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第21節:ナイアたんは決意します。


「いや本当に、何でこんな事になってるんだ……?」


 俺たち、一応魔王軍の部下だよな、と思うが、遠くに目を向ければ強大な龍が豆粒ほどの大きさの位置に、無数に飛んでいて。

 崖の上にいる俺たちの方角に向かって、進軍してきていた。


「肝の小さい小僧じゃのう。たかが邪龍の200や300、大した脅威でもあるまいに」

「大した脅威だろうが! カヨムー王都の軍勢でもあっという間に呑まれるわ! こっちはせいぜい20人だぞ!?」

「と言っても、所詮は地上の魔物じゃしのう」


 どこまで呑気なんだ、この骨野郎は。

 てゆーか地上の魔物ってお前、もしかして地下世界に行った事があるのか。


 この骨野郎の経歴が全く分からん!


「大体、こちらの戦力を見てよくそんな心配が出来るの。するだけ無駄じゃ」


 いや、そりゃそうなんだけどさ。

 実際にあれだけの龍を目の前にすりゃ誰でもビビるだろーが。


 俺が心の中で思いながらルラトが指差す背後に目を向けると、そこにティーテーブルを置いてのほほんと家族団欒にひたる連中の姿があった。


「中々壮観だねぇ、ヴーア」

「お茶の余興には丁度良いです事よ」

「あ、お父様、このクッキーとても美味しいですわ」

「そうかい? なら良かった。それ、僕のお手製なんだよね」


 あははと楽しげに笑いが弾けると、おこぼれに預かったゴルバチョフ盗賊団の連中も舌鼓を打っている。

 ゴストンが俺に目を向け、横に寄り添うセクメトとジャンヌに交互に食べさせて貰いながら、いつもの、むっつり顔で言った。


 爆ぜろむっつり野郎。むしろ滅べ。


「美味いぞ、コープ」

「アホかあああああああ!! 何!? 何でお前らまでノンビリしてんの!? ねぇ! バカなのか!?」


 そりゃそこにいる闇の一族は平気かも知れんが、ゴルバチョフ盗賊団の生身の連中はあの邪龍の鼻息だけで死ぬぞ!?

 フレッシュゴーレムの俺らだって死なないけど絶対熱いんだぞ!?


『ふふん、邪龍の筋肉も中々に勇猛であるが所詮は野生、朕の筋肉の方が美しいのである!』

「だからどうした!?」


 その筋肉を強調するポーズを取ればあいつらが見逃してくれるとでも言うつもりか! なら幾らでもやってやるわ!


「小僧、いきなりどうした?」

「ついに頭がおかしくなったようですね……」


 むっつりに骨。気色の悪いものを見る目で見るな。


「元々おかしかったが」

「というか騒がしいわねぇ。前の戦闘で全然目立ってなかった子よねぇ」


 黙れゴストンハーレム要員ども。お互いに足を引っ張りあってろ。


『ふふん、其方もようやく筋肉に目覚めたのであるか!』

「まぁ、コープ様が筋肉ゾンビになるんですの?」


 目覚めてねーしならねーよこの脳筋コンビがあああああああああ!!!


「あはは。やっぱり彼は面白いねぇ。ヴーア」

「誠に。見ていて飽きません事よ」


 ……………はっ!


 混乱から覚めた俺は両手で力こぶを作るポーズをやめて、改めてここに至った経緯に想いを馳せた。


※※※


 ネクロの都の宰相が魔王軍と内通していた……その激震に揺れるネクロの都の人々を横目に、俺たちは着々と準備を進めていた。

 装備一式を用立て、さて仲間を中に引き入れようかという段になって、ナイアの元へ魔王軍からの伝令が現れた。


 黒い烏の姿をしたそれが口にした言葉に、俺たちの間でも激震が走る。


「魔王様が……殺された……?」


 ナイアの言葉に、ただの伝令である烏は自分の要件を続ける。


 曰く、魔王を殺したのは、勇者ではない。破れた勇者が異界より招来した何者かである。

 曰く、その何者かは《光と創造の精霊》の巫女と共に、バラフラム聖王国へ向かっている。

 曰く、対抗策を講じるために、ネクロ南領占領軍全体での集会を行う、と。


 伝令を終えて烏が飛び去ると、ナイアは椅子に座り込んで呆然としていた。


 予定を変更して装備を町の外へ運び出し、ゴルバチョフ盗賊団改めナイア死霊団となった一行で南へ向かい俺たちは集会に参加した。

 集会では、魔王軍の主要師団長六人が壇上で着座し、妙な緊張感を撒き散らしていた。


 最強竜種バハムートから化身した龍眼の男、邪龍師団長・ゼロシキ。

 人の大魔導師が永遠を求めてリッチ化した、呪詛師団長・マトリホ。

 鬼族の中でも稀にしか生まれない黒鬼たる、悪鬼師団長・シュテン。

 地底世界から来たという巨人族を率いる者、巨人師団長・ゲルミル。

 黄金よりも高位の、白金の毛並みを持つ猿、魔獣師団長・キングズ。

 そしてナイアの上司であるヴァンパイア種、不死師団長・ドラコン。


 ……ま、緊張感に溢れる婉曲な話し合いをしていたんだが、俺にはイマイチ理解出来なかった為、ルラトに要約して貰った結果。


 魔王シャルダークが死んだから、次の魔王を決める為に、バタフラム聖王国滅ぼした奴を次の魔王にしようぜ、という事になったらしい。


「えらく単純だな」

「その単純な連中の会話すら理解出来なかったのはおぬしじゃがな」

「うるせーよ骨野郎」

「小僧。人に教えを請うておいてその態度はなんじゃ」


 ごぶるぁああああ! おま、肋骨の隙間は反則だろ! 身動き出来ないし声すら出ねぇ!!


