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第19節:ナイアたんは制裁します。


「対抗手段がないって、どういう意味だよ?」

「近接しか攻撃手段がないのはともかく、聖女ならば、聖結界くらいは張れるのでは?」


 俺とゴストンは口々に言った。


 聖女という職は、防御、補助、回復に優れた職種だ。

 正直結界張って突っ込めば、S級聖女ならあの程度の攻撃なら無効化出来るだろう。


「うむ。呪詛球というのは、非実体……炎や氷などの現象を伴わないもので、確かにおぬしらの言う通りなのじゃが」


 ルラトは、コリコリと頬を掻いた。

 そんな俺たちの前で、戦場のナイアが焦ったように顔を歪める。


「くっ……マズいですわ……闇属性の攻撃は、死霊術の結界では防げませんわ!」

「という訳じゃ」

「アホかああああああッ! お前聖女だろうがああああああああああああああッ!!」


 俺は思わず全力でツッコんだ。


「マジか! いやマジか!? この後に及んであり得ねえだろ!」


 あの女、勘違いにも程ってもんがあるだろ!

 頭おかしいんじゃねぇのか!?


「まぁ、ナイア嬢が頑なに自分を聖女だと認めんのも確かにそうなのじゃが」


 ルラトはわなわなと震える俺の肩に手を置いた。


「実際にの、ホテプを憑依させておる間は結界を使えん事情もあるのじゃ」

「何でだよ」

「S級だからじゃ」


 再びソロモンに襲い掛かったナイアが、半分程度の死霊の群れを吹き散らしたところで再び呪詛球の攻撃を受けて後退する。


「聖女の結界は、基本は浄化結界じゃ。その特性は聖域を作る事であり、魔術士と違って防御を主眼としたものではない」

「知ってるけど、それがどうした!?」

「分からぬか? ホテプは聖属性の存在ではあるが、霊体じゃ。S級聖女の結界にはの、昇天効果がある。属性に関係なく魂魄を昇華する能力がの」

「ホテプは聖霊だろ!? そもそも実体がない霊存在なんだから昇天もクソもねーだろうが!」

「ところが、奴は古の王じゃ。聖霊と『成った』だけで昇天して招来された訳ではない。つまり奴は、本質的には未だ死者の魂なのじゃ」

「ややこしい事せずに一回昇天させとけやあああああああ!!」


 死霊術士と言い張る聖女、暗黒剣を使えない暗黒騎士、聖結界で昇天する聖霊って欠陥品ばっかりか!


「ま、仕方ないの。ちょっと手助けをするかの」


 のっそりと前に出たルラトが、ナイアに声を掛ける。


「ナイア嬢。雑魚を散らすでの。少し下がって聖気で後ろの軟弱どもも守って欲しいのじゃが」

「ですがルラト。それは少々卑怯な気がいたしますわ!」

「何が卑怯じゃ。あっちも死霊を使っておるじゃろ。少しくらい我が手助けしたところで何の問題もあるまいて」

「……分かりましたわ。ルラトはわたくしのスケルトンですものね!」

「英霊じゃ」


 ナイアが飛び下がって俺とゴストンの前に来ると、体の表面だけを覆っていた聖気を俺たちも覆うくらいに大きく広げた。


 おお、聖気の圧でナイアの服の裾がたなびいて、白い太ももがちらちらと!

 く、これはこれで良いっ!


「なんぞ懸想の気配がするの。後で折檻じゃ、小僧」

「べべべべ別に何も考えてねーよ!」


 後ろに目でもついてんのか、この骨野郎!

