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第28節:ナイアたんは友情に涙します。


「ゴルグゥルァアアアアアアア!!!」


 ヤケクソのような雄叫びを上げて飛び掛ったキングズだが、その動きは流石だった。

 悪鬼師団長のシュテンよりは遅いが、その分力のこもった豪腕の一撃。


 先代に対して振り下ろすが、先代はそれを片手のハンマーであっさり受け止める。


 ズガゴッ!! と音を立てて地面に亀裂が走るくらい地面に足をめり込ませた先代は、楽しそうに笑った。


「おお、やるな! 良い力だ!」


 そのまま逆の拳を握り込んで、先代は筋肉を膨張させる。


「うぬりゃぁあああああ!!」


 突風すら纏う一撃を、キングズはどうにか体を屈めて肩で受けた。

 メキィッ! と鎧の肩部分が陥没し、地面に跡を引きながら森まで吹き飛んだキングズは、木立に背中を叩きつけられて止まる。


 勢いを受けたキングズの胴回り以上の巨木がへし曲がって傾ぐが、キングズは跳ね起きた。


「野獣頂上決戦……」

「聞こえてるぞ、コー坊」


 足を地面から引き抜きながら頭領が言い、引き抜いた衝撃でさらに地面の亀裂が大きくなる。


「凄まじい頑強さじゃな」

『うぬぬぬぅ!! 素晴らしいィィィイ筋肉と筋肉のぶつかり合いなのでぁあああああある!!』


 感心するルラトに、大興奮のホテプ。

 先代を知っているゴストンと俺は特に何も感じないが、セクメトとジャンヌはぽかんと頭領を見ていた。


 そしてナイアは。


「あああ、やっぱり素晴らしいですわぁ……是非不死化してわたくしの死霊団に……!」

「元々バケモンみたいなおっさんをこれ以上強くするな」


 この上不死とかになったら、本気で闇の夫妻の領域に到達しても俺は驚かないぞ。

 あのおっさんは色々規格外過ぎる。


 いやここ最近、俺の周り規格外なヤツしかいないけど。色んな意味で。


「グググ、ならば、お前を目指して編みダしたこの奥義で……!」


 キングズは、どうあっても敵わない事を一合で、つうか最初から悟ってたっぽいけどさ。

 

 ゴゴゴゴゴ、と全身から闘気を放ちながらただでさえ巨大な肉体をさらに膨張させた。

 先代の一撃で亀裂の入っていた鎧が砕け散り、本来の獣の肉体が現れ、両手の斧にも闘気が纏わりつく。


 瞳孔が消えて目が赤く染まり、白金の毛並みが黒く変質して金の燐光を帯びた。

 コング・オブ・ダークネスの名に相応しい姿になったキングズは、両手の斧を振り上げて雄叫びを上げる。


「ほう、良いなエテ公! なら俺っちもいくぞぉ?」


 先代はふん、と全身に力を込めて自分も闘気を噴出すると、その勢いで上半身の服が弾け飛ぶ。

 ……うん、何度か見た事あるんだけど、何でズボンは吹き飛ばねーの?


「きゃああああああ!! 凄いですわあああああ!!!」

『真の!! 真の筋肉美が朕の目を射るのであるううううううううう!!!』


 うるせーな脳筋どもめ!

 てゆーかナイア、てめーは死霊が好きなのか筋肉が好きなのかハッキリしろ!!


「ぬぅぅ……ハンマァアアアアアアアア……ホールドォオ……ッ!!」


 先代が、全身に力を込めたまま両手でハンマーの柄を握り、肩に担ぐように構える。

 ハンマーヘッドに、全身から放たれた闘気が凝縮して輝き始めた。


 キングズが、カッと目を見開いて大きく跳躍すると、斧に纏わせた闘気が巨大な斧刃と化す。


「これが、今の俺に放ちうる最高の一撃ダ! ―――トマホォオオオオク・ヘルヘヴン!!」


 キングズの巨体から繰り出された烈迫の一撃は、狙い違わず先代を斜め十字に裂くように降り下ろされた。

 先代は迫るキングズに対して、左半身で踏み出すと同時に。


「豪腕・粉砕ィ……」


 右肩に担いだハンマーを、掬い上げるように跳ね上げた。




「ゴルバチョフゥゥゥゥ……ハン、マアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」




 闘気同士のぶつかり合いが、二人の間に均衡をもらたし。


「グルゥオオオオオオッ!」

「ふんぬぅぅぅぅ……!!」


 爆風と共に打ち勝ったのは、先代だった。


「どぉおおりやぁあああああああ!!」


 一撃を振り抜く先代に、両手の斧を砕かれて弾き飛ばされるキングズ。

 ハンマーを振り抜いた姿勢から静止して、先代はその巨体を追って宙を舞う。


「ごはぁ!」


 キングズは仰向けに地面に倒れ、なす術なく先代がその顔に振り下ろすハンマーを凝視し……。


「おっと、いかん」


 顔面を砕く寸前で、先代がハンマーをピタ、と静止させた。


「うむ、熱くなり過ぎて殺してしまう所だったわぁ。中々に骨のあるエテ公に育ったではないか!」


 ガッハッハ、と豪快に笑い再びハンマーを担ぎ上げた先代は、キングズに手を差し出した。


「認めてやろう! まだまだ俺っちの方が強いから、頑張って強くなれや!」


 安堵の息と共にキングズが体から力を抜いて、その手を取る。


「お前に勝てるまで、もっと精進ダな。強くなる為につきあってくれないダろうか」

「おおとも。あの別嬪さんが魔王になりたがってるらしいから、とりあえずあの子について行けや。俺っちは、大体夜ならワンサイート山の山小屋に居るからよぉ、いつでも来い!」

「わかった。手が空けば、お前とやり合いに行く事にする」


 こうしてガッチリと抱き合ったキングズと先代だったが、正直猿とおっさんの抱擁を見ても気持ち悪いだけなんだが……。


「友情……これが友情なのですわ……!!」

『うむ……筋肉美とは、滅ぼし合うものではなく高め合うものなのである……!』


 なんか感動してる脳筋コンビには、マジでため息しか出ねぇ。


 と、不意に。


 不吉な音が足元から響いてきた。


「なんだ!?」

「おっと、やり過ぎちまったかぁ?」


 ビシビシビシ、と先代が足をめり込ませた亀裂がどんどん広がって、崖全体を覆っていく。


「崩れるぜ? 逃げろよー!」

「ふざけんなあああああああああああああ!!」


 爽やかに親指を立てる先代に、俺が渾身のツッコミを入れた瞬間、足元の崖が崩れ落ちた。

 

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