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第5節:ナイアたんは感心します。


 険しい山道を辿り、途中で脇道に逸れた俺たちは、山頂にある小さな平地に立つ掘っ建て小屋を訪れていた。


「先代ー!」


 掘っ建て小屋の前で呼び掛けるが、返事はない。


「出掛けてんのかな?」

「まぁ昼日中じゃしの」


 ルラトは周囲を見回した。

 ワンサイート山は、そこそこの魔物が出没する場所だ。


 だが、思った以上に早く来れた理由は、魔物に全く会わなかったからだ。

 時間潰しがてら疑問を口にしてみると、ナイアとホテプが全く同じ姿勢で胸を張って答えた。


 ちなみにナイアの乳は控えめという程ではないが、平均的なサイズだ。


「それはもう、わたくしの放つ禍々しい死霊術士の気配に恐れをなしたからですわ!」

『朕の筋肉美を直視しては目が潰れてしまうと思ったのかも知れぬのである。あるいは、草場の陰で卒倒しておったのかも知れぬのである!』

「と、バカが二人、意味わからん事を言ってるが」

「ナイア嬢とホテプがいるだけで聖水を撒いたのと同じ位の聖気が辺りに満ちるからの。並みの魔物は近づきもせんじゃろ」

「だよな」


 そんなこったろーと思った。

 どう見ても聖なる二人に見えない事だけが問題だが。


 そうこうする内に、ズシン、と重い音を立てて何かがこちらに向かってくる音が響いた。


「お、頭領だ」

「……おぬしらの頭領は、巨人か何かか?」

「な訳ねーだろ」


 音が近づくたびに足元が振動を始め、山の下から姿を見せる段になると軽く地震のようなものへと変わっている。


「あ……あれは何ですの?」

『ぬぅぅ! 凄まじく美しい肉体を持つ御仁なのである!!』


 唖然とするナイアに、興奮し始めるホテプ。

 地響きで揺れるナイアの胸に目を向けながら、俺は平均的なサイズでもそれなりに揺れるもんだなぁ、と感心していたのだが。


「小僧」

「ぎゃぐわぁああああ!! 目がぁああああああ!!!」


 この骨野郎! ついに指を二本立てて両目を突きやがったああああ!!


 ゴロゴロと転げ回る俺は、鉄の棒のような硬いものに当たって止まった。


「コー坊。おめー何ぁにを遊んでやがるんだ?」


 涙の滲む目をこすると、貫かれた瞳が修復されると共にこっちを覗き込む顔と目があった。


「頭領!」

「今の頭領はおめーだろうが」


 そこに立っていたのは、服が弾けんばかりの筋肉を持つ偉丈夫だった。

 この辺りでは珍しい、金の髪に青い目、蓄えた口髭はダンディに揃えられている。


 先代頭領は、両肩の上に樹齢優に百年はあろうかという巨木を10本近く背負っているのに、汗ひとつ掻いていなかった。


「頭領、という事は、この方がゴルバチョフ様……?」

「おう、別嬪さん。何ぁんで俺っちの名前を知ってんだぁ?」


 首を傾げながら、よっこいせ、と先代頭領が巨木を投げると、一際大きな振動により軽く俺たちの体が浮いた。


「つい先日別れたばっかだと思ったんだけどよ。何の用だぁ?」


 先代頭領は、ひょい、と猫の子でも摘むように俺の襟首を掴み、自分の顔の前に持ち上げた。

 片目と片眉をしかめた不審そうな顔をして、もう片方の手でへの字に曲げた口の下にあるヒゲをザリザリと撫でる。


 相変わらずの迫力だが、このおっさんは実は全然怒らない。

 俺は軽く手を挙げてにこやかに言った。


「いや、実はさ……」


 俺の説明を聞いた先代頭領は、ふむ、と一つ頷いて俺をぽいっと放り投げた。


「うぉわ! もうちょっと優しく降ろせよ!」

「甘えんなよコー坊。そこの別嬪さんをベッドインさせる為なら幾らでも優しくなろうがよぉ、残念ながらおめーは野郎だろ? それとも女だったかぁ?」

「幸運な事にきっちり付いとるわ!」


 俺が女だったところで、この筋肉ダルマとベッドインなんざ冗談じゃねぇ。

 

「別嬪だなんてそんな……」


 両頬に手を当ててくねくねと恥じらう様子を見せるナイア。


 反応すんのはそこかよ。言われ慣れてんだろそのくらい!


「まぁええわい。とりあえず茶ぁすんぞ。薪の材料も取ってきて疲れたしなぁ」

「嘘つけ」


 ワンサイート山最強の魔獣、エンペラーコング相手でも片手で遊ぶ化け物が、たかが木を運んだくらいで疲れてたまるか。

 そんな俺たちのやり取りを見ていたナイア一行は。


「並外れた実力者だの。生前の我でも勝てるか分からぬ程じゃ」

「あら、そんなにですの? でもあの膂力は素晴らしいですわね。バンパイア化して配下に加わっていただけないかしら?」

「やめておくが良い。どうせ『神話級英雄(エインヘリヤル)』化するのがオチじゃ」

「人を不死者化する死霊魔術の上位版ですわね!」

聖女(メイデン)の上位職、光の乙女(ゴッデス)の最上位神術じゃ」

「ルラト。わたくしは聖女ではないと言っているでしょう。れっきとした死霊魔術士ですわ!」

『生前、であるか。ぬふぅ、朕に生前の肉体があれば、あの美しい筋肉と友情を育み、ポージングを競い合う事も出来たであろうに……!』


 ブレねぇな、こいつら。

 相変わらずの一行に感心しながら、俺は盗賊団の連中に茶の準備を始めるように指示した。


 先代頭領は、大雑把なクセに物事が自分の思い通りに行かないと拗ねるのだ。

 拗ねると、色々面倒臭いしな。


 それが分かっている盗賊団の連中は、そそくさと動き始めた。

 

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