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第0話 21回目のループ

 

「勇者よ、よく魔王を倒してくれた!おぬしの功績によって世界は救われたのだ!」


「ありがたきお言葉です」


 俺、リクトは魔王を倒して世界を救った。そして今、凱旋した俺達を王様がほめたたえている大イベントの最中だ。


 勇者の資質に目覚めてから5年、この旅は本当に長かった。


 たくさんの戦って、たくさん人を救って、たくさん死んでいく人を見た。


 行商人の息子として生まれた俺は18歳のある日に勇者の資質に目覚めた。

 そこから俺を取り巻く環境がめまぐるしい変化が起こったのを今でも覚えている。


 城で騎士団長が剣術に関して知識だけかじっていた俺を一から鍛え上げ、宮廷魔導士が俺に魔法に知識を叩き込み、たくさんの仲間を得て旅立ち…………


 行商人の息子がやれることなんてたかが知れていた。それでもやらなければいけない使命を持って何とかあり遂げることができたのだ。


 頼れるのは自分だけというわけではないが、父からやるべきことを少しでも怠ったら痛い目に見ると教わった。

 実際、行商人見習いだった俺は商売に失敗してめちゃくちゃ怒られたこともあった。なんだか昔のように感じるよ。


 もう魔王という世界を脅かす存在はいない。もうあんな戦いに身を投じなくていいんだ。涙が出そうになるよ…………


 これも仲間がいたから俺はやり遂げることができた。


 騎士・アリエル、魔導士・メリル、聖職者・ジャンヌ、暗殺者・シーラ、彼女たちがいなかったら何度も死んでいただろう。


 俺が心が折れそうになった時に叱責し、時には厳しく、そして優しくして俺を支えてくれた。

 ただ、全員女性だったから少し気まずい場面もあったけど今となっては笑い話だ。


「勇者よ、この功績をたたえておぬしの望みをできる限りかなえてやろう」


「ありがとうございます!」


 俺の夢は行商人から自分の店を持って商売を繁盛させることだ。

 そしてゆったりと破産しないくらいで気ままな生活が欲しい。それが俺の望みだ。


「私は…………っ!」


 自分の店が欲しい、そう言おうとした瞬間だった。


『ほう、店が欲しいとな?流石に1人では難しいだろう。その4人のうち誰かを嫁にしてはどうかね』


 これは王様が言ってる?いや、まだ願いを言ってないのに何度も聞いたことがあるような感じがする。

 これは間違いなく俺の記憶だ。けれども何故か四つの記憶が俺の頭の中で何時ぞや見た走馬灯のように流れる。


 俺はどこぞの小説に出てきそうな朴念仁の勇者じゃない。

 みんな俺に好意を持っていたことくらい知っていた。

 魔王を倒してからか答えを出すと先送りにしていたが、今ここで答えをはっきり出すことにしていたんだ。


 その記憶の中で俺はアリエルを嫁にした。順調に人脈を作り商売も軌道に乗っていた時だった。

 順調に他人に接していくたびに嫉妬を積み重ねて来たアリエルが俺を死ぬまで監禁した。


『お前は私だけを見ていればいい。他の奴らに見させない、声も聞かせない、匂いも全て私のものだ』


 その記憶の中で俺はメリルを嫁にした。メリルの希望で秘境でまったり農業と商売をしていた。

 時は流れて2人はどんどん歳をとっていく。その中でメリルは狂い、俺の魂を人形に閉じ込めた。


『貴方も私も人形になりました。これで肉体が老いることはないです。他の奴らよりずっとずっとずーーーっと一緒に居ましょう♪』


 その記憶の中で俺はジャンヌを嫁にした。優しく料理上手な彼女と末長く過ごしていった。

 彼女は聖女となり歳をとるのがかなり遅くなった。俺は年老いても枯れ木のような体になり、死にたいと思っても死なない苦しみながらジャンヌに延命治療を続けられた。


『ずっと貴方を介抱します。私がいないと苦しいでしょう?貴方には私が必要なんです。私はまだ100年、いや200年は生きます。私が死ぬのと同じ時に一緒に逝けるなんてとても幸せですね』


 その記憶の中で俺はシーラを嫁にした。不器用だが人懐っこい彼女は看板娘としてとても大活躍だった。

 その裏で禁止された麻薬を裏で入手して俺を薬漬けにして調教し依存させた。


『ほらほら、こちらへ。どうして怯えているんですか?これがないときついのでしょう?そうそう、こちらへ、私の愛しい。けれども少し反抗的な態度はお仕置きですね』


 え、いや、何だこの記憶は!?急に鮮明になってくる恐怖の記憶がよみがえってくる!


 …………そうだ、思い出した。俺はこの日から何度も繰り返しているんだ。

 4人の中から誰かを嫁にして死んでまたこの日に戻っているんだ!

 全員5回ずつ嫁にして、何度も問題解決に向けて俺は頑張り、そして全て失敗したんだ。


「勇者よ、先ほどから黙っているがどうかしたか?我々では叶えられないことなのか?」


「あ、いえ、少し考えをまとめさせてください」


 つまり、これは21回目のやり直しだ。俺はもう…………彼女達には悪いがあんな思いをしたくない!


「俺は何も望みません!失礼します!」


 立ち上がって敬礼し、すぐに所見の間から出た。周りはぽかんとしていたがもう知ったこっちゃない!

 自分勝手でクズのような行動とはわかっている、だけど辛い思いはしたくないんだ!


 ありがとうみんな、申し訳ないけど俺は勇者じゃなくて一人の行商人として生きていく!


 そして誰にも邪魔されず自由気ままな人生を歩ませて貰おう!


 さらば、見慣れた王城よ、もうここに来ることはないだろう!

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