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もぐら人  作者: ゆずさくら
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「どうしましょう」

「船長!」

「まて。ここにいる限りまだ何か被害があるわけではない。船のコントロールがきかないだけだ。状況を見守るしかない」

「救命艇で」

「さっきのをみたろう?」

「ひっくり返っただけです。死んではいない」

「船を放棄して逃げろというのか?」

「しかし!」

 操舵室から声が聞こえなくなった。

「分かった。行きたまえ」

 船員達が出て来て、また救命艇を準備を始める。俺は慌てて船員達の前に出る。

「俺たちも載せてください」

「!」

「まだいたのか!早く乗りなさい」

「一人呼んできます」

「君以外にもいるのか?」

「はい」

 俺は階下の船室へ走った。小田がいるはずだ。

「小田さん、救命艇が出ます。小田さん?」

 船室を開けると、小田が震えていた。

「小田さん救命艇がでます。逃げないとこの船は危ない」

「そうなんですか」

「逃げましょう。救命艇は直ぐにひっくり返されると思いますが、それでもここに残っているより……」

「えっ!」

 再び船が傾き、俺と小田は壁に重なるようにして打ちつけられた。

 船のなかに、金属が軋むような音が響いている。

「しまった! 遅かったかも」

 ドン、ドン、と繰り返し叩きつけるような音も聞こえてくる。傾きが元に戻ると、俺は急いで小田を連れて救命艇を下ろす方へ出た。

「えっ?」

 救助艇が見えなかった。

「まさか、俺たちを残して先に出てしまったのか」

 手すりにつかまり、身を乗り出して見るが、海上に船は見つからない。

「船長が残っている。船長に救助艇を出してもらおう」

 操舵室は上のフロアだ。俺は小田に指示しながら上のフロアにいく。扉を叩く。

「船長! 船長!」

 扉には鍵がかかっていなかった。俺は操舵室に入ると、船長を肩を叩いた。

「もうだめだ」

「救助艇を」

「もうダメだ……」

「船長、俺たちの為に救助艇を」

 俺は船長を両肩を揺さぶった。

「見なかったのか!今、救助艇は海から伸びた触手が、救助艇を真っ二つに割ったんだ、そしてその下には……」

 俺は、想像していた事が現実になったと感じた。もぐら人の洞窟でみた……

「幾重にも鋭い歯が生えた丸い口が待っていた。救助艇に乗っていた連中は全員……」

「……」

「小田さん。行こう。別の手を探そう」

「ああ」

「無駄だ。あんな生き物見た事がない。自衛隊でも呼ばなければ」

「呼んでください!そうですよ、無線機があるんでしょう?」

「自衛隊を呼びましょう。海上保安官庁でもいい」

「メーデーはさっきから出し続けているよ」

 操舵室の機械を指さした。

 船長は俺たちを見ていった。

「携帯電話を持っていれば見てみればいい」

 スマフォを取り出してみると、アンテナ表示に『圏外』と書かれていた。

「小田さんのは?」

 やはり圏外。

 船長は俺たちの顔をみてうなずいた。

「船底にいる想像を絶する生命体が、通信を邪魔しているとしか思えん」

「……」

 俺はブルっと震えた。

 恐怖のせいだったか、気温の低下とともに降り出した雪のせいかはわからない。

 だが、結果として震え、今の状況に恐怖を感じていた。

「この船底の怪物は船をどこに持っていこうと」

「……それは原発じゃないのか」

 小田が指さした『原子力発電所』はもう目と鼻の先にあった。

 あの岬…… 何かいる。

 毛が生えたように、岬の山の輪郭にそって影が見えた。

「何かいる」

 たぶん、もぐら人だ、と俺は思った。

 俺を殺すために、この生命体を操っているのかもしれない。

 小田が声を出して、俺の服を引っ張る。

「えっ……」

 船長が操舵室から出てきた。

「私は船底を確認してくる」

 船長は手に大きな箱抱えている。

「船長、それは」

「これか? 爆薬だよ。船底で爆破すれば、大きな生命体だってダメージを受けるだろう」

「ちょっと待って。誰が火をつけるんです?」

 船長はニヤリと笑った。

「聞くまでもないだろう」

「自爆するつもりですか?」

 船長は俺たちの視線をさけた。

「救助艇のおろし方を説明しておく。船底で爆破音がしたら、素早く艇を出して逃げるんだ。生命体も、どてっぱらで爆発したら、その時ぐらい救助艇を見逃してくれるだろう。来たまえ」

 俺たちは船長について行き、救助艇のおろし方を教わった。

 爆破音がするまではおろし始めないこと、爆破音がしたら全速力で乗り込んで逃げることを約束した。

「早くやれば艇を破壊される。遅ければ艇に気付いてひっくり返される」

「はい」

 俺と小田さんがうなずくと、船長もうなずいた。

 小田さんが言う。

「しかし、船長…… あなたは」

「船長というのは、船と運命をともにするものだ」

 船長と時計を合わせ、大まかに二分後から爆発させることを確認する。

 船長が階段を駆け下りていくのを見て、小田さんがそこで音を確認するため残り、俺が救助艇を下す装置へ向かった。

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