 魔王軍の連中がうじゃうじゃいる前で痴態を晒さずには済んだ俺とナイア達は、集会を終えた後、すぐに魔王軍の根城を出た。

 いやだってさ、ナイアにちょっとぶつかったスケルトンナイトがホテプに軽く頭を叩かれたら消し飛んでさ。


 纏ってんのは聖気だし、結構実力者のスケルトンナイトだったみたいで周りの視線が滅茶苦茶痛かったんだ。

 とりあえず野宿しながらの話し合いで、ナイアが静かに言った。


「……魔王軍を、止めますわ」

「は? 何で?」

「それも先回りして真っ向から、全軍叩きのめします」

「だから何で!?」


 どういう事だこの女、もしかして自殺志願者なのか!?


「それは構わんがの、ナイア嬢」


 いや構えよ骨野郎。超構え。

 どう考えてもあっさり呑み込むような事じゃねぇだろ。


「何の為じゃ、というのは、小僧同様に興味があるのう」

「あら、ルラト」


 まるでルラトがおかしな事を言ったかのように、ナイアが微笑む。


「聖王国を滅ぼすだなんて、許せませんーーー」


 その言葉に。

 ついに、ナイアが聖女の自覚に目覚めて人類の為に立ち上がろうとしているのか……と思ったが。




「そんな軟弱なやり方ではなく、実力行使でわたくしが魔王になるのです!!」




「そっちかああああああああああああああああ!!!」

 

 一瞬でも期待した俺がバカだったああああああ!!!


「ちょっと待て! 王国一つ滅ぼすのが軟弱って!?」

「軟弱ですわ。数で滅ぼすなんて簡単な話ですもの」


 あっさりとナイアが言い、ス、と立ち上がった。

 スリットから見える足は相変わらずの美しさで、胸元に聖布を巻いた手を当てるその立ち姿と相まって最早芸術レベルだ。


 題名は『傲岸の聖女』だな、うん。

 そんな現実逃避気味な事を考える俺に対して、ナイアは続ける。


「大体ですわ、わたくし、魔王様からいきなり不死師団の長には出来ないから死霊術士として一度ドラコン様の配下に入れと言われましたの」

「ああ、うん」


 そんな事情は知ったこっちゃないけども。


「つまり……魔王様がいないなら、あの六大師団長とかいう連中に従う義理も何もないのですわ。わたくしを死霊術士と認めて下さった魔王様の配下なら、不死師団長でも良かったのですけれど……」


 優しげな容貌に邪悪な微笑みを浮かべて、ナイアが告げる。


「魔王様がもういない訳ですし、どうせなら一番上の方が気分が良いでしょう?」

「知るかそんなもん! ふざけんな!」

「まぁコープ様。ふざけてなどいません。わたくしは大真面目ですわ!」

「なお悪いわあああああああああ!!!」


 お前、自分が何言ってるか本当に分かってんのか!?


 あのすんげー気配を放ってた師団長を全員倒して魔王になるって事だぞ!?

 いや流石に自信過剰過ぎるだろ!!


 しかしそんな俺の心配をよそに、声を上げたのは野宿先の外から現れた人物だった。


「あはは。ナイアは魔王になりたいのかい? 良いじゃない、ねぇ、ヴーア」

「面白そうですことね。協力します? あなた」

「いいねー。やろうか」


 そこに立っていたのは、SSS級の勇者夫妻、即ちナイアの両親だった。

 ってあんたら何でここに居るんだ!?


「魔王だと……ナイア、やはり貴様は邪悪……いやしかし今はそれよりもゴストン様! 何でその女と引っ付いているのですか!」


 二人の背後から現れたジャンヌは、出てきて早々にゴストンの方へ突撃していく。

 いやゴストン様って。


「あの子がゴストンがいないって屋敷の前で大騒ぎしてたから連れてきたんだけどさー、来てみたらナイアがおねだりしてるから」


 魔王の地位を欲するのをおねだりで済ますな。


「ねぇ、死霊術士になりたいという以外はほとんどワガママも言わないナイアでしたのに。親として一肌脱がねばなりません事よ」


 だから止めろよ! 親だろ!? 親だよなあんたら!!

 娘が魔王って本当にそれで良いのかよ!!


「まぁ、協力して下さいますの!? お父様。それにお母様!」

「良いよー」

「任せておきなさいな」


 アブホース伯爵は装備を用立ててくれた時のようにあっさりと、ヴーア夫人は微かに笑みを浮かべながらそれぞれ頷く。


「……ま、余裕じゃの」


 喜ぶナイアを見ながら、最後にルラトが呟きに。

 何だろう、絶望的な戦いに挑もうとしていた筈なのに、なんか向こうが哀れに思えて来たな……。

 


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