 俺の焦りをよそに、さらに死霊の数を増やしたソロモンがルラトに言う。


「グググ。スケルトン一体で何をするつもりだ?」

「何、ちょっとした事じゃよ。力がさっぱり足らん故、ジャンヌ嬢とおぬしら隊長クラスには特に害はないじゃろうが……」


 ルラトは軽く手を掲げると、ゆらりとその背中から赤いオーラが立ち上る。

 

「ま、雑魚い死霊どもくらいは滅ぶじゃろ」

「何……?」


 ルラトが腕を軽く振ると、赤い光がソロモンと死霊を覆うように走り。




 直後に、凄まじい瘴気が濃密な闇となって戦場を覆った。




 思わず背筋が怖気立つような禍々しい気配と共に、闇の中で死霊たちのオオオォォォォ……という苦痛の呻きが聞こえてパタリと止む。

 闇はすぐに晴れ、現れたのは地獄の光景だった。


 丘の大地が毒された沼と化してごぼり、ごぼり、と泡を立て、木で出来た処刑台が腐り落ちて残骸になっている。

 白い毒の煙がその沼からこんこんと立ち込め始め、浅い沼の中にはスケルトンやゾンビの肉片が散らばっていた。


「な、何をしたんだ……?」

「我の封じていた瘴気をほんの少し解放しただけじゃよ。この場にしばらくの間、人の魂は近づかん故、ゾンビもスケルトンももう作れんじゃろ。彷徨う魂魄すらもが、今以上の苦痛に苛まれる事を理解する虚無の瘴気放ったからの」


 って、軽く言ってるけどこの骨野郎、どう考えても人間の使うようなレベルの瘴気じゃねぇだろ、それ。

 

「この場にあった魂は、恨みはないが呑ませてもろうた。ほっほ、骨が締まって少し体が重くなったわい」


 言われてみればルラトの骨のくすみが、俺の生気を吸った時よりもさらに薄くなり、白く艶めく骨の部分が増えている。

 やっぱり恐ろしい骨野郎だ。お前が聖属性の英霊とか絶対嘘だ。


「さ、ナイア嬢。もう良いぞ」

「助かりましたわ、ルラト」


 呆然としているソロモンを前に、ナイアとルラトがすれ違いながら軽く手を打ち合わせる。


『ようやくタイマンである! ふふん、少し物足りん筋肉の霊であるが、存分にその美を競い合おうぞ!』


 ホテプが生き生きとその体躯を膨れあがらせるのに、ソロモンの背後の邪霊は怯んだようだった。


「なんなの、あれぇ? どう考えてもただのスケルトンじゃないでしょぉ?」

「ナイアめ……やはりあの女は邪悪! 早急になんとかせねば!」


 セクメトとジャンヌも手を止めて、ルラトを見ていた。


「骨野郎……お前戦えないとか嘘か!」

「失敬な小僧じゃの。手品レベルの芸ではないか」

「どこがだ! 大地が死にかけてるレベルだろうが!」

「本調子ならネクロの都ごと滅んどるわい」


 ほっほ、とどこか気分良さげに言いながらルラトが俺のデコを小突いた。


「グォハ! 何しやがる!」

「先ほどナイア嬢に懸想しておった分じゃ」


 どうでも良いことは覚えてる骨野郎め。

 それ以上小突かれるのは嫌なのでナイアに目を向けると、ナイアはソロモンの目の前に立って、スゥ、と軽く拳を上げた。


「では、行きますわね」


 その右拳に聖なる輝きが宿り、ナイアがにっこりと優しげな微笑みを浮かべて体を捻る。


「ま、ま!」

「待ちませんわ」


 ナイアと同時に、ホテプも同じ姿勢で体を捻ると、ソロモンの邪霊が慌てたように両手を前に突き出してブンブンと振る。


『ゆくぞナイア!』

「ええ」


 二人の体が、弾かれたように回転し。


「『制ィ、裁!!』」


 全く同時に、ソロモンと邪霊の顔にそれぞれの拳を突き刺すと、聖気が炸裂した。

 眩い輝きの後に残ったのは、元のハゲに戻った宰相のみ。


 その体もぐらりと倒れると、足元で湯立つ毒の沼に沈んでドロドロと溶け崩れた。


「さ、おしまいですわ」


 ナイアは身を翻し、俺たちに向かって晴れやかな顔で手を振った。

 

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