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もぐら人  作者: ゆずさくら
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 昨日会った、原発近くにいた老人に会いに行くことにした。

 この原発の経緯や話を聞いておこうという、もっともらしい理由があったが、裏の理由として原発付近に行けばすみれがどうなったかわかるのではないか、と思ったのだ。すみれが朝、俺の部屋から出てて行ったとして、小学校に戻ったのかとか、自分の家に戻ったとか、戻ってない、とかなんらかの確証が欲しかった。近くに行って様子を知りたかったのだ。

 ホテルを出ると、そのまま坂を下りて原発へ向かった。

 昨日はほぼ真北へ下りたが、今日は西側の原発方向へ下りていく。

 すれ違う人も、通る車もなかった。

 進んでいくとどんどん道が細くなってしまい、不安になってスマフォを開いた。

 どうやら、一つ曲がるところを間違えてしまったようだったが、これでもたどり着けないことはなかった。すれ違わないのはそういう理由があったようだった。

 坂を下りきると、小学校の裏手に出た。

 校庭には誰もいない。

 校舎から子供たちの声も聞こえてこない。

 なんだろう、休みでもないのに、と思いつつ、俺はその脇を通りすぎた。音が聞こえないのは、ここが雪国であり、冷暖房効果を高めるために、密閉性が高いせいかもしれない。俺は勝手に想像し、学校を見ながら歩いた。

 小学校を過ぎると、子供たちの言う『車の道』に出た。

 道の角から、待っていたかのように昨日の老人が現れた。

「行くかな?」

 カツン、と杖を道路についた。

 俺は老人の言う意味が分からず、答えずに待っていた。

「わしに会いにきたんじゃないのかね?」

「会いに来たんです。話を聞かせてもらおうと思って」

 皺に皺をよせて、奇怪な声を出し始めた。

 口から唾液が飛び散るのがはっきりと見えた。

「なんですか、なんで笑うんですか」

「いや、いや。すまん。もっと回りくどい言い訳をするかと思っていたのでな」

 老人は原発の方に向き直り、

「歩きながら話そう。そして、面白いものを見せてやろう」

 俺は老人の後ろをゆっくり歩いて行った。カメラを取り出し、ブログに使える風景はないか、探すことにした。

「写真とるのはまだ待った方がいい」

「?」

「面白いものをみせてやると言ったろう。その時に撮れなくなるぞ」

 一定間隔で杖をつく音が響く。

「あんた、昨日はあれからもずっともぐら人といたのかね?」

「もぐら人って?」

「黒い子がいたろう。あれがもぐら。もう一人はあいじんの子じゃ」

「あいじん、って」

 酷い言い方をする。あんなに可愛いのに。

「あいじんの子で父親が誰かわからんからな。まったくここは狂った村だよ」

「そういうのを聞きたいんじゃない」

 俺は立ち止まった。

 老人も気づいたようで、こちらを振り向いた。

「じゃあ、黒い子の方の話をしよう。そっちは原発とかかわるしな」

 老人はまた道を歩き始めた。

「もぐらの子はな、ありゃ人間じゃないんじゃ」

「は?」

 またそういう外見や家庭の事情で差別するのか、と思って俺は声が大きくなった。

「だから、そういう話はいらない」

「まあ、きけ。こっちは本当のことじゃ」

 俺が黙っていると、老人は耐えかねて別のことを言い出した。

「じゃあ、面白いものを見るのを先にしてやろう。こっちの話は、スナックの子供の話とは違うことが分かる」

 原子力発電所の前を通り過ぎ、その壁沿いにずっと歩いた。

「こっちの角の先から、岬側へ進める道がある」

 老人が言うまま、俺は後をついて行く。

 原発の壁が終わると、軽い上りになっていた。岬は小山のようになっていて、そこに小さな鳥居が見える。

 道沿いに上がっていくと、その鳥居のところについた。

 鳥居をくぐった先に、すのこのような板を組んだものが立てかけられていた。横穴が開いているのをふさいでいるのだろうか。穴は一メートル以上はあるが、立ったまま入れるほどは大きくはなかった。

 老人は、その板を杖で、ガン、とつついた。

「ここから入るが、ついてくるかの?」

 皺のすきまから見える、鋭い眼光に俺は少しビビった。

「何かいるのか?」

「自分の目で確かめることじゃ」

 俺はうなずいた。

 この高さだと手をつかないと進めないだろう。俺はカメラをバッグにしまった。

 横穴を塞いでいる板をはずし、横に立てかけた。

 老人は腰に懐中電灯をつけて中に入っていく。

「少し進んだら縦穴になっとる。縄梯子をずっとおりることになるぞ」

 老人は後ろ向きになったかと思うと、その縄梯子を降りていく。

 穴の中の岩は黒くて表面が荒かった。縄梯子で降りる穴もところどころ狭くなっていた。

 海が近いせいなのか、岩の性質なのか、穴の中は湿気でじめじめしていた。

 縦穴を下りきると、暗くて良くはわからなかったが、立っていられるだけの空間があった。

 老人が壁を照らした。

「!」

 さっきまでの黒いごつごつした岩ではなく、質の違う白っぽい石だった。そこに浮き彫りで絵がかかれている。

「なんですか、これ…… おじいさんが作った、とか?」

 老人はゆっくりとその壁に光を当てていく。

 絵巻のように人々の様子や、建物や、信じる神などが描かれている。

 古代遺跡とかであれば、これを発表して…… 俺はカメラを取り出した。

「勘違いしていると思うが、これは、人間の遺跡ではないぞ」

 何を言っているんだ?それなら、なおさら価値がある。

「これを発表したところで、誰にも認められないし、なんの価値も無いぞ、作られた年代もわからんしな」

「えっ……」

 こんな細工が出来る異星人の遺跡。年代が今だとしても、こんな場所にこんなものを作った、と言うだけでも価値があるように思う。

 俺はスマフォの光を当てながら、浮彫されている岩を見ていく。

 頭にタコかイカのような触手をつけ、蝙蝠のような脆弱な翼をもち、腕と足にはとがった爪がついている。その異形の生物の周りに頭を下げた人間がたくさんいる。この不気味な触手生物が、神か何かだとでも言うのだろうか。想像上の生き物なのだろう、と思いながらも、その浮彫が単なるコラージュにみえなかった。腕からつめ、首から触手、そういうまるでべつの生き物をくっ付けたようなのに、そのパーツのつながりが、やけに自然で、リアルだった。

「写実的だ……」

 その石板レリーフを横にみていくと、人物の肖像のようなものも彫られている。やはりそれもリアルだった。

 肖像は細かい毛が生えているようで、目は細く、鼻と口が突き出ている。

「ほら、こっちを見てみろ、これは人じゃ無い」

 老人がある一点を照らす。

 そこにも同じような顔の肖像があった。短い髪、腫れぼったい目は開いているのかわからないほど細く、鼻と口で……

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