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第十五話 それでも俺は

 そろそろ出ると言いつつ二日たった。

 あぶねぇ、エルフの長寿ネタを直々に食らいそうになるとは思いもしなかったぜこん畜生!


 エルフの長寿ネタとは『大昔にちょっと出かけてくると言ったエルフを待ち続けた人間がいた。その人間は待ちに待っていたが寿命が尽きてしまいエルフは帰ってくることはなかった。それから数十年後、既に家が潰されて更地になった土地にエルフは帰ってきてこう言った。「ここに住んでた夫はどこに行った」と』いうようなお話である。


 その逆で『エルフの村から二度と出られなかった冒険家』というお話もあるが割愛させてもらおう。

 つまり、エルフと人間の時の流れは全く違うという事だ。

 エルフの一年が人間の一日とはよく言ったものだ…………


「本当に行くのですか?」

「ああ」

「本当の本当に行くのですか?」

「ああ」

「本当の本当の本当に」

「もうこのやり取り何回目だよ!?一昨日も昨日もこれやって俺が折れたじゃんか!」


 エルフにとって俺の滞在ははるかに短い。

 それ故にまだ居てほしいと思っているらしくしつこく引き留めてくる。

 あの、これ勇者とか関係なくごり押しでやってるよね?

 物語の冒険家はエルフのごり押しに逆らえず帰ることができなかったんだろうな…………


 結局、『本当』が26個付いたあたりでようやくエルフの方々が折れてくれた。

 これで彼らの見方は変わった、自分が美人と分かっててあえて美人の女性で引き留めようとする執念深くて狡猾な種族だよ!

 精神的に疲れたよ…………


「ところで、でちさんはどこに」

「さあ、あの子は気まぐれやだからふとした時にはいなくなってるよ」


 …………もういいや、あんな二頭身知らない!

 荷物も既にまとめたことだし早く出よう。

 またごね始めたら一生この村で過ごす羽目になるかもしれない。


 それに彼女達が追ってこないという保証もない。

 見つかたら最後、彼等にも何されるか分からない。

 そういう面でも俺はここから早く去らなければならない。


「生きてたらまた会えるさ。それじゃあまたいつか」

「また百年後~」

「その時には死んでるって!」


 いや、メリルと結婚した場合に数百年を人形として生きてた記憶があるけどもそこまでして会おうとは思わないんだよなぁ…………


 ワーワーと別れを惜しむ声を背にオレは森の出口に向かって歩いていく。

 だんだんと声も聞こえなくなり、ついに森のざわめきしか聞こえなくなった。


 これでいいんだ、俺は俺、エルフはエルフだ。

 もう世界単位で誰かを救う勇者という職業はもうやめたんだ。

 それにたった一人で何ができる?

 商売も勇者としての戦いも誰かがいたからこそ成し遂げられるんだ。


 また今度行けるようにはしてくれたけど、なんだかやるせない気分になる。

 滅びを受け入れる、か。

 人類は滅びに向かってあらがったからなのか、俺も滅びとかそういうのはあまり受け入れられない。

 ループしているのもちゃんとした結末を歩みたいから、ろくな死に方をしたくないからという理由だ。


 今までのループで出会う事のなかった彼等との縁ができてしまったが、もう会うことはないだろう。

 もう、多分、恐らく…………


 あ、もう森を抜けたか。

 入るときは散々迷ったのに出る時はあっさりだったな。

 いや、考え事しながら歩いていたから結構時間が経っていたことに気づかなかったんだ。


 だめだ、モヤモヤが晴れない。

 こんなことしている場合じゃないんだ、俺は俺の使命に従って動くんだ。

 勇者として誰かを助けたかった?

 商人として誰かに幸福を与えたかった?

 この行動原理が俺なんだ!

『誰かの幸せのために働く』事こそ俺の夢であり到達点だった!


 そうじゃなければ勇者を続けて王宮に入り浸りして俺の物語はそこで終わっていた。

 ただの戯言(綺麗事)と分かっていても、俺はやらなければいけない。

 何のための勇者だ、こういう滅びから普通の人を、正しい営みをしている人を守るんじゃないか!


 ああくそ、いやな予感がここ最近続いてるのはそのせいか!

 この嫌な予感のおかげでいつも危機を切り抜けてきたけど平和になった世にまで嫌な予感を持たせてほしくなかった!


 あの滅びの予言ももうすぐ起きる、少なくとこの感じからしてもう時間もない。

 助けなければ、臭い台詞になるが俺はそういう思いがあるからこそ強くなれたんだ。


 急いで戻ろうとしても結界のせいで迷うしゾッとするような感覚と汗が流れる。

 もたもたしている場合じゃないのに、どうしてこう一人になったら微妙な感じになるんだ!


 くそ、風もずっと同じ方向から吹いてて気持ち悪い…………いや待てよ、何か不自然だ。

 まるで俺を導いているような、まさかあの話は本当だったのか!

 エルフには彼らを慕う彼らにしか見えない生き物、妖精がいると聞く。

 ともに共存生活を送り互いに助け合っていて危機には人を呼ぶと見習い時代に旅の人に聞いたことがある。


 もしかして俺を導いてくれているのか?

 だとしたら風の流れに沿って行くべきだな。

 頼む、間に合ってくれ!


 進むにつれて空気の温度が上がっていく気がした。

 火の粉の跡らしいものも散っている。

 事態は既に怒っているような、手遅れに感じてしまった。

急に主人公っぽくなる主人公

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