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第十三話 現実のエルフ

 

「ふぉっふぉっふぉ、まずは一杯」

「こ、これはどうも」


 村に入る許可は得たが、さっそく酒盛りが始まった。

 いやさ、物々交換で酒を提供してこちらも物を貰ったのは良いけどその酒で俺をもてなすのはどうなのかなぁ。

 しかし、がばがばと酒を飲んでるな。

 浴びるように飲むと言う言葉がピッタリだ。

 すでに出来上がっているのも何人かいるし。


「なぁ~、やっぱりあんたゆうしゃだろ~」

「違うって言ってるでしょお兄さん、まさかコップ一杯で酔ったのか?」

「あー、ひさっしぶりの酒はうまい!」

「この日のために禁酒してたもんね」

「んひゃー!向こうの大陸の酒はウマいなぁー!」


 その、さっきまで生真面目ぽかった方々が酔っ払って大変なことになってらっしゃるんですが。

 やばい、いろいろとイメージが壊れていく。

 あの高潔で警戒心が強くて一騎当千ともいわれたあのエルフが酒一つでこんなにだらしなくなるなんて!

 いや、逆に考えるんだ、はっちゃける日はいいのさ、と。


 よく考えたら長い間禁酒してるって言ってたし久しぶりの酒だからいつもより羽目を外してるんでしょ。

 俺は聖剣の制約で貞操を常に守るべしとか言う訳分からないのがあったけど、特に困ることはなかった。

 元々()()()()()()だったからというものあったけど、それを隠すのにはもってこいだった。

 ループする前は聖剣はもう返還したけど貞操が狙われる心配はないと思っていたけどこんなことになるとはなぁ。

 人生何が起こるか分からない、もう20回繰り返したけど。


「ちらっとだがよぉ、ゆうしゃみたことあるんだ」

「こいつ酔っ払ったらウソつくから聞き流すだけでいいぞ」

「あ、ああ」

「んだよぉ、まあうみからのまじゅうせんのときにな、ひっく」


 海からの魔獣戦と言ったら去年のことだな。

 あのクソ帝王が急に呼び出しやがったから仕方なく行ったらいきなり海から大量の魔物が襲い掛かってきて…………

 今までの死ぬかと思ったランキングでまあまあ上位に入る出来事だった。

 この人はどこから見てたのか?


「んでよぉ、ゆうしゃがバッタバッタなぎたおしたときにせいけんがかけたのをみたんだよ」

「おいおい、聖剣が壊れることはないぞ。なんたって神の加護がついてるって話だからな」

「かんぜんにぶっこわあれてねぇよ、ひくっ、かけらがとびちってたのをみたんだ」

「おい、そろそろこいつを引かせろ。客人に迷惑がかかる」

「おぉい、もっとはなさせてくれよぉ!」


 酔っ払ったエルフの男はずるずると引きずられて奥へと引き取られていった。

 …………あれ、女性の腕ってあんなにムキッてしてたっけ?

 片手で引くずってるもの、エルフの魔法か何かで重さを軽くしているんだ、うん、間違いない。


 そして聖剣が欠けたと言ったあの男、よく見てたな。

 確かにあの戦いで敵の硬さが尋常じゃなく、長年一緒だった聖剣が欠けたんだ。

 手入れはしていたと言っても気難しい剣だし高名な鍛冶師でも手入れには苦労していた。

 欠片は即座に集めて聖剣に触れさせ続けたら普通に治った。

 本当に謎が多いよあの聖剣…………


 もちろん聖剣が欠けたなんて話は極秘でもある。

 勇者信仰者が多いから下手に混乱させないようにという措置を行ったのだ。

 あの時はまだ魔王が存命していたし余計な混乱を起こしてはいけなかったからな。

 その後の戦いではもう欠けるようなことはなかったから安心したよ。


「ささ、どんどん飲みなされ」

「あの、村長さんこそ飲んだ方がいいのでは?一介の行商人から買ったものをわざわざくれなくても」

「いやいや、かまわないのですよ。その素性を隠していても我々は分かってますから」

「はは、あはは…………」


 勇者じゃないと言い張ってもどうやら彼等には俺が勇者に見えるんだろう。

 実際に勇者だったんだけどさ、エルフに隠された能力でもあるのか?

 そういえば大昔に人の能力を数値化して見ることができたという話を聞いたことがある。

 今じゃ失われた技術だとかなんとか、関係ない話だけどそんなので差別されたら困るよね。


 貴重な能力を持っていることを知ったら喜べるけど、知られたら周りが寄ってくるし危ない能力を持っていたら迫害されたとも聞いた。

 『ステータス情報』だったかな、失われた技術は失われたままでいいと思う。


「ははー!どんどんのめー!」

「酔っ払ったロニーが脱走したぞ!追え!生きて返すな!」

「何物騒なこと言ってるんですか!?」

「ふぉっふぉっふぉ、解禁日はいつもこんな感じですじゃ。ささ、もう一杯」

「そもそも何故こんなに酒が好きらしいのに禁酒なんかを?」

「古くからのしきたりじゃ。次の日は全員動けなくらるのですよ」

「村長さん、もしかして貴方も酔っぱらってる?貴方はまだお酒飲んでないでしょ!?」

「ふぉっふぉっふぉ、ささ一杯」


 あ、これダメなやつだ。

 しかも動けなくなるほど飲むって酒に弱いのにこんなに飲んでるのか!?

 よく見たら陰でリバースしてる人もいるし、もう寝転がって酔いつぶれている人までいる。


 こんなに酒癖が悪かったらそりゃ酒を禁止するよ…………


 翌日、人がいないという理由でと家を貸してもらった。

 後から聞いたがそこの住人は旅に出てもう100年帰ってきていないという、どれだけ長い旅なんだよ。


 目を覚まして朝飯のパンを食べて外に出たら死屍累々の状況が広がっていた。

 倒れこんで吐いていたり、うーうーとうめきながら青い顔をしていたり、見てるだけでも悲惨すぎる。

 ああ、現実のエルフってこんなのだったのか…………

 このことは一生胸の中にしまっておこうと決意した朝だった。

みんなもお酒は適度に飲もうね!勇者との約束だよ!

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