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最終節:ナイアたんは、幸せです。


 死んだ……と思ったら意識が回復した。


「あれ?」


 ガバッと起き上がろうとした俺に。


「コープ様ああああああああああ!!」

「どぐぁ!」


 いきなりナイアが抱きついてきて、俺が上げた後頭部を再度地面に打ち付ける。


「痛ぇ! 何だよいきなり! ってか、何で俺生きてんの?」


 せっかくの美人が鼻水と涙で凄まじい事になっているナイアは、ぐずぐず言うだけで答えない。

 てか鼻水、服にこすりつけんな! いくら美人のもんでもそれはノーセンキュー!


 ナイアを剥がして体を起こすと、全員が俺の周りに集まっていた。

 どうやらまだ草原にいるみたいだが、敵の姿はない……ドラコンは滅んだみたいだな。


「ふむ。成功したようじゃの」

「悪運だけは強いな。流石はコープ。生き汚い」

「生き汚いって何だよ」

 

 特に何とも思っていなさそうなルラトに、何故か残念そうなゴストン。

 何で残念な顔してるんだ。


 なんか俺が生きてちゃダメみたいじゃねーか。


「いや……お前が死んだらナイア様の心の隙間でも狙おうかと思っていたんでな」


 残念そうな表情を消していつものようにむっつりと言うゴストンに、セクメト、ジャンヌに加えて何故かケルドゥまでが、目を細めてゴストンを見ている。

 ……ゴストンお前、もしかしてもうケルドゥまで口説いたのか?


 そういえば、この草原の来る時にケルドゥと同じ邪龍に乗っていたみたいだが。

 ケルドゥの外見や他二人の存在も合わせて、お前が凄まじく邪悪に見える。


「心の隙間って何だよ?」

「こここここコープざまぁ!!」

「ごふぁ!!」


 何故か再びナイアに押し倒されて頭を打つ。

 いや痛ってーんだけど!! 


「何だよナイア!!」


 最早よく状況が分からん!!


「小僧。おぬしの身に起こった事が知りたいかの?」

「そりゃまぁ」


 一応死ぬ覚悟で殺した訳だし、何で生きてるのか分からん。


「ふむ。事の起こりはの、小僧。我がおぬしの肉を借り受けた事があったじゃろ?」

「ああ」


 骨野郎に骨にされたのは、流石に俺でも覚えている。


「うむ。その時にナイア嬢が行使した自己犠牲の術式により、どうやらおぬしの魂は英傑化していたようでの」

「何で?」

「まぁ、己の身を利己でなく犠牲にする行為は神に認められる行為じゃ。戦乙女が側におったでの、英雄を好む神の目に止まったのかも知れん」

「はぁ……」


 あの時の状況を見て俺を英雄だと判断したなら、非常に残念な神だと思うが……まぁ、ジャンヌは残念な女だからな。

 そういう神が後ろに居てもおかしくない。


「なぁ、何か不埒な事を考えていないか?」

「気のせいじゃね?」


 女の勘は怖い。


「ま、魂の状態が言わば我と同じ状態になったという事じゃ。即ち、ナイア嬢との繋がりはあってもフレッシュゴーレムの肉体や印に縛られた存在ではなくなっていた、という事じゃの」

「あ、そうなの?」


 つまりナイアに命令されても縛られなくなったって事か。

 それは良い情報だ。


「さらにおぬしは、ドラコンに絆を奪われた影響で、おそらくヴァンパイア化しておった」

「おそらくって何だよ。てゆーかヴァンパイアって……」


 自覚がないまま、俺の体で色んな事が起こってんな。


「まぁ、常時おぬしの魂を確認しておった訳ではないでの。しかしそうでなければ説明が付かん事があるのじゃ」


 ルラトの言う所によると、魂はヴァンパイアであるものの、肉体は聖気によって作られたフレッシュゴーレム、という歪な状態だったっつー話らしい。


「そこに、ドラコンの死を間近に受けたおぬしにはある影響があった。……即ち、聖邪反転じゃ」

「ゲルミルが死んだ時にあったやつだよな?」

「そう。邪悪なる者は聖なる者に。普通なら、邪神レベルで絆を植え付けられた者は影響に耐えきれずに魂が崩壊して滅ぶがの。一度英傑化した魂は、おぬしを認めた神によって強固な加護を受けておる」


