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第7節:ナイアたんは心配します。


「コープ様」

「どうした?」


 不意に後ろから呼びかけられて答えるが、俺はそっちに視線を向けなかった。


 みんな寝静まった時刻であり、山の夜風は肌寒い。

 俺はマントを羽織り、掘っ建て小屋の裏手にある張り出しから黒くわだかまる山肌の森を眺めていた。


 昼に見れば、さぞ壮観な景色だろう。

 だが、考え事をする今は別に景色を楽しんでいる訳じゃなかったし、どうでも良いことだった。


「コープ様は、何を悩んでおられますの?」

「何だ、心配してくれんの?」


 断りもなく横に座ったナイアは相変わらずの薄着だが、彼女は寒がる様子もない。

 よく見ると、ほんのりと青い燐光を全身に纏っている。魔術で暖でも取っているのかも知れない。


 知らない奴が見たら、超美人の幽霊がいると思うに違いない。

 ルラトもいない事だし、と俺はその布で覆われていないくびれた腰と形の良いヘソを、存分に目で楽しんでいた。


「それはもう」


 俺の視線の意味に気付かない鈍感なナイアが、俺の問いかけに答えて、ぐ、と拳を握った。


「だってコープ様は、わたくしの初めて作れたゾンビですから!」

「フレッシュゴーレムだろ?」


 反射的にツッコんだが、実際ナイアが日頃ルラトに言っている通り、どっちでもあまり変わらない気はする。

 ってかよく考えたら俺が今悩んでるのって、コイツが最初にゾンビにする為に見捨てたからじゃねーのか?


「もう、コープ様までそんな風におっしゃりますの?」

「素材にする為に見捨てられたしなー」


 唇を尖らすナイアに、俺は肩を竦めた。

 別に本気で彼女のせいだと思っている訳じゃない。そもそも俺が軽率だったのが原因だしな。


 だがナイアは、俺に対してどこか不安そうな表情でつぶやいた。


「……ゾンビになりたくありませんでした?」

「普通、ゾンビになりたい奴はいねーよ! その問いかけはおかしいだろ!」


 一体、何を心配してんだよ! 俺の心持ちを心配しろよ!

 相変わらずズレまくりのナイアに、俺はなんだか笑けて来た。


「あの、コープ様?」


 突然笑い出した俺に、ナイアはさらに心配そうな目を向けてくる。


「いや、別に俺の事はどうでもいーんだよ」


 実際、変わった事と言えば美人で眼福なナイアの命令に逆らえない事と胸の妙な文字くらいのもんで、寝なくていい飯もいらん体とくりゃ、逆に得したくらいのもんだ。


「実際、先代に頭領やれって言われたから後を継いだけどさ、正直器じゃねーんだよな」


 俺の才能は、斥候(シーフ)に特化している。ランクはD級だ。

 身軽さ、手先の器用さ、視野の広さ、カンの良さ……そんな感じの能力が高いのは、才能のお陰だ。


 だが、そんな才能を扱う俺自身はと言えば、軽率で、考えなしで、楽天的、とどうにも人を率いるのに向いているとは思えない。


「だからさ、あいつらにどう伝えてやったら良いか分かんねーんだよ。別に俺に従わなくても良いんだって、どう言ったら分かって貰えんのか」


 最初に好きにしろと伝えたら付いてくると言われ、どうしたら良いか分からなくなって先代を訪ねる事にしたんだ。


「でも、コープ様は盗賊団の方々に慕われているようですわ。皆様楽しそうですし、イヤイヤ従っているようには見えませんけれど……」

「責任持てねーじゃんか。俺は死なない。しかも五体満足だ。でもあいつらは腕がなかったり、フツーに死んだりするんだぜ?」


 俺はナイアに目を向けた。


「お前らについて行ったら、厄介な事が待ってる予感がひしひしする。あいつらをそんな所に連れて行きたくねーんだよ」

「なるほど……」


 ナイアが、空を見上げた。

 一緒に見上げると眼下の深い闇と違い、夜の空は溢れんばかりに満天の星が輝いている。


 ナイアは、顎の先に指を当てて、んー、と考えると、名案を思いついたと言わんばかりに手を打った。


「そうですわ!」

「なんか思いついたか?」

「ええ!」


 ナイアが、ニコニコと提案する。


「全員、ゾンビになってしまえば、少なくとも生身の人が死ぬ心配はなくなりますわ!」

「死なさない為に一回殺すって結論がおかしいだろうがああああああ!!!」


 俺の全力のツッコミにナイアは、身を竦ませてからしょんぼりした。


「良い案だと思ったのですけれど……」

「却下だ却下!」


 そんな俺たちに、腕が片方欠けたフレッシュゴーレムと、骨野郎のルラトが近づいて来た。


「あー、ナイア嬢。少し席を外して貰っても良いかの? というか、そろそろ寝なければ、我らと違って生身のおぬしは明日がキツイじゃろ」

「そうですわね……あの、力になれなくて申し訳ありません、コープ様」


 俺はナイアにヒラヒラと手を振り、彼女の形の良い尻を見送ってから、ルラトに向き直った。


「それで、どうしたんだ骨野郎」

「おぬしに用があるのは我ではない。こっちの男じゃ」


 言われて、目を向けた相手は、俺が一番良く知る男。

 

 フレッシュゴーレムになった、ゴストンだった。

 



 

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