第十四話 厄災の予言
ペーストはいったい何だったのか、少しづつ戻していきたいです。
「はいはい、薬配るから並んでくださ~い」
「頭が痛い…………」
「まさかこんなところで二日酔いの薬が売れるとは思わなかったよ」
「うう、かたじけない…………」
二日酔いで苦しみながら転がっているエルフ達に二日酔いの薬を配る羽目になるとは思わなかった。
この薬は植物成分から造られており副作用もあまりないのため少々お高いのだ。
こんな薬をなぜ持っているかというと、二日酔いの薬はどこでも売れる上に長期保存が効くんだ。
時と場所によったらかなり高値で売れるので行商人として必ず持っていなければならないと言われるほどだ。
なお、二日酔いの薬だけ買って破産する馬鹿もいるという話もたまに聞くんだが、何を考えていたのか意味が分からなかった。
「くすり~…………」
「ああもう、ちゃんと口をゆすいでから飲んでくださいよ」
「ふぁい、ウッ!」
「げ、ここで吐くなよ!向こう行け!」
屍人のようによたよたと歩き吐きそうになるのを必死に止めることしばしば、あれ、俺は何しにここに来たんだっけ?
でちさんを追いかけて迷って警戒されて、なんやかんやあって今に至る。
本当に何してんの俺?
「いやはや、酒だけでなく薬まで売ってくださるとはかたじけない…………」
「さすがにこの惨状は見てられないですからね。村長さんも薬をどうぞ」
「おお、ありがたい…………」
このように村長さんまでグロッキーな状態だから俺が何とかしないと。
殆どのエルフが二日酔いで守りが薄くなっているのは危険だ。
ごくまれにやって来る奴隷狩りとか魔獣に襲われたら目も当てられない。
その原因が俺が売った酒とか言い伝えられたら最悪中の最悪だ!
そんな危機感を募らせながらなんとか薬を配り終えた。
もう太陽が結構上っているな、そんなに時間が経ったのか。
薬のおかげで多少遅れたが狩りに向かう人々の姿が見えた。
あれだけ動ける元気を取り戻したならもう大丈夫だろう。
一応、こっちも対価としてエルフの里限定の品を貰えた俺としては大満足だ。
「あのような弓と置物でよろしかったのですかの」
「ああ、確証は持たれないけど品質は上等なものだから高値で売れる。この置物も魔除けと言ったらそれなりに欲しい人も現れるだろう」
「ふむ、そういうならそうなんでしょうな。しかし我々としては少々足りない。少しお待ちくだされ」
そう言って村長は何かの書物を持ってきた。
あれは、まさか『マキモノ』か!?
今は本みたいな紙を束ねて造られた記録用紙が一般的だがマキモノは一枚の長い紙を筒状に丸めたもので古くから存在したとされ現在ではほとんど残っていないとされている。
その理由はいちいち巻かないといけない上に積み上げて置けないという不便な理由だからだ。
親父のツテで一回だけ現存しているマキモノを見たことはあったが、まさか再びこんな形で見ることになるとは…………
「これは昔、わしが生まれるより遥か前に造られたマキモノでの」
「村長が生まれる前からあるだと?よく朽ちてなかったな…………」
「それは儂の口からは言えませぬが少し特殊な魔法とだけは言っておこうかの。このマキモノに記されているのは未来に関する絵じゃ」
「つまり予言書ってか」
「左様」
この話を鵜吞みにはできないがあり得ない話じゃない。
大昔には異世界からやってきた魂が多くのことを伝えたと聞く。
昔話だから信憑性は薄い者のマキモノに描かれていたのは森が燃えエルフの村が焼かれている絵だった。
「これは…………?」
「世界が平和になった時、この村は滅びる。儂らはそう解釈しております」
「なるほど、魔王が殺された今の状況にあってるということか」
「察しが良くて助かります。いつこの予言書のようにことが起こるから分かりませぬ」
「なおさら逃げたほうがいいんじゃないか?」
あくまでこの予言書が本物と仮定して話を進めているが、この質問をしてしまうのは無理もない。
答えは分かっていても質問せざるを得ないんだ。
「エルフは死ぬまで生まれ故郷を捨てることはできませぬ。しきたりとかそういうのではなく、そのように我らはいるのですから」
「…………愚問だった、申し訳ない」
「頭を下げる必要はありませぬよ」
近い未来に滅ぶ、つまり自分も死ぬと分かっていても朗らかに笑う老人に覚悟が決まっていることを感じた。
だが、たとえ滅びが待っていようとも戦うと村長の目が物語っている。
「…………そういうなら止めはしません」
「何よりも儂らはここで滅ぶことが定めと決まっていますからの」
それは間違っている、ただ紙切れの予言で全部諦めるなんて間違っている、そう言いたかった。
でも言えるはずがない。
彼らのような者は言っても聞かない、逆に誇りを汚されたとか言ってかなり怒る。
決めつけと言っては悪いが過去にそういう失敗を起こしてしまい勝手に突撃されてしまい余計な被害を出してしまった事があった。
その時に勇者は悪くないと何度言われたことか。
止められなかった俺が悪いのに、諫めることもできなかったのに!
やり直しをするなら勇者になった時からのが良かった。
何度思った事なんだろうな。
「それじゃ、そろそろ出るとしますかね」
「おや、もう出発なさいますか」
「薬とかお酒とか買いこまなきゃいけないんでね。でちさんを追っかけてたら偶然ここに辿り着く結果になりましたが、この出会いは忘れませんよ」
「ふぉっふぉっふぉっ、向こうの皆によい土産ができましたの」
もしかしたら次ここに来たら何もなくなっているのかもしれない。
でも、俺はまたここに来て商売がしたい、また酒を飲みかわしたい、二日酔いになったエルフをまた見たい。
行商人としてよい思い出とともに悲しみが俺の心の中に積もっていった。
ここ最近、いやな予感はしていたんだ。