく聞く。メリルは炎と何を極めるつもりだった?」

「私は炎だけよ」

「確かあの時、君の師匠に会った時は確か四つと言っていた。それにメリル、君は何か極めるていると言っていたよ」

「…………っ!余計なことを…………」


 少し長い問答を行ってしまったが彼女はかなり動揺しているのがはっきり分かる。

 実ははったりが入っていることに食づいているのだろうか?

 確かに彼女の師匠には会ったことはあるがその会話まで覚えていない!

 だってあの時は魔王軍がよく侵攻してきたから覚えておくことなかったもん!


 その魔法を知ることになったのは未来での話だ。

 人形になった時は時間がたっぷりあったからな、暇で暇でよく喋ってくれたもんさ。


「まあいいわ。だからどうしたって話だもの」

「…………悪いな、こっちは覚悟決めさせてもらった」

「覚悟って?まさか私を斬るつもり?」

「ああ」

「ハッ、面白い冗談ね」


 肩を透かせるように笑ったメリルの顔は…………


「ふふふ、正当な理由ができたわ。貴方を従えるいい理由が!」


 心から嬉しそうな笑みだった。

 無邪気な笑顔の訳がない、なおかつ己の欲望にまみれた邪悪な笑顔と言えるものだった。

 いままで心の奥底にためていたモノがあったんだ、そしてようやく本性を現したってとこか。

 残念だ、本当に残念だよ。


「こんな理由付けしてお前を殺すことを、許してくれ」

「あはは、私は死なないわよ。それに、貴方は私を殺せない」

「それはどうかな」


 ゆっくりと王都で買った少し値が張る剣を構える。

 切っ先はメリルに向けて動かさず、確実に斬る意思を伝えているように。


「…………さよならの時間だ」

「私も先に謝るわ。貴方を止めるのに怪我させてしまうことを!」


 炎の魔法が俺に向かって雨の様に降りかかる。

 本気で殺しにかかってきているのが分かるぜちくしょう!

 接近されたら終わりって理解しているからこそ弾幕を張ってスタミナが尽きたところで九割殺し、と言ったところか。


 動き回りながら魔法を()()()()()()()けどいつまでも持つわけがない。

 ちょっと値が張った剣じゃいつまでもつか分からないしこれだけでもかなり被害が増えていく。

 だから、俺がいくら傷ついても構わないから早くメリルを倒す!


「熱い熱い!こんなのもう潜り抜けたくない!」

「はやっ!もう火炎地獄を抜ける覚悟決めたなんて!」

「今まで優柔不断みたいにいうなおい!」


 思ったよりも炎のに当たってしまったせいで火傷ができてしまったが剣の届く距離まできたぞ!

 これで、終わらせる!



 ザシュッ



 斬り付けられた音が嫌に響く。

 本当に致命的な一撃を放つとは思っていなかったメリルは斬られた自分の体を見て、驚愕の表情のまま倒れこんだ。

 勇者がかつての仲間を、殺したのだ。


 バッドエンドは何度も体験した。しかし、やり直しの結末が必ずハッピーエンドになると誰が保証した?

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