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第36節:ナイアたんは絶叫します。


「ごほっ……」


 腹を貫かれたせいで息が詰まって、思わずむせた。

 死ぬ感覚にも、割と慣れたと思っていたけど、流石に一瞬じゃないこの感触はジャンヌの時くらいだしな。


 あの時も、腹に剣だった。

 そろそろあだ名がドーナツとかになりそうだな。


「……どういうつもり?」


 ちょっとだけ不思議そうな問いかけに、咳と痛みをを我慢しながら、あえてヘラッと笑う。


「いやぁ、なんつーかさ」


 正直、マジで死ぬのは勘弁願いたかった。


 俺はおもしろおかしく生きていたいし、まぁなんだかんだ文句垂れてたけどナイア達との旅はそこそこ面白かった。

 まぁ普通じゃ絶対に体験できない事でもあったしな。


 危ない事は嫌いだし、痛いのも嫌だ。

 平和に、平穏に。


 誰だってそう思うだろ?

 だってさ。




 ……死んじまったら、全部終わりだと思うんだよ。




 親もいなくて、飢えてガリガリに痩せて、食いもん盗んではゴミクズみたいに扱われてたようなガキの頃でも。

 俺は死にたいなんて、いっこも思わなかったよ。


 生きてやる、生きて笑って、楽しく過ごしてやる、っていつも思ってた。

 生きてたおかげで、先代とも会った。


 ゴストンとも、向こうがどう思ってるか知らないが親友だと思ってるし。

 人相や体が元よりも残念になっちまった盗賊団の奴等だって、まともな奴等にとっちゃクズかも知れないが、俺の大事な仲間だ。


 ナイアだって。

 口では物騒だったりおかしな言動をしていても。


 あいつは結局、ただの一回だって、自分から人を傷付けたり、俺たちに傷付けさせたり、しなかったんだ。


 生きてさえ……この世に存在し続けてさえいれば。

 いつか良かったと思える事だって、あるはずなんだ。


「ドラコン。俺、お前の事、嫌いだわ」


 人の命を、無意味に奪い去ろうとするような奴は。


「だからお前、俺の敵だ」


 決めたんだ。

 先代に、あの時は知り合いでも何でもなかったキングスから救われた時に。


 一緒にいたゴストンを助けたいと思った時に。

 先代から頭領を継いだ時に。


 ナイアに生き返らせて貰って、他の奴等の命も取り戻して貰った時に。

 いつだって決意を新たにしてたんだ。




 雑魚い俺が、自分の命を諦める事になっても―――仲間の命だけは、最後まで諦めないって。



 

「俺が死ぬだけでお前を殺せるなら、ルラトが無駄死にするよりそっちの方が良いだろ?」


 ナイアを守るなら、ルラトの方がよっぽど安心だ。


 正直、自分の事しか考えてないドラコンにちょっとでも自分が似てるの、ムカつくし。


「コープ様ぁああああああああああ!!」

「じゃーな、ナイア。逃げろよ」


 俺は、背後の絶叫に目を向けなかった。

 拳の中に爆弾を握り込んだ爆弾を、ちらっと皆に見せてから腕を振り上げると、ドラコンが顔色を変える。


「お前、ふざけ……!」

「超本気だし」

「使えば、俺だけでなくナイア達まで吹き飛ぶぞ!? そ、それにゲルミルの邪気を取り込んだ俺が死ぬ保証は……!!」

「なら、ナイアが吹き飛んだ後に、アブホース伯爵がお前を殺すな。その前にあいつらなら逃げると思うけど」

「―――!」


 言い合いながら邪気を放ち、ドラコンは俺の腹から手を引き抜いて逃れようとするが、無駄だよ。

 このフレッシュゴーレムの体は、ナイアが俺の死体を元に作ったんだ。


 この肉体を滅ぼそうと思うなら、神を滅ぼせるナイア以上の邪気がいる。

 ゲルミル・ゾンビを操るために、そこそこ邪気を使っちまっただろ?


「ルラトじゃなくて、お前が死ね」


 俺もろともな。


「やめ……!」

「うらぁ!!」


 俺は、ドラコンの顔面目掛けて左拳を叩き込んだ。


「ぐうぅ……う?」

「……なーんてな」


 叩きつけられた拳に対して両手で顔を庇ったドラコンは、爆発が起こらない事を不思議に思ったのか疑問の声を上げる。




 そんなドラコンの心臓を、俺は右に隠し持っていたナイフで正確に貫いた。




「―――!」

「本命はこっちだよ」


 俺のナイフには、銀を被せてある。

 気休めだが、ソロモンを相手にした時に死霊への対抗手段の一つとして準備していたものだ。


「ヴァンパイアを傷付けられるのは、銀の武器、って事くらいは、俺でも知ってる」

「バカな……こんな……」

「ショボいとか言うなよ。こちとら単なるC級盗賊だ」


 まぁでも、体はナイア製フレッシュゴーレムだからな。

 邪気によるドラコンの肉体強化を無力化出来りゃ、この程度は朝飯前だ。


 俺に、小手先の騙し以上の武器なんかねーよ!


「お……俺が、こんな奴にィイイイイィ……!!」

「良かったな。望み通り、お天道様の下で死ねたぜ?」


 心臓は弱点だって、ルラトが言ってたしな。

 巨神の力を取り込んで陽の光に強くなろうが関係ない。


 全身吹っ飛ばしちまったら、もし生き残った時にナイア達が分かんねーだろうし、ナイフの方が確実だ。


「ほら、似てると思ったのに、やっぱお前、俺とは違うわ」


 俺が仲間まで巻き込むような真似をすると思われてたなら、そっちのが心外だ。

 ……ゴストン辺りはやりかねないと思ってたかもしんねーけど。


 自分の体が、ドラコンがボロボロと崩れ落ちていくと共に自分の意識も遠ざかるのを感じながら、俺は満足した想いで目を閉じた。

 


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