第8節:ナイアたんはエロ可愛いんです。
「コープ。何をそんなに悩んでんだか知らないが」
ゴストンはナイアの座っていた場所に腰を下ろすと、こっちを真剣な目で見て言った。
「お前の頭じゃ悩むだけ無駄だから、やめておけ。そもそも誰もお前に賢い采配なんか期待していないしな」
「いきなり身も蓋もない発言キターーーーッ!」
ゴストンは、いきなり俺に辛辣極まる言葉を浴びせてきたが、こいつはそもそも、こーゆー奴だ。
逆立った短髪をしていて、右のこめかみから頬に凄みを感じさせる一筋の傷があり、精悍で落ち着いた顔立ちに引き締まった体を持つ男。
と言えば百戦錬磨っぽくて聞こえはいいが、頬の傷は小さい時に俺とアブない遊びをしていて崖を滑って枝で引っ掻いた傷だ。
いつも適当に飛び回る俺の横で、落ち着いた顔をしながらチャチャを入れてくるのがコイツだった。
チョケる時も普段とまるで表情が変わらないので気付かれにくいが、コイツは決して落ち着いた男ではない。
むしろ面白いと思えば容赦なく状況をかき回しに来る、むっつり系ブッコミ野郎だ。
「分かってんなら悩ますんじゃねーよ!」
「誰が悩めと言った?」
「忘れたと思ってんのか!? どんだけ人の頭が残念だと思ってやがる! 『お前がアタマだろ。お前に任せるよ』とか言ったよな!?」
ちなみにリブを殺した時の話だ。
「ほう、覚えていたか。『三歩歩けば恩も恨みも忘れるコープ』と言われたお前が成長したもんだ」
「やっぱりか!」
ニヒル気取ってニヤリと笑うゴストンだが、そんな顔で騙されねーからな!
薄々気付いていたが、コイツやっぱり、俺が困る事を知ってわざと言いやがったんだ!
「当たり前だろう。そもそもだ、お前と同じで死んだくらいで俺や仲間の性格は変わらない」
「おう。それで?」
「で、お前が頭領になったからって無条件で忠誠を捧げるほど、俺たちはお前を尊敬してもいない」
「地味に傷つくがまぁいい。それで?」
「そんな俺たちがお前についていく理由は、ただ一つ……」
カッ、と目を見開き、ゴストンは気迫に満ちた言葉を発した。
「あのエロ可愛いナイア様を間近で鑑賞する為に、お前に従うフリをした方が都合が良かったからだ!!」
「それなら最初からそう言えやあああああああ!!!」
「ついでにお前をからかえるし、一石二鳥だった」
「死ね!」
「もう死んだ。お前が死ね」
「俺も死んどるわ!」
しかもさり気にナイア様とか言って、ルラトの攻撃を回避してやがる。
そんな俺らを見て、ルラトが溜息を吐いた。
「やはり小僧の部下じゃの。頭の中が残念極まりないわい」
「気付いてたんなら何で先代のところに行くって言ったらついて来たんだよ!?」
「暇じゃしの」
「暇なのかよ魔王軍!」
「分かっとらんの、小僧。戻ったら次の命令があるじゃろ。面倒ごとは先延ばしにするに限る」
「この骨野郎、お前も忠誠心のカケラもねーな!」
「口の利き方に気ぃ付けいと言っておるじゃろが」
「ごぼはぁぁあああ!!」
この骨野郎、人中は痛みの急所だぞ!
眉間より数段痛ぇ!!
「やはりそうですか、ルラト様。貴方からは俺と同じ香りがすると思っておりました」
転げ回る俺をさり気に足で蹴り飛ばしやがったゴストンを見ると、奴は共感の眼差しで骨野郎を見ていた。
こいつら、人で遊びやがって……!!
「つか骨野郎、てめぇ何でゴストンにはやらねぇんだよ! 言ってる事ほとんど一緒だろうが!」
「礼儀を弁えておるからの。どこぞの頭の軽い小僧と違っての」
「そうですか? まぁ、頭を振ったらカラカラと音を立てそうな馬鹿よりは賢い自覚がありますが……」
ゴストン、それは俺の事か!?
あまりの怒りに声もない俺を前に二人は頷き合い、ゴストンがこっちに目を向けた。
「という訳でだ。先代に迷惑をかける訳にもいかないし、明日出発すると伝えろ。それで終わりだ。ファザコン野郎よ」
「誰がファザコンだこの野郎! てめぇ覚えとけよ!」
「お前よりは長く覚えているから安心しろ」
ぐぉお! コイツに口では勝てねぇ!! ムカつく!!
「もういいわ! 悩んで損したわ!」
肩を怒らせてその場を離れる俺の背後で。
「……本心かの? ゴストン」
「……半分くらいは。ああ見えて、あいつは人を責めないですからね。アタマと認めてはいますよ」
「……なるほどの」
二人がボソボソと何かを言い合うのは分かったが、内容は聞き取れなかった。
どーせ俺を馬鹿にしてるに決まってるから、聞きたくもねーけどな!