第6節:ナイアたんはうっとりします。
「そんで、おめーはどうしてぇんだ?」
巨大な湯呑みで茶を啜りながら言う先代頭領に、俺は首を傾げた。
「どうって?」
「わざわざ相談にこんでも、おめーが頭領なんだからおめーが決めたら良いだろうが」
「んな事言われても、俺死んでるし」
そう言う俺に対して、先代頭領は、ズドン、と俺の背中をはたいた。
「ぐっはぁああああ!!」
吹っ飛ばされた俺は直後にくるりと宙で回転し、足から着地する。
「何しやがるこの筋肉ダルマァ!」
「はん。相変わらず頭ん中と一緒で体も軽ぃな、コー坊」
「何じゃ、小僧の頭の中身が軽いのを知っとって盗賊団を渡したのか、おぬし」
「アタマ張るのは周りをぶん回すくれぇの奴のが丁度いいかと思ってよ」
「面と向かって堂々とバカにするんじゃねぇよ人外どもめ!」
「おぬしも今は人外じゃろ」
そうだった!
ガックリと崩れ落ちる俺を無視して、先代頭領とルラトは会話を続ける。
「どうも、小僧にとってはもう死んだ自分が決める事ではない、と思っておるようでの」
「話せるんだからそれで良いじゃねぇか。メンドクセーから俺っちに任そうとしてるだけじゃぁねぇのか?」
ギクッ! と内心で思った俺だったが、顔に出さないよう努める。
「どうやら図星じゃの」
「分かりやしぃ奴だな、おめーは」
何故だ。隠した筈なのにバレている。
先代頭領は呆れたように鼻を鳴らして、フレッシュゴーレムの一人に問いかけた。
「ゴストン。おめーはどう思うよ?」
「コープが決めたなら従うだけっすよ。好きにしろっつーからついていくだけっす」
ゴストンは、死を望まなかったフレッシュゴーレム連中に、なぁ? と問いかけた。
一様に元盗賊団のフレッシュゴーレム達がうなずく。
「生きてるおめーさんらはどうなんだぁ?」
「元々どっか行くアテもねーっすし」
「コープが先代頭領を恋しがるから来ただけで」
「特になんも言われてねーっすから」
生きてる連中もそう言う。
「って、ちょっと待てコラ! 誰が筋肉ダルマを恋しがってんだよ!」
「お前だよ」
「大体さー、死んだからってそれがどーなんだよ」
「そうそう。別に死体になって転がってる訳でもねーんだから好きにしたら良くね?」
「親離れしろよー」
……コイツらブッコロ!!
好き勝手な事をほざきやがる盗賊団に制裁を加えようと殴りかかって乱闘し始める俺を眺めて、ナイアがはふぅ、とうっとりした息を吐く。
「ああ……ゾンビ共食いする光景って良いですわねぇ……」
「襲いかかった割に弱いの」
『リンチされるのは筋肉が足らんのである』
「だからおめーは軽率だってーんだよ」
死なないのを良いことに集団で短剣をズブズブ突き刺される俺から舞う血飛沫を見て、そんな風にほざきやがったナイアに続き、口々に言うルラト、ホテプ、先代頭領。
てか痛ぇ! 超痛ぇ!!
「のんびり見てないで助けやがれって痛ぇ!!」
「「自分から襲いかかったんだろうが」」
それはそれ、これはこれだっつーの!
数分後、直視に耐えかねる状態になった俺をナイアが蘇生し、満足そうに頬を上気させながら蕩けるような口調で言った。
「わたくしを楽しませる余興をしてくれるなんて、コープ様はとても良いゾンビですわ!」
「フレッシュゴーレムじゃ」
「もう、ルラト。些細な事に拘る男は嫌われますわよ?」
「生きとる間に人生満喫したしのう。余生も好きに過ごすのに不都合はないじゃろ」
『コープは、朕と共に御仁と同じ肉体を得られるように鍛えてやるのである』
なんか最後に不吉な事を言われたが無視する事にして。
「余興じゃねーよ!」
「違いますの?」
きょとんとするナイアに見つめられて、俺は深く溜息を吐いた。
「しかし本当に死なんのだな」
「信じてなかったのかよ! 死ぬと思ってたんなら止めろよ!」
感心したように言う先代頭領に、俺は即座にツッコんだ。
何でこいつらはこんなにあっさり人を見捨てやがるんだ!?
「まぁ、コー坊は殺しても死なんような気がしてな」
ぐははと笑った後、先代頭領が懐をゴソゴソと探り、ぽーん、と何かを俺に放り投げた。
「って、何これ?」
「連続炸裂術式とかいうのを込めた魔法玉らしい。バク・ダンマとか言うのと仲良くなって貰ったんだが、威力がデカすぎて今の俺っちには使い道がないからな。おめーにやる」
何でも山の一角を吹き飛ばす程の威力があるらしいが、そんな物騒なモン放り投げるんじゃねーよ!
「俺にだって使い道ねーじゃねーか! 死ぬだろ! 投げたらすぐそばにいる俺も死ぬよな!?」
「今死ななかっただろーが。切羽詰まったら敵もろとも吹っ飛べよ」
「ふざけんな!」
「ほほ、小僧、良いモン貰ったの。有効に使わせていただくよ、ゴルバチョフ殿」
「ゾンビアタックですの!? ロマンですわ! ありがとうございます!」
「良いって事よ」
「勝手に話進めてんじゃねーよ! 鬼かてめーら!」
「蘇りじゃ」
「死霊術士ですわ」
「人間だ」
……嘘つきばっかりか!!
うがー、と頭を掻き毟る俺に、先代頭領が軽く笑みを浮かべて、話を戻した。
「とりあえず、今夜は泊まっていけよ。んで、一晩考えろ。やっぱり盗賊団の今の頭領はおめーだよ」
そんな先代頭領の言葉に、俺はふてくされながら、とりあえず頷いた。