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もぐら人  作者: ゆずさくら
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 そう言って監視カメラの映像が映っている場所に近づいた。

 ホテルの従業員がさりげなくモニタの角度を変え、映像を俺から見られないようにした。

 俺はモニタではなく、監視カメラのメーカや、通信機器の類が見えないかフロント奥のラックや、天井近くの棚を必死に目をくばった。

「すごいですね」

「すごくないですよ。古い機器だからごっついだけで」

 俺はスマフォをチェックするフリをしてその機器の型番やらメーカー名を書き留めた。

「すごいですよ」

「そうなんですかね? 確かに当時としては最新を入れていましたから、見る人が見ればそうなのかもしれないですね」

「ありがとうございました」

 会釈をすると事務所を出た。

 俺はフロントに回って、置いてあるホテルの無料Wi-Fiの紙を一枚手に取ると、部屋の鍵を出してくれるように頼んだ。

 さっき見た機械を思い出していた。確か、あれは大手プロバイダの光終端装置。住所から考えればざっくりしたドメインは調べがつく。

 そこから、カメラの映像が見れないか調べてみればいい。案外インターネットからホテル内の監視カメラは丸見えかもしれない。

 部屋に戻り、さっそくパソコンの電源を入れネットで情報が転がっていないか探し始めた。

 何度か接続出来るか試してみるものの、似た地名の別のホテルであったりして今いるホテルの監視カメラシステムへの侵入が出来ない。

「腹が減った……」

 もうこんな時間だ。午前中から老人につれられて『もぐら人』の住む地下に下り、もぐら人を怒らせて逃げ帰ってきたのだ。

 監視カメラシステムに侵入を試みるのは一旦休みにし、俺は部屋を出てホテルのレストランに入った。

 食事をとっていると、ホテルの入口に小田がやってくるのが見えた。

 その大男の表情は何かいつもの冷静さを欠いているようだった。

 俺は食事中であったこともあり、小田に声をかけなかった。通り過ぎていく横顔は暗く、何か深刻な問題を抱えているようだった。

 何が普段と違うのだろう、と考えると、表情はもちろん変だったが、着ているモノが乱れていた。汚れていたのか、怪我をしたように擦り切れていたのか、とにかくそんな印象だった。

 俺は食事を終えると、半原発団体と顔を合わせないようにどこにもよらずに部屋に戻った。

 しばらくの間、ホテルの監視カメラへのアクセスを試みるが、やはりだめだった。

 メーカーの初期パスワードのままであれば、簡単にアクセス出来てしまう。さすがにそんな初歩的なミスはしないか、と諦め掛けた時、このホテルのHPのアドレスに対して監視カメラにアクセスするポート番号を指定して開くと、カメラのWebページが開いた。

「やった!」

 そのカメラが自分の思ったものと同じかどうか、時刻を入れてその時の動画を確かめた。

 確かにおとといのチェックイン時の映像は残っていなかったが、昨日の昼、反原発団体と喧嘩になりかけた時の映像が再生された。

「ビンゴ! このカメラだ」

 そしてスナックからここへ戻ってきた時の時間の再生を始める。

 映像には自分が映っていて、確かに背後に小さい影が映っている。

「小さいな……」

 この映像ではついてきたのが、すみれちゃんなのか、もぐら人なのかが分からない。

「別のカメラは……」

 元のリストから、別の番号のカメラを選びだす。

 映っていない。こっちは従業員用の出入り口、ピンぼけ映像……

 エレベータだ、これなら。

 フロアの番号だけが右へ左え、ついては消え、と移り変わる。

 やっと自分が乗ってくる映像になる。しかし、乗ってくる一瞬しかこっちを向いていない。

 何度もスローで再生するが、一瞬で背を向けてしまう為、すみれちゃんなのかもぐら人なのか判別つかない。

「どうして……」

 しかし、どっちだったにせよ昨日、ホテルの部屋に子供を連れ込んでしまったのは確かだ。

 それより問題なのは、あの老人が言っていたことだ。

 生涯独身だった老人がこの原発村で体を交わした女性はもぐら人だった、という話だ。

 もぐら人は全部女性、というか性がなく、生殖に人間の精子を利用する、老人の言葉をすべて信じれば、もぐら人を増やしてしまったのはあの老人ということになる。現実の女の人としているように思っていたものが、写真にとると相手はもぐら人。精子をもらってしまえばあとは用はない。自分たちが増えると、またほかのもぐら人がやってきて老人をさそう。

 性をもたないもぐら人にとって、自分たちを増やすために老人は必要な存在だったに違いない。

 昨日の夢は、もしかしてそれと同じことだったのではないか?

 原発近くのあの家に行ったとき、あの子は『お母さん』と呼ばれていた。まさか老人と同じように俺も利用されて……

「いや、人じゃないにせよ、哺乳類がそんな一日やそこらで子供が生まれるわけないだろう」

 仰向けになりながら、俺は天井に向かってそういった。

 しかし否定する根拠もなかった。

 生物の図鑑でも、学校の勉強でも、もぐら人などと言うものは存在しなかったからだ。今の時代、ネットならこんな情報ぐらいゴロゴロしているはず。

 俺はまたパソコンに向き合って、もぐら人について調べ始めた。

 確かにもぐら人などと言う存在があるなんて事は、見たことも聞いたこともない。もちろんネットでもだ。きっと地方限定だから、検索したりしたことがなかっただけだ、と思った。俺は地方のキーワードともぐら人で検索してみた。

 出てくるのは、普通のもぐらの情報と、もぐら、と言う名前の飲食店の評判。あの老人、林が言っていたもぐら人の特徴を含めても、ろくな情報に当たらなかった。

 検索サイトを、変えたりもしたが表示される内容が変わる事はなかった。俺は焦り、また、原発村に行ってみることにした。林老人の家に。

そこに何かあるに違いない。

 フロントでタクシーを呼んでもらった。

「原発村に詳しい人でお願いします」

 林と言うキーワードしかないが、小さな村だ、それだけでもなんとかなるかもしれない。俺はそう考えていた。

 タクシーに乗り、原発村へ行くように頼む。林と言う老人を知っているか訊ね、ドライバーが首をひねっていたが、車を出発させた。

 スナックの前を通り過ぎ、村のはずれ付近の古い家の前で減速する。

 あたりは暗くなっていて、運転手が窓を開けて、スマフォのライトを当てる。

「ああ、そうだ。ここだよ。思い出した林さんだろ。変な独り言言うおじいさんだ」

「そうですそんな感じの人ですよ」

「やっぱり?この家この家」

「そうですか。ありがとうございます。ちょっと行ってきますので、スナック『和子』のあたりで待っててくれませんか?」

 ドライバーはルームミラーごしにこちらをみて「ここで待ってなくて良いのかい?」と言ってくる。時間がかかるからと言うと「わかりました」と言ってドアを開けてくれた。

 タクシーが戻ったあと、私は表札を確認し、敷地に踏み込んだ。

 もしこれがあの老人の家なら、もぐら人に関する何か手がかりがあるかもしれない。

 原発に関してのもぐら人との取引や、生殖にかんすること。簡単なメモでも構わない。何か手がかりが欲しい。

 正面の扉は鍵が掛かっていた。

 俺は右回りに家を回ってみることにして、雨戸を動かそうとしてみたり、窓が開かないか試してみた。

 家を半分ほど回ったところで、二階に物干しようのベランダを見つけた。塀に登れば、手が届くような位置だ。

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