 故に再び聖なる守りを得たおぬしの魂は残った……と、ルラトは言った。


「えーと、つまり?」


 全然魔術とか魂とか詳しくないから、さっぱり何が言いたいか分からん。


「英傑の魂はの、己が望まぬ限り輪廻の輪に落ちる事はないのじゃ。おぬしは、死の瞬間に何を考えた?」

「あー……」


 俺は目を泳がせた。

 恥ずかしいから言いたくない。


「……お前らの事を考えてたよ」

「じゃろうの。それによって、おぬしは、おぬしの事を考えていたナイア嬢の魂と、再び繋がりを得た」

「そんな……確かにコープ様の事を考えていましたけれど、あの、そういう意味では」


 どこか不愉快そうだが、何でだ、骨野郎。

 そして何故か、ナイアが恥ずかしそうに身悶えしている。


 腹の上でぐりぐり動くな。

 お前尻が薄いから、骨が当たってそれも痛い。わざとか。


 そういう意味ってどういう意味だ。


「魂の繋がりを持つ存在として、ナイア嬢はおぬしに術式を行使した。英傑召喚の術式じゃ。それによって、フレッシュゴーレムとして聖気を纏って保存されていたおぬしの肉体に、再び魂が宿った、というのが、この度の顛末じゃな」


 えー、つまり。


「俺、生き返ったって事?」

「そういう事じゃな。つまり、本物の蘇り(ゾンビ)という訳じゃ」

「コープ様が、真なるゾンビに……!! 流石は、わたくしのコープ様ですわ!!」

「感極まっているところ悪いが、もうお前のもんじゃねーんじゃね?」

「あら、何でですの?」


 何でって。


「だって俺、お前の命令に縛られなくなったんだろ?」

「そうですわね。ですけれど、魂の繋がりは生きていますから、コープ様は生体に戻りましたけれど不死身のままですわ」


 ……なんかスゲー強そうだな。


「ただ、死ぬたびにわたくしが術式を行使しなければなりませんので、コープ様は死にたくなければわたくしのそばを離れられません」

「何ィ!?」


 バカな、不死身の肉体を得て危なそうなこいつらの下からも逃げれると期待したのに!!


 愕然とする俺に、ゴストンが言う。


「別に不死身でなくて良いなら、また地元に戻っても良いとは思うが」

「馬鹿野郎! 寿命以外で死ななくなったのに、盗賊稼業に戻って稼げなくて死んだり、兵士に追っかけられたらどうする!!」

「……魔王軍は良いのか」

「少なくとも強い奴が側にいれば影に隠れていりゃ死なない!」


 俺の発言に、何故かナイア以外の全員が残念なものを見るような目で見てくる。

 何だよ、間違ってねーだろが!


「残念なのがコープとは言え……」

「もう少しオブラートに包む方が良いと思うけどな」

「俺たちの出来ない事をやるのがコープだぜうぇーい!」


 ポンコツ死霊団ども。さっき体を張った俺に対してなんて言い草だ。

 明らかにバカにしてんだろ。


「さっきはカッコいいかと思ったのにねぇ」

「所詮コープはコープだ」

「ようこんなのを助けたの。儂なら見捨てる」


 黙れハーレム要員ども。

 拾った命は大事にしなきゃ勿体無ぇだろ!!


「俺はあの男に殺されたくて済んダがな」

「先代は、そういう点は執念深いからな」


 ビビリコングの発言に、むっつり野郎が頷く。

 お前らも黙れ。自己中な事ばっか考えてないで、もうちょっと助かった俺の為に喜べ。


『蘇ったという事は、今後筋肉を鍛え放題であるな! 朕が鍛え直してやるのである!』

「ま、逃げる気があった所で、ナイア嬢が望む限り、意に添わぬ事をすれば、我が永劫の苦しみに呑むがの」


 ふざけんな脳筋スペクター。

 そんでさりげに脅してくんじゃねーよこの骨野郎!!


「コープ様」

「何だよ」


 どーせお前もまた変な事言うんだろ、と思って顔を見ると。

 ナイアは、喜びを満面に表現した笑みを浮かべていて、また目が潤んでいた。


 どうした? なんかいつもと違うぞ!?


 そんな風に俺が内心慌てていると、ナイアは、小さな声で呟いた。




「ご無事で、何よりでしたわ」




END.

本編はこれで終わりです。


次の更新から、三人称の番外編を始めます。


その後、トゥルーエンドになりますが、ノリがだいぶ違うので、本編のノリが好きだった方はここまでです。


ご愛読、ありがとうございました。


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