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第十話 来たる時

 

「でちちー」

「はい、今日の分のワサビねぇ」

「でちー!」


 でちさんがワサビをもらって喜んでいる。

 最近知ったことだがでちさんの好物はワサビのようだ。


 ワサビって割とどこでも生えているし辛さが嫌いという人ばかりだから売り物になりゃしない。

 コストパフォーマンスでえいうと最高の食糧なのだろう。

 よくあんな幸せそうに齧ることができるな。


「でちでち」

「あの、頭の上に乗るのはやめてくれない?」

「でちー」


 最近は俺の頭の上がお気に入りなのかなかなか降りてくれない。

 持ち上げたときは軽かったけど、頭に乗られると重いんだよな…………


 それで、売れ行きはというとでちさんがいるおかげでたくさん売れている。

 でちさんの影響力が半端なさ過ぎて何だか利用しているような感じで申し訳なかった。

 だが私は謝らない。


 ここのところ平和だな。問題のある奴が絡んでこないし、暴走した魔獣の襲撃もない。


「でち?」

「いてっ、髪の毛を引っ張るなよ」

「でちっ、でちち」

「向こうを指さしてなんだ…………ん?」


 軽く頭を振ったらでちさんが落ちた。

 しかし、そんなことは気にせずでちさんは指?腕?それはいいか、とある方向を指している。


 その指をさしている方向を見ると何かが地面を滑ってこちらに来ているような?

 いや、あれは滑って移動しているんじゃない。

 超低空を飛んでいるんだ!


 しかも高速でこちらに飛んでくる。

 こんなことをやれる人物に心当たりはある。

 向こうは俺をよく知り、俺はそれ以上にあの子のことを知っている。


 4人と結婚する運命を5回繰り返したんだ、知らないというのがおかしい。

 だが、まさかここまで追ってくるのかと舐めてた。


「見つけたああぁぁぁぁぁ!」


 その声は、悪鬼とか修羅が出すようなドスの効いた声で表情は滅茶苦茶怒ってる。

 あの子は魔法がメインで肉体的な強さはとても弱い筈なんだけど妙な気迫がある。


 あ、俺ここで死ぬの?


 そう悟った瞬間、俺とでちさんは彼女の空飛ぶ絨毯に轢かれた。

 絨毯って、こんなに硬かったんだ…………


 そのまま絨毯に乗った魔法使いも力尽きたのか絨毯ごとスライディングした。







 〜●〜●〜●〜●〜








「さて、何から話したらいいんですか?」

「とりあえずどうやって来た、なんて愚問か。他のメンバーは?」

「海で見かけたけど放置した」

「見かけたって…………」


 ある部屋を借りて正座させられてます。

 誰にかって?目の前にいるメリルさんですよ。


 俺の推測だとあの移動式魔導絨毯で海を渡って来たな。

 この子は体力はともかく魔力が尋常じゃないほど持っている。

 魔力だけなら俺を上回ってるから燃費が悪いと言われる移動式魔導絨毯をポーションさえ飲み続ければ海を渡ることは可能だろう。


 さらっと勇者に出来ない芸当できるあたり凄い。

 その方向性さえ間違えなければよかったんだけど…………


「何考えてるの?今はこっちの話でしょ!」

「はい、すみません」

「でちちー」


 何故でちさんはいるのだろうか?

 痴話喧嘩に興味を持ったのか?

 メリルに伸ばされたりしてるけど大丈夫なのかあれは。


「この不思議な生き物と一緒にいたことは不問にします。何で私が来れなかったか分かりますか?」

「私達の間違いじゃないのか?」

「質問にだけ答えて。ほら、ね?」


 やばい、今まで見たことないほどにこやかなのに目が笑ってない。


「貴族周り、とか?」

「もちろん、やりましたとも。その度に色々とありました。勇者に嫁がなかったから是非うちの息子にと、いやいやうちの花嫁にと全員に、全員に婚姻話が来たんですから」

「でちー」

「いちいち断るのもしんどかったわよ!あれだけの断ってもしつこくネチネチとくるし!王様が美談にしてくれなきゃ今頃どうなってたことか」

「…………申し訳ありません」

「ま、それはさほど重要じゃないわ。で、何で逃げたの?」

「それは…………」


 言えない、ループしていて全員と結婚した結果幸せになれないという事実を言えるわけないだろ!


 俺だって全部の異常状態に耐性があるわけじゃないんだぞ。

 勇者だからって過信していたわけじゃないんだぞ。


「それは、まだ考えたかったからだ」

「それはどういう意味?」

「正直さ、短い間に色々あったじゃん?俺には自分でやりたいことだってるんだ」

「…………私達は必要ないってこと?」

「それは違うぞ」


 目を逸らすな、目を逸らしたら食い殺されそうだ。


「確かにあの時言ったように店が欲しかった、それは間違いない。でもな、改めて考えたんだ。商人として実績がないのに簡単に店を開いていいのかって。まあ、色々迷った結果ああなったんだけど」


 ぶっちゃけこの考えに至ったのは王国を出てすぐのことだった。

 あの時は勢い任せで出てしまったが、ループの記憶を思い出していくうちにこの考えに至ったんだ。

 商人として半人前なのに店を出すのはどうかってね。


「一回なにもなしで自分を試したかったんだ。勇者としてじゃなくて、1人の男としてちゃんとやっていけるのかを」

「でちちー」

「ふーん…………そっか、自分で考えたんだね」

「あ、ああ」


 そりゃ自分で考えたもの。

 滅茶苦茶な人生は送りたくないからな!


「少し……を薄………れ……たのに」

「何か言ったか?」

「いや、何も。まあ言いたいことは分かった」


 本当に?本当に分かってくれたのか?

 こういう時は内容を理解してない場合が多いんだけど…………


「言っとくけど、俺はこれから行商人として…………」

「それじゃあ私も一緒に行く。異論は認めないんだからね!」

「でちちっ!」


 …………どうやら俺は逃げられないらしい。


 ずっと男の独り言みたいになってたし欲しいとは言ったけど、この先が不安になる仲間が増えた。

 俺は、ちゃんと生き残れるのだろうか?

主人公はヒロイン達を全て知ってるわけではない。

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